第4話 旅立ち

「うぅ、シズネの浮気者ぉ!」

ミーアちゃんが泣きながらとんでもないことを口走る。

「浮気者って……。」

「うぇぇん、シズネは私の嫁なのぉ……。」

泣きじゃくるミーアちゃんの頭をよしよしと撫でてやる。

懐かれるのは悪くないけど、だからと言ってこのままミーアちゃんの嫁になるわけにはいかない。


「ごめんね。また、絶対遊びに来るからね。」

私はそう言ってミーアちゃんに口づけをする。

少し恥ずかしかったけど、相手は子供だし、初めてってわけではないから今更だ。

突然キスされて動揺しているミーアちゃんを引き離して、手を振って村を後にする。


『シズネはタラシの素質があるわね。』

そう呟くのは頭の上に乗った黒猫のセレス。

最近はこれが女神だってことを忘れそうになるほどだらけている駄ネコだ。

『違うのよっ!魔力回復に努めているのっ!』

セレスの言い分は、私の腕を癒すためにかなりの無理をしたため、今は魔力回復に努めている。女神の身体じゃなくなったから負担が大きいのだそうだ。


「どっちでもいいけどねぇ、駄ネコでも癒されるしぃ。」

実際、だらけた姿のセレス……というより子猫の存在は、見ているだけで癒されるのだ。


「さて、街へ向かってしゅっぱーつ!」



事の起こりは、念願の冒険者ギルドについた時だった。

「初めてですか?」

「はい、冒険者になりたくて。」

街に着くまでの間、セレスと話し合った結果、冒険者になるのがいいだろうという事になった。

いくつかの理由があるが、冒険者になれば身分証などの問題の大半が解決する事。そして、大元であるスキルのことを調べるためのきっかけを作りやすいというのが一番の理由だった。

冒険者でもないものが、スキルについて調べたい、教えてくれ、と言っても怪しまれるのがオチだ。

逆に冒険者であれば、最初の登録時にそのスキルや加護を調べられるため、それをきっかけにスキルや加護についての話が出来るだろう、という結論に達したのだ。


「では、こちらの水晶に手をかざしてください。」

必要事項を記入した書類を返すと、受付嬢はそう言って水晶玉を差し出してくる。

私は言われたとおりに水晶玉に手をかざすと、手のひらから何かが吸い出されるような感覚がした。


「少々お待ちくださいね……はい、鑑定結果が出ました……加護持ちですね。でも……。」


受付嬢の顔が曇るのが気になった。

「なにか?」

「あ、いえ、非常に珍しい加護をお持ちだと……。あ、これで手続きは終了ですね。冒険者についての心得などはこちらの冊子に書いてありますので……。」

そう言ってさっさと手続きを終わらせようとする受付嬢の肩をガシッと掴み、その耳元で甘く囁く。

「少し、お話ししませんかぁ?」

すると、受付嬢は、引きつった笑みを浮かべ、コクコクと頷いてくれた。



がぁ~~~ん……。

今の私の心境を現すと、その一言?に尽きた。

あれから、ギルドの奥にある個室で受付嬢さんから色々お話を聞いた。

お話が終わった後、受付嬢さんの顔が赤く染まり、ぽわぁーっとしながらカウンターに戻ったことで、ギルド内にいた他の冒険者たちから何が起きたのか?という疑惑の視線を受けることになったのだが、そんな事は些細なことでしかない。


受付嬢と二人きりになったところで、口が堅い受付嬢を何とか陥落し口を割らせたところ、私の得ている加護は「時空魔法使い」なのだそうだ。

『空間操作を自在にする力』を望んだのだから、その力が「時空魔法」という事なのだろう。それはいい。しかし……


「時空魔法というのはですねぇ、今では使う者もいない大変珍しい加護なんですが……。」

受付嬢はそこで口ごもる。

珍しいってことは希少価値ってことだよね?何か問題あるの?


受付嬢の話によれば、時空魔法で使える魔法にはいくつかある。

例えば、空間収納魔法。

何もない空間に様々なものを仕舞い自由に取り出すことが出来る魔法。

この魔法が使えれば、荷物持ちいらずで身軽に行動できるという。


例えば、空間転移魔法。

あっという間に別の場所へ移動できるという、夢のような移動法。

私が初めてミーアちゃんと出会った時に咄嗟に使ったのがこれだね。

先述の空間収納魔法と組み合わせれば、多くの商品を一瞬にして運べるため、商人を泣かすという。


他にも狭い空間を広げる、空間拡張魔法だとか、空間を歪めてあらゆるものを切断する次元斬とか、色々逸話はあるが、いずれも、神話時代にしか出てこないような魔法が使えるという。


聞けば聞くほど、夢が広がる能力だ。あの切羽詰まった状況で、これを選んだ私、GJ!


「凄いじゃない?……何か問題でもあるの?」

受付嬢の顔が暗いのが気になって訪ねてみる。

しかし、受付嬢は、「いえ、別に……」というだけ。

……そういう態度とるならこっちにも考えがあるんだあからね。


私は受付嬢さんの横に座り直すと、その肩を抱き寄せ、耳元に口を近づける。

「ねぇ……教えてよ?」

甘く囁きながら、彼女の胸を優しく触る。

「えっ、あっ……ゃんっ……。」

「守秘義務?大丈夫、誰にも話さないから……。」

彼女の衣類の中に手を入れ、そのツンと尖った膨らみの先をつまみ、指ではじく。

「ァン……ダメ……。」

「教えてくれる迄やめないよ。」

私は空いた手で受付嬢さんのスカートの中を弄る。

彼女の身体中を弄り、唇を奪ったところで、受付嬢さんは折れて全てを話してくれた。


……うん、パパが教えてくれた「女の子から話を聞く方法」は正しかったよ。

『シズネのパパって、娘に何を教えてるのっ!』

……うーん、女の子の口説き方、とか、女の子を悦ばす方法、とか、狙った女の子を落とす方法とか……。

『……いや、それ全部、娘に教えるような事じゃないから。』



……パパの話は置いといて、受付嬢さんから聞き出したところによると、時空魔法の使い手は今はいない。それには理由があって、この魔法を覚えても全く役に立たないから、なのだそうだ。

どゆこと??


「ぁんっ……時空魔法……で……一番扱いやすく……アッ、あぁぁ……使い勝手がいいのが『収納魔法』なんですけど……ハァハァハァ……。」

息を荒くしながら教えてくれたところによると、時空魔法はとにかくコスパが悪いとのこと。


例えば、一番扱いやすいといわれている収納魔法。しかし、収納している間中、魔力を消費続けるらしく、その消費魔力は非常に大きい。一般的な冒険者では大きめのリュック一杯分の荷物を収納していると、2時間程度で魔力枯渇を起こすという。

だったら、自分でリュックを背負えばいいじゃないか、というのだ。

因みに魔力量に自信があり、荷馬車一台分の収納量がある、自称大魔法使いでも収納を維持できるのは2日が限界だった。


たとえb、夢のような移動法、空間転移。どれだけ魔力に自信がある者達でも10mが限界。しかも移動後は魔力枯渇で動けないという体たらく。


空間拡張とか、次元斬などは、伝説の賢者を神格化するために、後世に創作された技だろうというのが、一般的に知られている知識だという。


そんな役立たずの力の為、例え、加護やスキルを得たとしても、誰も使う事がなく、使わないスキルが後世に伝わる筈もなく、加護を受ける人も少なくなり、今では、完全にお話の中だけの能力となっているのだという。


実際には、何年かに2~3人の割合でその加護を受ける者もいるが、「役立たず」と言われ迫害されるのでその加護を隠し通している、というのが現状らしい。


全てを話し終え、完全に脱力した受付嬢を放置して、私はがっくりと肩を落とし、トボトボとギルドを後にするのだった。

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