第62話 奪う

 オレたちは、昼食を終えるとさっそく行動を開始した。


 再びグレンプニールの背に乗ると、大空へと舞い上がる。今回はゲーゲンバウアー王国の兵士や、兵士たちに物資を届けている商人、そして現在もルクレール王国の民を連行している奴隷商人が目標だ。襲撃である。


 とはいえ、ゲーゲンバウアーの民を殺せばウンディーネが出てくるかもしれない。できれば殺さずに制圧する必要がある。


 まぁ、オレとグレンプニールがいれば楽勝だろう。手加減するのは面倒だがな。


 眼下の地上には、荷物を運ぶ馬車列が見えた。まるで列を作ってエサを運ぶアリみたいだ。おそらく、兵士たちに物資を運んでいる商人たちだな。


「いいか、グレンプニール。殺すなよ」

『ふむ。面倒な事だ。我の力では殺してしまうかもしれん』

「じゃあ、オレがやるよ。手は出すなよ?」

『あいわかった』

「レオンハルト様、お気をつけて……」

「心配ないよ、セレス。楽勝だ」


 オレはグレンプニールに馬車列の先頭を塞ぐように指示を出した。


 グレンプニールが馬車列の進路を塞ぐように地面に降り立つと、馬車列が止まる。そして、ぞろぞろと武装した人間が馬車とグレンプニールの間に集まってきた。


「くそっ! トカゲに見つかったか……」

「見ろ! トカゲの背に誰か乗ってるぞ!」

「いったい何者なんだ!?」

「なんだ? あのデブ?」


 統一感の皆無な個人の思い思いの武装をした者たち。たぶん、冒険者だろう。馬車の護衛に雇われたのかな?


 オレは目立つようにグレンプニールの頭の上に乗って叫ぶ。


「聞け! 貴様らの命、このオレが預かった! 抵抗しなければ殺しはしない! 荷物をすべて置いてゲーゲンバウアーに帰れ!」

「帰るのはそっちだぜ? トカゲ野郎! 俺たちに手を出したら、ヴァッサー様とウンディーネ様が黙ってねえぞ!」

「そうだ、そうだ!」

「尻尾を巻いて逃げるんだな!」


 威勢がいいな。しかし、最初からヴァッサーやウンディーネの名前を出すあたり、自分たちでは勝てないことを理解しているのだろう。


 まぁ、仮にも護衛依頼を受けたんだから、ここで引き下がるわけにはいかないか。


 少しわからせてやるか。


 それでも反抗するようなら、少しずつ燃やしていこう。


「タイダルウェーブ!」


 オレが指を鳴らすと同時に、なにもなかったはずの荒野に巨大な波が現れる。水属性の範囲魔法、『タイダルウェーブ』だ。


「バカな!?」

「嘘だろ!?」

「ちくしょうが!?」


 大波は綺麗さっぱり冒険者たちを洗い流し、先頭の馬車に当たる直前に消えた。突然波が消えたため、無数の冒険者たちが宙に投げ出される。


「へぶ!?」

「がはっ!?」

「たわわばばば!?」

「いでえ!? いでえよおおおおおお!?」


 オレはグレンプニールの頭から飛んで地面に着地すると、阿鼻叫喚の冒険者たちに問う。


「まだやるか? 抵抗するなら、手足を一本ずつ焼いていくぞ?」

「くっ!?」

「イカレテやがる!」

「ド畜生が!」


 うん。反骨精神すごいね。一人二人生贄になってもらおうかな?


「あぎゃあああああああああああああああああああああああ!?」


 オレが指差した先、男が悲鳴をあげた。男の左腕はまるで爆発するように燃えると骨も残さず灰になる。


「ああ! あああああああああああ!? 俺の、俺の腕があああああああああ!?」


 一瞬に左腕を失くした男の慟哭が周りに響き渡った。


「な、なにが……?」

「え? え!?」

「どうなってやがる……?」


 男の絶叫と共に冒険者がざわざわとざわめき始める。


「オレが燃やした。燃やされたくなければ、とっとと荷物を置いて失せろ」

「ひっ」

「ば、バケモノ……!」

「うあああああああああああああ!?」


 冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。冒険者たちが逃げるのを見て、商人たちも馬車を置いて逃げ始める。中には馬車ごと引き返そうとした商人もいるが、見せしめに馬車を一台焼いたら馬車を置いて逃げ始めた。


 人々が去った後には、オレの目論見通り、物資を積んだ馬車だけが残っていた。


 いい感じだね。人を殺さずに物資だけ奪うことに成功したぞ!


「おつかれさまです、レオンハルト様!」


 グレンプニールまで戻ると、セレスティーヌが労ってくれる。


 うん。がんばってよかった!


『追わなくてよいのか?』

「まぁね。下手に追い詰めて逆上されても面倒だし、物資は手に入った。上々だよ」

『そういうものなのか? 殺した方が後腐れないのではないか?』

「グレンプニール、考えてもみろよ。オレたちが奪ったのは、ゲーゲンバウアーの兵士たちや商人たちへの物資だ。人間はドラゴンとは違ってか弱い生物だからな。水や食料がないと生きていけない。それを断てばどうなる?」

『ふむ。根絶やしにするつもりか?』

「そこまで過激なことはしないさ。兵士たちもバカじゃない。干上がる前に後方に下がるだろう」


 このまま物資を奪い続け、兵糧攻めにする作戦だ。補給ができない以上、連中は下がるしかない。そして、最終的にはルクレール王国領から排除する。


「上手くいけばいいなぁ」

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