第6話 奴隷オークション

「本日最後の目玉商品です!この地には珍しい、黒目、黒髪の異国の少女!もちろん処女であることは鑑定済ですっ!しかもっ!加護持ちですっ!どのような加護化はこの場では申し上げません。お買い上げの上自らの眼でお確かめ下さい。ただ、この少女の持つ加護は、非常に珍しく、希少価値であることは補償いたします!では最低価格銀貨1枚から……どうぞっ!」

司会が旗を振った途端、


「銀貨1枚と小銀貨3枚!」

「銀貨2枚だっ!」

「クソっ、銀貨2枚と小銀貨1枚!」

「クゥッ、ならば銀貨2枚と小銀貨2待ちと銅貨5枚だ!」

「なにぃっ、だったら銀貨2枚と小銀貨……。」


激しい競り合いが続くのだが……。


……おい、そこの、釣り上げるなら銅貨単位じゃなくて、せめて小銀貨単位にしなさいよっ!


激しくやり合っている割には、銅貨1~2枚での競り上げの為、現在の私の価格は銀貨5枚に満たない。

……高々5~6万円で私を売る?ふざけるんじゃないわよ!


『ふざけんなぁぁぁっ!』


気づいたら私は叫んでいた。


「銀貨?小銀貨?ふざけんじゃないわよっ!私が欲しいなら金貨100枚は出しなさいよっ!」

金貨100枚、日本円換算で1億円だ。

年収300万という低賃金でも、大学を出てから定年まで働けば、1億を超えるのだ。……ってあれ?だったら金貨100枚じゃ安すぎるかも?

……まぁいいわ。人の一生を買うなら最低でもそれくらいは出しなさいってことよっ!


私の言葉に、客席が静まり返る。

そして、一人、また一人と会場から出ていき、残ったのはエラそうな態度のイケメンとその従者らしき男のみとなった。


「あ、あのぉ、リチャード様?」

司会の男が、媚びるようにイケメン男に声を掛ける。

「クックック……面白い、あの娘買おうじゃないか。」

「そ、それではっ!」

「しかし、あの娘一人で金貨100枚は暴利だと思わぬか?」

「そ、それはもう……。」

「だったら……わかるよな?」

「ハイ、すでに購入されている商品とまとめて、という事で、ハイ……。」

「後、娘たちに似合う服もだ。」

「ハイ、それはもう、極上のモノを……。」

「よかろう。ではいつものようにな。」

リチャードと呼ばれたイケメンは、従者に何か言づけると、そのまま会場を後にした。


「はぁ……心臓が止まるかと思いましたよ。でもまぁ、お前のおかげで、思わぬ大商いとなりました。感謝しますよ。」

司会の男は、そう言って近くに控えていた女性に何やら耳打ちすると、リチャードの従者と共に何処かへと去って行った。


遺された私は、その女性に引き攣られて、別室へと案内される。

そこには、さっき舞台の上で見た女の子が3人いた。その内の一人は、さっき小金貨5枚の高値が付いた10歳の娘だ。

彼女たちは、女性従者たちによって、丹念に磨き上げられている最中だった。


……ウッ、みんなお胸が……。

おそらく、リチャードに代われたであろう女の子達。

年の頃はそう変わらないと思うのだが、発育がいい。

15~16に見える二人はE……いやFカップはあるだろう。10歳の女の子でもたぶんCカップ……。

対して私は……。

ワンピースを剥ぎ取られ、裸にされた自分の胸元に視線を落とす。

……うん、床が見えるよ。

一応向こうではギリギリCカップあったはずなのに、今の私はなんとかBカップってところ。

……10歳の少女に負けてるぅ……。

あまりにもの残念さにポロリと涙がこぼれる。


「……気を落とさないでね。リチャード様は良いご主人様よ。」

私が零した涙の訳を、別の事と誤解したのか、女性従者が、優しく声を掛けてくれる。


女性従者は、私を元気づける為か、色々話をしてくれる。

今身体を磨いているのは、奴隷といえどもリチャード様のお傍に侍る為には身ぎれいにしていなくてはならない。だから、今後も湯浴みと肌のケアは欠かさないように、と、その際に気を付けることなど、色々教えてくれる。

また、基本的に買われていく女性は、ハウスメイドとしてリチャードの身の回りの世話をするのだとか。

勿論、その『身の回りの世話』の中には夜伽も含まれるらしいが……。


「リチャード様は、その……お胸にただならぬ執着が……。まぁ……頑張って。」

私の胸から視線をそらすようにしてそう告げる女性従者さん。

彼女も立派なモノをお持ちである。

……ハイハイ、おっぱい星人って事ね。誰が頑張るかっ!コンチキショウ!


女性従者さんの話では、この後、衣装を着せられ、食事を終えてから、馬車に乗せられて、リチャード様の別宅へと連れていかれるのだとか。

別宅はここから馬車で10日程の場所にあるらしく、そこに着くまではここにいる女性従者たちが世話をしてくれるとのこと。

何故、奴隷に対してそこまでするのかと訊ねたら、簡単に言えば、館に着くまでに大事な『商品』が汚れては困るって事らしい。


「リチャード様の所までは、ちゃんと、無事に届けるから安心してね。」

女性従者はそう言ってくれるけど、……安心なんかできるわけないよね?



「……はぁ……。」

ガタゴトと馬車に揺られながら、私はもう何度目になるか分からないため息をつく。

「シズ姉、暗いよ。」

そう言いながら膝に乗ってくるのはアリサちゃん。例の10歳Cカップの娘だ。

馬車に揺られてはや3日が過ぎた。私は、この旅の間で、他の女の子達とそれなりに仲良くなった。

特に仲良くなったのがアリサちゃん。

うん、アリサちゃんは癒されるよぉ。

私は、膝の上に乗ってきたアリサちゃんをギュッと抱きしめ、頬をすりすりする。

この3日間、幸先不明な不安に押しつぶされずに済んだのは、アリサちゃんがいてくれたからといっても過言ではない。

私が不安そうにしていると、いつもこうして傍に来て慰めてくれるのだ。


アリサちゃんは7歳の時に、姉と一緒に奴隷に堕とされたのだそうだ。

「奴隷生活の先輩だよ」と明るく言うアリサちゃんの健気な姿に、思わず涙ぐんだ。

そんなアリサちゃんの前のご主人様というのは、お世辞にもいい人とは言えなかった。

気分次第で奴隷に暴力を振るうこともあったという。

そんな時いつも庇ってくれたのが姉であるヒルデガルド……ヒルダであり、そんな姉が一緒だから頑張ってこられたのだという。

そして、半年ほど前、アリサとヒルダのご主人様だった貴族が常日頃行っていた悪事が明るみになり、その貴族家は御取潰し、使用人たちは奴隷共々離散することになり、ヒルダとアリサも奴隷商人に売られたのだという。


「こらぁっ!あんたのお姉ちゃんは私でしょっ!」

私がアリサちゃんをすりすりしていると、向かいに座っていたヒルダに取り上げられる。

15歳にしてFカップという立派なモノをお持ちのヒルデガルドさん。

あの奴隷商人は、商売の内容の割には人が好いらしく、ヒルダとアリサが別々に売られないように、色々気を配ってくれていたらしい。

だから今回も、ヒルダ、もしくはアリサを購入の場合は漏れなくもう一人ついてくる、後程別個で売ることはできない、という契約内容になっていたらしい。

その為、アリサちゃんもヒルダも、相場より安めの価格からオークションが始まったとのこと。

とは言っても、結局リチャード様が私を含めてここにいる4人を金貨100枚で勝ったということになっているから、一人当たり金貨25枚……相場よりはるかに高い買い物だったと、女性従者さんが苦笑しながら教えてくれた。


「まったくもぅ、あなたのお姉ちゃんは私っ!」

そう言いながらギュッとアリサを抱きしめるヒルダ。

幼いアリサを護りながらの奴隷生活は、きっと想像を絶する辛さなのだろう。

それをアリサの存在が支えてくれたと思えば、シスコンになるのもしょうがない。

しょうがないのだが……。


「うぅ、私の癒しぃ。」

「我慢しなさいっ!後で貸してあげるからっ!それまでプリムで我満氏てなさい。」

そう言ってさらにギュッとするヒルダ。

後で、というあたり、彼女の優しい気質が伺える。


「うぅ、プリムちゃぁぁん。」

私が隣の女の子に抱きつこうとすると、さっと身をかわされる。

「そんな代理品みたいな扱いで悦ぶ人がいると思ってるんですかっ!」

そう言ってプンプンと頬を膨らますプリムラ……プリムちゃん。

最初見た時は15か16歳に見えたのだが、なんと、12歳だという大人びた少女。

しかも、Eカップという年に似合わぬ胸部装甲をお持ちの少女だ。

リチャードがいくつか知らないけど、おっぱい星人でロリコンってヤバすぎるよね?


「代理品じゃないよぉ。アリサちゃんはハグ要員で、プリムちゃんはパフパフ要員。」

私はそう言ってプリムちゃんを捕まえ、その胸に顔を埋める。

狭い馬車内では逃げることなどできないのだ。

「はぁ……このフカフカ……癒されるぅ。……グゥ……」

「ちょ、ちょっと、シズネさん……ってもぅ寝てるしぃっ!」


お姉ちゃん気質で世話やきたがりのヒルダに、意外としっかりしているみんなの妹、アリサ。

表情は乏しくクールぶってるけど、単に表現の仕方が分からないだけのプリム。

この3人が私と一緒にリチャード様に買われた奴隷。

いわば「同僚」になるのだろうか?

できれば、お互いに助け合っていけたらいいんだけど……。


これから先の不安を必死に抑え込みながら窓の外を見る。

リチャード邸迄は、もうしばらくかかるようだ。

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