第63話 ペペロンチーノうどん
「大量に集まりましたね」
グレンプニールの神殿中に運び込まれた物資の多さにセレスティーヌが感嘆の声をあげる。
神殿の中には、所狭しとゲーゲンバウアーの商人たちから奪った物資が置かれていた。この他にもまだ神殿の外には馬車ごと持ってきた物資が並んでいる。
あれからも日課のように商人の馬車列を襲ったからね。奪った物資の中から神殿に運ぶものを厳選してもかなりの量になった。
物資の中身は、主に武器や食料品だった。まぁ武器の類はオレたちには必要ないものだが、考えがあって持ってきた。
あとの食料品だが、これはありがたく食べさせてもらおう。久しぶりに野菜やパンも食べたいしね。まぁ、野菜は漬物に加工されてるし、パンも小麦から作らないといけないけど。
お肉生活も楽しかったけど、そろそろセレスティーヌの体調も気になってたし助かったよ。
『酸っぱい匂いがするな。これは腐っているのではないか?』
「それはザワークラウトっていう酢漬けだよ。慣れるとおいしいぞ?」
『うーむ……』
「ところで、レオンハルト様はなにをしているんですか?」
「うどんを作ってみようと思って……」
オレは金の大きなボウルの中で、水と塩、小麦とを練ったものと格闘していた。
「うどん、ですか? どんな料理でしょう?」
「異国の麺料理だよ」
オレはパンの作り方は知らないが、うどんなら調理実習で作ったことがある。プロの味となると難しいだろうが、そこまで難しいレシピでもないし、大量にある小麦の消費にちょうどいい。
「レオンハルト様はお料理の知識が豊富ですね。まさか異国のお料理までつくれるなんて。わたくしもお手伝いします」
「ありがとう、セレス。ちょうどお願いしようと思ってたところなんだ」
オレは練った生地に小麦粉を塗すと、生地に白い布を被せた。そして、金のボウルを床に置くと、オレは高らかに宣言する。
「さあ、セレス。踏んでみて」
「……え?」
セレスが驚いたように目を見開いてオレを見た。その顔いいね。スクショしたい!
「た、食べ物を踏むのですか?」
「そう。そうするとコシが出ておいしくなるんだ」
自分で踏もうかと思っていたけど、やっぱり美少女が踏んだ方がうどんも喜ぶよね。
「もちろん靴は脱ぐよ? 靴下も脱いだ方がいいかな」
「はい……」
その場の勢いでセレスティーヌを説得すると、セレスティーヌが照れながら靴と靴下を脱いでいく。セレスティーヌの白くて細い足は、なぜだかおいしそうだと思った。
「えっと、本当に踏んでもいいのですか?」
「うん。踏んじゃっていいよ」
セレスティーヌを金のボウルの中へとエスコートすると、彼女は恥ずかしそうにスカートを少しだけたくし上げて、ふみふみとうどんの生地を踏んでいく。
「いいね! いい調子だよ!」
「はい。あの、あまり見ないでください……」
「そう?」
「恥ずかしいです……」
そういえば、こっちの世界では素足を見せることは恥ずかしい行為なんだっけ?
思い起こせば、こっちの世界の女性はみんな長いスカートだったし、スカートが短い場合は、長い靴下を履いて徹底して足を見せないようにしていたな。
恥じらうセレスティーヌをもっと見ていたいけど、嫌われるのは避けたい。オレはそっと彼女の素足から視線を逸らしたのだった。
それから生地をこねながら何度かセレスティーヌに踏んでもらい、ようやくうどんの生地ができあがった。
うどんの生地を長方形に伸ばし、小麦粉を振って折りたたむ。あとは包丁で切って茹でれば完成だ。
めんつゆが欲しいところだけど、醤油も出汁もないので諦めた。
その代わりに目を付けたのがオリーブオイルだ。
熱したミスリルのトレイにオリーブオイルをたっぷり注ぎ、ニンニクとトウガラシ、厚切りベーコンを投入。オリーブオイルに香りを移したら、うどんの茹で汁を少量注いでかき混ぜる。オリーブオイルを乳化させるのだ。
ここまでくればだいぶ形になってきたね。そう。みんな大好きペペロンチーノだ。
あとはそこにうどんを投入して、塩コショウで味を調える。
付け合わせにザワークラウトや野菜なども用意して完成だ。
「もちもちでおいしいです! 力が出そうな味ですね」
『我のはトウガラシをさらにトッピングだ! この舌を焼く辛さがたまらぬ!』
セレスティーヌとグレンプニールにも好評だった。こんな感じでパスタソースをうどんでアレンジしていきたいな。意外にもこれが合うんだ。
次はミートソースでも作ってみるか? でもトマトが無いから難しいか。チーズはあったからカルボナーラとかはいけるかもしれない。次はカルボナーラもどきに挑戦してみよう。
できれば本物のパスタが欲しいところだが、そういえば、こっちの世界でパスタを食べたことはないな。まだ作られてないのかな?
まぁ、こんな感じで、ゲーゲンバウアーの運ぶ物資を横取りして、その副産物として、オレたちの食生活はかなり豊かになったのだった。
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