第5話 奴隷落ち!?
「えっと、……なんで、こんな事に?」
今私は薄暗い地下室に捕らえられていた。
逃げ出したくても、首には「隷属の首輪」という、身体の自由を奪う魔道具を付けられているため、逃げ出すことが出来ない。
いや、正直に言えば、逃げようとすれば逃げることは可能なのだが、突然の出来事に呆然自失としていたため、そこまで頭が回らない。
『だから言ったニャ……。』
姿を現さずセレスの声だけがシズネの頭の中に響く。
「だって、美味しいご飯食べさせてくれるって言ったんだよっ!みんなついていくよっ!」
『いやいやいや、普通はついて行かにゃいにゃん。』
呆れたようなセレスの声。
「だってぇ……。」
自分でも思っていた以上に沈んだ声が出たことに驚く。
最強だと思っていた自分の力が、役立たずだと知らされたあの後、私はとぼとぼと街中を当てもなくさまよっていた。
「……お腹空いたなぁ。」
そう、いくら落ち込んでいてもお腹は空くのだ。
そして、周りの屋台からは、食欲を刺激する、悪魔の囁きにも似た、よい香りが鼻腔を……というか食欲をダイレクトアタックしてくる。
「うぅ……お腹空いたよぉ。」
私が呟いた時、丁度、目の前にいた3人組の男達が声を掛けてくる。
「嬢ちゃん、さっき迄ギルドにいただろ?よかったら話を聞かせてくれよ。飯奢るからさ?」
ニヤニヤ笑いながらそう言って私の周りを取り囲む男たち。
「あそこのカフェで一番高いもの頼んでもいい?」
しかし私は動じずにそう答えると、男たちは虚を突かれたように戸惑う。
「えっ、あっ、別にいいけどよ……いいのか?」
男の言葉にコクンと頷く。
男は、まさか私が素直に応じるとは、思ってもみなかったのだろう。
逃げ道を塞ぎ、路地裏にでも連れこもうと思っていたのかもしれないが、あっさりと誘いを受けた私に戸惑いを隠せないでいる。
「どうしたの?早く行こうよ?」
そう言ってスタスタと歩きだす私の後をついてくる男3人。
……うんうん、タダ飯ゲットだよ。
男達の魂胆は言われるまでもなくわかっている。こう見えても私は、ナンパされる率90%越えの猛者なのよ?
学校帰り、休日のショッピングモール、商店街などなど、私が一人、もしくは友人と歩いていれば、ナンパ目的の男達が釣れるわ釣れるわ……。
ゆう子やあずみの今の彼氏は、そうやって私を釣ろうとした男達だったりする。……彼女らは「私をナンパしてきたから付き合ってあげたの」などと言っているが、最初の狙いは私だったことは間違いない。
そんな私だから、こういう時の対処法も十分心得ている。
自分一人では絶対注文しない様な、お高いモノをお腹いっぱい食べつくした後、「ちょっとお手洗いに」といって席を外す。
戻ってきたらどこに連れ込もうか?などと下卑た想像をする男達を放置して、裏口やトイレの窓などから店外へ脱出するのだ。
食事を奢ると言い出したのは相手の方からだし、食事の後まで付き合うとは言っていないから、文句を言われる筋合いもない。
だから今回もそうして席を外し、裏口から脱出しようとしたのだが……。
「わわっ、なにっ?」
お店を抜け出したところで、私は突然、頭から大きな袋のようなものを被せられ視界を奪われる。そしてそのまま袋に詰められ、何処かへ運ばれ……ようやく解放されたのは、この地下室だったというわけだ。
◇
「えっと、コレって……奴隷……だよね?」
私は首に装着された首輪に触れながらそう呟く。
衣服も剥ぎ取られ、いま身に纏っているのは、ノースリーブの薄いワンピースみたいなもの1枚だけ。
「あの男、私の裸見た……絶対お金むしり取ってやるっ!」
私がここに連れてこられ、着替えさせたのは女性だったけど、その一部始終を男がニヤニヤしながら見ていたのだ。
パパも言ってたもんね、「肌をタダで見せるようなバカなことはするな。見せるなら金をとれっ!」ってね。
『アンタのパパって……はぁ、まぁいいわ。私のデーターベースを検索した感じ、この状況は『奴隷として売られる』というのが68%『奴隷にするため捕えられた』が31%……』
「その2つどう違うのよっ!」
『奴隷商かご主人様かっていう違いね。前者なら、これからあなたは商品として、どこの誰ともわからない人に売られることになるし、後者ならどこの誰ともわからないものに奴隷として扱われるわ。』
「……結局奴隷って事でしょ?…………ところで残りの1%はなによ?」
聞いても意味ないと思いながら、一応聞いてみる。ひょっとしたら一筋の光明になるかもしれないという淡い期待を抱きながら……。
『挙動不審な異国の少女をスパイ容疑で逮捕……よ?』
「………。」
ハイ、終わりました。
それでも、何とかならないかと必死で考えを巡らせていると……。
「ほら、出番だぜ。」
先程の男がロープを持って入ってきた。
セレスは瞬時に姿を消しているため、いまここにいるのは、男と私の二人っきりだ。
……まさか、いま、ここで……なんてないよね?
私の脳裏にイヤな予想が思い浮かぶ。
下衆な男と捉われた美少女が誰もいない地下室で二人っきり……次の光景は誰もが予想するだろう。
……イヤっ、私初めてなのに、こんな所で、あんな奴に……。
そう考えると涙が出てくるが、私は必死にこらえる。
ここで弱みを見せてはいけない。
『大丈夫。今あなたが純潔を薄なう可能性は10%以下よ。』
頭の中でセレスの声が響く。
(何でそんな事が分かるのよ。)
『ご主人様のもとに行くまではあなたは大事な『商品』よ。そして、生娘の方が価値が高いからね。少なくとも今はまだ大丈夫よ。』
セレスがそう言うが、全然安心できやしない。危機が先延ばしにされただけなのだ。
セレスと脳内で会話している間に、男はいつの間にか私の首輪にロープを付け、両腕を後ろ手に縛りあげていた。
「ほら、歩け!」
引きずられるようにして、階段を昇り、連れてこられたのは舞台袖。
舞台では数人の女の子が、私と同じような薄手のワンピース1枚を纏っただけで並ばされている。
そして、部隊の下には数人の男達が、口々に『銀貨3枚!」「銀貨4枚と小銀貨2枚だっ!」「右の女の子、金貨1枚で即決だっ!」などと騒いでいた。
この光景は、……うん、考えるまでもなくオークションだね。
落ち着いてよく見ると、私の横にも数人の女の子が震えて立っている。
そして舞台の上の娘が売れて、空きが出る度、一人、また一人と舞台へと連れだされていった。
どれくらいの時間が経ったのだろうか?
気づけば、舞台袖には私しかいなく、舞台の上には5人の女の子が立っている。
『さぁ、今回のオークションもいよいよ大詰めです。残す処、とびっきりの良玉と、本日の目玉商品だけです。奮ってご参加をっ!」
司会が客席に向かってそう声を張り上げる。
……なるほどね。価値が高いのを最後に持ってくるわけだ。
って事は、私が本日の目玉商品??
舞台に立っている5人は私から見ても、つい手を出したくなるような美少女揃い。
司会の開設を聞いていると、年は左から順に10歳、13歳、16歳、14歳、19歳。もちろん、みんな処女だ。
初期提示価格は10歳の娘以外は銀貨5枚から、10歳の女の子は小金貨3枚からだって……小さな子ほど価値があるって……業が深いわね。
そして競うように、次々と値を競り上げる客たち……それらを差し置いて一番価値が高い、本日の目玉だ、って言われれば悪い気はしない。
『何バカなこと言ってるの。奴隷として売られるって事だよ?』
セレスの声にハッと我に返る。
いま10歳の女の子が小金貨5枚で競り落とされ、19歳の女の子が銀貨7枚で競り落とされた。
日本円に換算すると10歳の女の子は50万円、19歳の女の子に至っては7万円だ。
立ったそれっぽっちで、人生を奪われるなんて許せるわけがない。
ほどなくして、残りの3人も買い手が付き、いよいよ最後の商品……私が舞台へと引きずり出される………。
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