第41話 決闘の後で

 俺、ユリアンは情けない気持ちでいっぱいだった。


 今はグランドに横になってお姫様に頭を下げている。土下座ならぬ土下寝って感じだ。


「面目ねえ、お姫様にせっかく場所を選んでくれたのに、俺は負けちまった……」


 ズボンとパンツが燃えてハート型の丸出しになってしまった尻は、制服のジャケットを被せることで隠しているのだが、ジャケットの生地が擦れるだけでジクジクとした痛みが襲ってくる。


 この痛みこそが俺の負けた証明。


 俺に勝ったレオンハルトのデブは、俺が燃えてる間に、セリアちゃんを連れてとっくに姿を消していた。


 あの野郎、絶対にセリアちゃんにひどいことしているはずだ。許せない!


「今回は残念でしたわね、ユリアン」


 お姫様が労わるように言う。


 やめてくれ。俺はただの負け犬だ。


 でも振り払うわけにもいかず、俺はそれを受け入れた。


「わたくしは今回初めて決闘を見ましたけれど、聞きしに勝る不可解さですわね……」


 そう言ってお姫様が思案顔になる。その顔は思わずハッとしてしまうほど美しかった。


 って、ダメだダメだ! 相手はお姫様だぜ? 俺とは身分が違うっての!


「レオンハルトは言っていました。水は蒸発すると……。しかし、そんなことはありえません。属性の相克関係は絶対です。火属性では水属性に勝てない。それが自然の摂理のはず……。なにかトリックがあるはずですわ」

「ですが、そのトリックがわかりません。今回、私たちは事前に仕掛けが無いことを確認したこのグラウンドで決闘をおこないました。それでもレオンハルトは、まるで本当にユリアンの魔法を蒸発させたように見えました……。まさか、本当にレオンハルトは――――」

「ありえません! エンゲルブレヒト、あなたは敵を過剰に恐れすぎです!」

「……申し訳ありません、アンネリーエ殿下」

「直接戦ったユリアンからはどう見えましたか?」

「そうですね。私もユリアンの意見が聞きたいです」


 お姫様とエンゲルブレヒトが俺を見下ろしてくるが……。


「すまねえ……。俺にもなにがなんだかわからなかった。本当に俺の魔法が消えちまったんだ……」


 レオンハルト。あいつはただ突っ立ってるだけに見えた。なのに、いくら魔法を撃っても、どんな属性の魔法を撃っても、レオンハルトの奴には届かなかった。


 こんなことは初めてだ。俺は全属性を使えるからわかる。レオンハルトの魔法は異常だ。あんなの魔法じゃない!


 魔法じゃない……?


 じゃあ、何なんだ?


 レオンハルトはなにをしてるんだ?


「ユリアンでもレオンハルトのトリックは見破れませんでしたか……」


 お姫様が困ったような顔をしていた。


「すまねえ……」

「いいえ、ユリアンのせいではありませんわ」


 お姫様が俺の手を取ると、両手で包んでくれる。


「悪いのは年端もいかない少女を奴隷にしているレオンハルトの方です。あなたはとても正しいことをしました。あなたの思いは正義ですわ」

「正義……」

「今回は惜しくも敗れてしまいましたが、きっとウンディーネ様も加護を与えてくれますわ」


 俺は尻の痛みを無視して立ち上がった。


 ここまで言われて、立ち上がらないなんて男じゃない!


「お姫様、俺は必ずレオンハルトの奴をぶっ飛ばして、セリアちゃんを開放してみせる!」

「その意気ですわ。それと、わたくしのことはどうかアンネとお呼びください」

「いいのか? 俺はただの平民で……」

「かまいませんわ。あなたは全属性を操れる選ばれた人ですもの。その力であの憐れな奴隷を救うのです」

「ああ! ありがとう、アンネ」



 ◇



 私、エンゲルブレヒトはアンネリーエ殿下の広いお心に感動していた。


 まさか平民にも愛称を許されるとは……。貴族の名前は高貴なものだ。王族ならば輪をかけて尊いもののはず。


 やはり、この方こそが次の王になるべきだ!


 ただの奴隷の少女を救うためにこれほどご尽力なさるのだ。この方ならば、きっと理想の国を作ってくださるに違いない。


 しかし、わからないのはレオンハルトだ。


 今日のことでアンネリーエ殿下が我々を支援してくださっていることはわかったはず。王族の不興を買ってまであの奴隷に固執するとは。まさか、それもわからないほど鈍いのか? 同じ貴族として恥ずかしい思いがした。


 アンネリーエ殿下が次期女王になるためにもあまりここで苦戦するわけにはいかない。ここは権力でゴリ押すのはどうだろう?


「アンネリーエ殿下、あの奴隷ですが、殿下のお力でレオンハルトに献上させるわけにはまいりませんか? 直接言えば、いくら鈍いレオンハルトでも王族の不興を買うのはマズいとわかるのでは?」


 しかし、アンネリーエ殿下は困ったような表情を浮かべておられた。


「それも考えましたが、あの奴隷はレオンハルトの所有物に当たります。仮にも臣下の物を欲しがるのは……」

「なるほど……」


 殿下のはしたない行為と映るわけか……。厄介な。


「ですので、やはり決闘で勝ち取りましょう。今、クラスメイトたちにレオンハルトのトリックについてわかったことがないか聞いています。それを基に次の作戦を練りましょう」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


こんにちは(=゚ω゚)ノ

作者のくーねるでぶるです。

お読みいただきありがとうございます。

よろしければフォロー、このページの下にある☆☆☆の横にある+ボタンを押して、★★★と星を三ついただけると嬉しいです。

どうか、皆さまの評価を教えてください。

気軽に感想もよろしくね>w<b


下は最近完結した作品です。読んでいただけると嬉しいです!


【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様


https://kakuyomu.jp/works/16817330668816310261

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る