第45話 買い物④

「これなんかセリアにいいんじゃないか?」


 オレは一つの首飾りを手に取ってセリアに見せる。それはドングリのような木の実を象ったネックレスだった。


「そちらですか?」


 セリアがコテンと首をかしげて言う。もーかわいいなーもー!


「うん。ちょっとダサいと思うかもしれないけど、MPが増える装備だから。できれば着けてほしいんだけど……」

「そんなこと思いませんよ。せっかくレオンハルト様が選んでくださったネックレスですもの。大事にさせていただきます」

「ありがとう。店主、これも追加だ」

「かしこまりました」


 オレはネックレスを店主に渡す。店主はニコニコ顔でゆっくり歩いてカウンターへと向かう。けっこう買ってるからね。太客だと思われてるんだろう。


 オレは俊敏性が上がる靴や装備を中心にいいものに買い換えたし、セリアもMPをアップする装備を中心に買い換えた。二人ともさらにパワーアップだ。


 さすが王都だけあって品揃えがいいんだよなぁ。ついつい買い過ぎてしまった。


 でも、どれも最強の装備ってわけじゃないんだよなぁ。まだまだ上位互換が普通にある装備ばかりだ。


「店主、この店の装備はダンジョンの三十から四十階層の装備が多いが、なにか理由があるのか?」

「驚きましたな。そこまでお分かりになるとは……。実はそれにはわけがあるのです」


 店主の男が白髪の目立つ頭を撫でながら口を開く。


「この店ではなるべくいいものを買い取ってお客様に提供しておりますが、実は悔しながら一線級の装備とは言えないのです。今、一線級の冒険者パーティはだいたい六十階層を攻略しておりますが、彼らは有用な装備は自分たちが使いますからな。そして、そうした有用な装備は、次の代に受け継がれる場合が多い。なので、店で扱えるのは彼らにとって二線級の第四十階層ほどの装備になるというわけです」

「なるほどな」


 たしかに、いい装備が手に入ったら店に売らずに自分たちで使うよな。


 それよりも気になる単語があった。


「次の代に受け継がれるというのはどういうことだ?」

「はて?」


 店主の男がコテンと首をかしげた。そんなことをしてもかわいくないぞ。


「お客様はてっきりご存じかと思っておりましたので……。冒険者のパーティというのは、代々受け継がれていくものなのです。中には百年以上続く冒険者パーティもありますよ」

「へえ……」


 ゲームではなかった情報だ。そういうものなのか。


「そうした老舗の冒険者パーティは資金面でも装備面でも恵まれていますので人気ですね。メンバーの募集があれば、隣国からも人が集まるほどだとか」

「…………」


 隣国という単語が出た時、セリアの眉がピクリと動いたのをオレは見逃さなかった。


 やはり、セリアの中ではルクレール王国のことはふっ切れるような事柄じゃないのだろう。


 その後、オレたちはさまざまなものを買いながら学園の男子寮の自室へと帰ってきた。


 自分用の指輪、ネックレス、耳飾りなどなども買ったよ。オレみたいなデブが着けても似合わないことはわかっているけど、これらは常に着けておこうと思う。


 もういつXデーが来てもおかしくはないからな。備えておく必要がある。今日の買い物でも使い切れなかった金貨はミスリル貨に両替し、できるだけ身軽にしておく。


「レオンハルト様」

「どうしたの、セリア?」


 セリアを見ると、セリアは今日買った木の実を模した飾りがついた首飾りを持っていた。


「それ……」


 やっぱり気に入らなかったのかな……?


「着けてくださいますか?」

「え?」


 オレがこの首飾りをセリアに着けるってことか?


「いいけど……」

「お願いします」


 セリアから首飾りを受け取ると、セリアはオレに背を向けてその肩口で切りそろえられた銀の髪をゆっくりとかき上げる。オレの目の前には、セリアの細いうなじが姿を現した。


「……ッ」


 なぜかオレの喉がゴクリと鳴り、一気に緊張してしまう。


 後れ毛がなんだか見てはいけないものを見ているような気分にさせた。


 セリアも緊張しているのか、それとも恥ずかしいのか、白いうなじが少しずつ淡いピンクに染まっていく。


「つ、つけるよ……?」

「はい……」


 オレは緊張で震えてしまいそうな手を鋼の意思で抑え込み、セリアに触れないように細心の注意を払って首飾りを着けていく。


 まずは、セリアの頭の上を通して首飾りをセリアの首元に持っていく。その姿は、傍から見ればオレがセリアを後ろから抱きしめているように見えたかもしれない。


 その後、セリアのうなじで首飾りを留める。


「ふぅ……」


 そこでオレは息を止めていることに気が付いた。久しぶりに吸った空気は、なんだか甘い気がした。


「ありがとうございます、レオン様」

「ああ……」


 セリアが振り返り、オレを見る。その顔は少しだけ赤くなっているような気がした。


「似合いますか?」


 オレはセリアの問いかけにコクコクと頷くことしかできなかった。

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