第11話 メイドの朝は早い??

メイドの朝は早い。

まだ日が昇らぬうちから起きだして、湯浴みを行う。

夜番以外のメイドたちが一斉に湯浴みをするのだが、この屋敷の風呂場はそれを想定して広く作られているため、さほど問題はない。


朝の時間は貴重なため、メイドたちはお互いに身体を磨きあって時間短縮に努める。

お風呂から上がれば、朝のミーティングだ。

バックヤードの広間において、夜番のメイドたちからの申し送りを受けた後、メイド長のサリーから注意事項を申し渡される。

通常であれば、普段と変わりない注意事項を受け、そのまま日常業務へと移るのだが、稀に急な仕事とか、配置換えなどが行われることもある。


夜番のメイドたちは解散の後、湯浴みをして就寝し夜に備える。

朝番と夜番は、何か問題がない限り3日交代だ。

夜番から朝番に切り替わる日は、そのまま寝てしまうと夜寝られなくなるので、大抵の人たちはそのまま起きていることが多く、その時間が唯一の「非番」となる。

かなり無茶な勤務形態だと思うが、この屋敷で働いている者たちは、メイド長のサリーと執事長のセバス以外は皆奴隷なので全く問題がない。


そして、朝番のメイドたちは、それぞれ与えられた役割へと散っていく。

食事係は、料理長の手伝いと食堂の清掃、飾りつけなどを手分けして行い、清掃係は玄関や客間など、日中人通りの多い処から順に清掃していく。

そしてリチャード様の身の回りのお世話をする者は、頃合いを見て部屋の中へ入っていく。

そして、リチャード様の隣で寝ているメイドに声をかけ、リチャード様を起こすように伝える。

稀に、リチャード様が昨夜の当番だったメイドと、そのままお楽しみに興じる場合がある。もしくは部屋に伺った時に既にお楽しみの最中だったこともある。

その場合は、事が終わるのをじっと待つ……たまに、リチャード様に求められることもあるので、その場合は求められるがままにリチャード様を喜ばせるのだ。


そして、当番のメイドが下がり、リチャード様が食事に行った後、リチャード様の部屋を整える。


ベッドに洗浄魔法をかけ(誰でも使える魔道具が常備してある)シーツを新しいものに変えてベッドメイキングをした後、床に残っている昨夜のお楽しみの後始末を含めて部屋の掃除をする。そしてシーツ他洗濯物をそれらの作業をするメイドたちのところへ運ぶ……これをリチャード様が食事を終えるまでに行わなければならない。


その後は、リチャード様のお部屋の片隅で控えていて、状況を見てお茶を出したり、用事を言いつけられてこなしたり、と常にお傍に居るのが基本となる。

リチャード様が夜の食事に行っている間に、夜番のメイドに申し送りをして交代し1日の仕事が終わるのだ。


「……つまりですね、リチャード様付きの当番が一番ハードなのですよ。なのにこんな時間まで付き合わせて……ご主人様は鬼ですかっ!」

私はメイドちゃんを背後から支え、その足を大きく広げさせながらそう訴える。

このメイドちゃんは、今日のリチャード様付きだったのだが、下がろうとしたところでリチャード様が呼び止め、そのまま夜伽相手に指名されたのである。

「いや、そんなこと言われてもなぁ。」

そう言いながらもリチャードの手は止まらず、愛撫されているメイドちゃんはか細い声で、ぁんぁんと喘いでいる。

「大体、女の子は、身綺麗にしたりと何かと準備が必要なんですよ。それなのにいきなり仕事終わりにそのままなんて酷すぎですっ!」

「別に、シズネに相手しろとは言ってないからいいだろ?それとも相手してくれるのか?」

「この娘を存分に可愛がってあげてください。」

そう言って、さらに足を広げさせ、リチャード様が挿入しやすい位置へと調整する。

いきなりの手のひら返しに、メイドちゃんが涙ぐむが、仕方がない。誰だって自分の身が一番可愛いのよ。


「ところで、近々新しい方を招き入れる予定はありますか?」

「ン、どんなのが必要なんだ?」

腰を振りながらリチャードが答える。

「そうですね、魔道具の製作のために、出来るだけ手先が器用な方を……「創作」や「細工」などの加護かスキルを持っている方だと申し分ないのですが。」

「ん?庭師のベンが確か「大工」持ちだったはずだが、それじゃダメなのか?」

リチャード様の腰の動きが早くなる。

最近では、こうしてお楽しみの最中に仕事の会話をすることが多いため、後で、夜伽を命じられたメイドさん達から文句を言われる。

けど、仕方がないじゃない。ご主人様の意向なんだもの。

私だって何が悲しゅうて、他人が喘いでるところで仕事の会話をしなきゃなんないのよっ!って声を大にして言いたいよっ!


まぁ、リチャード様の、私をその気にさせようっていう姑息な手だと思うんだけどね。

そんな手には乗らない……と言いたいけど、ねぇ……私だって、その……。

結局、後でこっそりとプリムちゃんと慰めあったりしていることは内緒だ。


それはともかくとして、最近、私の立場が微妙になりつつある。

朝起きてから、リチャード様に呼ばれ、食事をともにしながらの打ち合わせ。

その後は、リチャード様と共に、執務室で一緒にお仕事。

夜は、リチャード様がお楽しみの間、お傍でリチャード様の代わりに仕事をしたり、女の子を慰めるところをリチャード様にお見せしたりする。

そして夜半過ぎにようやく解放……はっきり言ってメイドの仕事をしていないのだ。


まぁ、日中ずっと一緒にいるため、リチャード様付き当番が少し多めに休憩が取れる、という事はあるけどね。


メイドの仕事もせず、リチャード様にべったり、そして、夜伽の様子をずっと見られている……そんなんだから、他のメイドさん達から不満の声が上がるのは仕方がないよね。


そんなことを愚痴った翌朝……


「……という事で、あなたをメイドの仕事から外します。」

メイド長のサリー様からそう告げられた。

「えっと、じゃぁ私は何をすれば……。」

「今までと変わりませんよ。あなたは今日から『執務補佐官』として働いてもらいます。」

なんか偉そうな役職を賜ったけど、やることはリチャード様のお手伝い、そして所詮は奴隷なので立場が変わることもない。ただ責任だけが増えたようなものだった。



「ということで、執務補佐官なる役職を頂いたのですが……。」

私は、さらに山になった書類と格闘しながら呟く。

「あぁ。ある程度の裁量を与えてやったほうが、そなたも動きやすいであろう?」

「まぁ、そうなんですけどね……。」

「ほら、補佐官ならこちらの案件も任せられる。」

そう言って、私の目の前にドサッと書類を積み上げる。


「私は、これから視察に出るから後は頼んだ。」

そう言って、リチャード様は部屋を出ていった。

視察っていう名の、お忍びのお遊びだよね、絶対。

……まぁ、私の目からみても、リチャード様は余裕がなかったから、遊びに行くぐらいいいんだけどね。

それに、私の立場は奴隷なのだから、仕事を押し付けられても文句言えないし……。


「はぁ~、仕事するかぁ。」

私はとりあえず、リチャード様の寝室のシーツを取り替えてベッドメイキングをする。

なんでそんな事するかって?

私がリチャード様に付いているなら、お付きのメイドは必要ないでしょ?とサリー様に言われたからだ。

つまり、私が専任でリチャード様の身の回りのお世話をすることになったわけで……。

……仕事だけが増えてるよっ、チクショウっ!





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る