第44話 買い物③

 ゲームでのレオンハルトの心意気に胸を打たれた後オレは、悲しみを紛らわせるようにバクバクゴクゴクとクッキーとお茶を無限におかわりしまくった。


 ちょっと恥ずかしかったけど、食べなきゃやってられなかったんだよ!


「お、おまたせしましたぁ……」

「うむ」


 お世話係に残された使用人の女性がドン引きするほどおかわりを繰り返し、ようやく心が落ち着いた。


 やはり心が乱れたら食べるに限るね!


 食べることで悲しみも乗り越えられる!


「お客様、お連れ様のご用意が整いました」

「そうか」


 どうやらオレが暴飲暴食している間にセリアは採寸を終え、服の注文を済ませたらしい。もっと時間がかかるかと思っていたけど、思ったより早かったな。


「レオンハルト様、お待たせしました」


 別の使用人に連れられて、セリアが部屋に姿を現した。


 その姿はいつものメイド服だ。この世界では、服は高級品だからね。基本はオーダーメイドなのである。


 服というより、布が高いのかな。まだ産業革命のようなことが起こっていないのだろう。オレはあんまり詳しくないけど、女性社会では、服や布が褒美として渡される場合が多いようだ。


「おかえり、セリア。服は決まった?」

「はい。でも、本当によかったのですか? レオンハルト様も欲しいものがあったのでは?」

「軍資金はまだまだたっぷりあるからね。オレの欲しいものを買ってもお釣りがくるよ」


 その後、ちょっと休憩をして、服飾店を後にした。まぁ、それなりの出費だけど、これもセリアのためだ。致し方ない。さらば金貨!


 昼になったので、以前から目を付けていたレストランに入って大いに食事を取り、オレたちは馬車でそのまま王都のメインストリートを移動しながら店を冷かしていく。


 装飾店などのアクセサリーを扱う店や、武器を扱う店だ。


 そこで気が付いたのだが、どうやら人間が作り出したアイテムと、ダンジョンで産出したアイテムでは呼称が違うらしい。


 ゲームでは同じアイテムのくくりだったから気が付くのが遅れてしまったよ。


 宝具。


 どうやら、ダンジョン産かつ特殊な能力が確認されたアイテムはそう呼ばれるらしい。


 人間では作り出せない不思議な力が宿ったアイテムの総称だ。


 身近なところで言うと、オレの持ってるポイズンソードも宝具だね。無限に毒が分泌されるというだけの剣だけど、これも人間では作り出せないアイテムだ。


 そんな宝具を扱う店にオレたちは来ていた。


「おお……!」


 その店には所狭しとゲームで見た通りのダンジョン産のアイテムが並べられていた。ゲーム『精霊の国』のファンとしては、なんともテンションが上がる場所だ。


 だって、ゲーム登場したアイテムが実際に手に取れるんだぜ?


 こんなのテンションぶち上がりよ!


「レオンハルト様、楽しそうですね」

「うん!」


 セリアの言葉に、オレは即座に力強く頷いていた。そんなオレを見て、セリアはクスクスと笑っている。ちょっと恥ずかしいが、でも、テンションの高さは隠せそうにない。


「へぇー。ポイズンソードも置いてあるな。こっちは紅蓮爪じゃん」


 どちらかというと、武器の比率の方が多いかな。そして、店内を眺めていると、オレはあることに気が付いた。


「特殊効果を持ってるアイテムがほとんどだな」


 店内に置いてある宝具は、毒が出たり、火が出たり、そういうわかりやすい特殊効果をもつアイテムがほとんどだった。HPやMPなどのステータスアップなどの装備はあまり置かれていない。


 たぶんだけど、この世界の人間にはステータスが見れないから、宝具の定義がわかりやすい異能を持つアイテムになるのだろう。


 そういえば、セリアの装備しているMPアップ装備の数々も宝具とは呼ばれていなかったし、普通の装飾店で売られていたな。


 とはいえ、ステータス上昇系のアイテムの中でも数値が大きく上がるものはちゃんと宝具として扱われているみたいだ。セリア用のMPアップ装備もいいのがあったら買い替えかな。


 オレも新しい剣とか欲しいんだよなぁ。


 オレは双剣使いだ。一本はポイズンソードでいいとして、もう一本それなりの剣が欲しい。


「お?」


 片手剣のコーナーを見ていたら、いいものを見つけた。それは深紅の片手剣だった。


「ブレイズソードじゃん。かっけー!」


 攻撃すると、火属性の追加ダメージが発生する片手剣だ。無論最強の武器というわけじゃない。むしろ、追加ダメージが発生するタイプの武器の中では最弱に近い。だが、追加ダメージ自体は魅力的な能力だ。オレは思わずブレイズソードを手に取った。


 その瞬間、わかった。


「へえ……。これにしよう」


 オレは一発でブレイズソードを気に入った。


「そちらの剣がお気に召しましたかな?」

「ああ、これをもらおう」


 オレは近くに寄ってきていた店主らしき男に頷いて答える。


 このブレイズソード、オレの切り札になりそうだ。

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