第42話 セリアと買い物デート
その後、何度かユリアンを決闘で退けたオレは、大量の金貨を持ってセリアとのデートに望んでいた。
一緒の部屋に住んでるのに、なぜか今回も校門で待ち合わせして、馬車に乗って王都へと繰り出す。
向かうは富裕層向けの店が集中する王都のメインストリートだ。
普通の貴族は、買い物する時、店員を学園に呼び寄せるものらしい。だが、それではいつ邪魔が入るかわからんからな。
たとえ貴族らしくないと言われようと、今回は店までやってきたのだ。散策も楽しいよ。そう、セリアと一緒ならね。
「さあ、セリア。手を」
「はい」
服飾店の前で先に馬車を降りて、セリアをエスコートする。周りから見れば、貴族の子どもがメイドをエスコートしてるなんておかしな光景だろう。だが、周りの目なんてどうでもいい。笑いたければ笑えばいい。オレにはセリアただ一人でいい。
「あの、レオンハルト様……?」
「うん?」
「少し恥ずかしいです……」
オレはそう言うセリアの手を握って服飾店に入った。
「いらっしゃいませ。おや?」
服飾店の店員たちは、まるで予想外のものを見たような顔でオレたちを見ていた。
「この子に服とドレスを贈りたい。デザインなどの詳しい話はこの子から直接聞いてくれ」
「……かしこまりました。ささ、お嬢様はこちらへどうぞ。まずは採寸をいたしましょう。旦那様もお疲れでしょう。部屋を準備させます」
「ああ」
さすが激戦区である王都のメインストリートに店を構えるだけはあるのか、店員たちは疑問を飲み込み、仕事に徹する。おかげで無駄な詮索を受けずに済んだ。
「レオンハルト様……」
「セリア、服はそうだな……。五着くらい頼むといいよ。ドレスも二着頼もうか。金はあるから、うんと着飾るといい。聞いていたな? この子をこの王都でも一番のお姫様にしてくれ」
「かしこまりました」
「旦那様はこちらへどうぞ」
「ああ」
セリアが採寸や服を決める時間、オレは案内された豪華な部屋で歓待を受けていた。たぶん、貴族用の歓待室だろう。服飾店らしく布やフリル、リボンで飾った部屋には、サンプルであろうドレスを着たマネキンが三つ置いてあった。
「それで、なのですが……。当店は料金は先払いとなっておりまして……」
「金ならあると言っただろう?」
オレは御者に運ばせた金貨の入った革袋をドスドスとテーブルの上に置いていく。
「失礼いたしました。すぐにお飲物を用意させます。なにかご希望はございますか?」
「そうだな。お茶でも貰おうか。ミルクティーがいいな」
「かしこまりました」
その後、お茶とお菓子が運ばれてきたり、店主が会いに来たりと意外にも退屈しない時間が過ぎていった。
商人って口が上手いね。いろいろなことを知っていて、その知識量や話術には驚かされる。楽しい時間ではあるが、そろそろいいかな。
「店主、そろそろキミもオレの相手ばかりというわけにもいかないだろう? 少し話し疲れたから休憩させてくれ」
「左様でしたか。申し訳ございません。つい、おしゃべりが過ぎたようです」
「いや、楽しい時間だった」
店主が礼をして出ていくのを見送った後、オレはクッキーを摘まみ、ミルクティーで流し込みながら思考を回す。
それは、オレのゲーム知識がどこまで通用し、そして、なにを目標にするかだ。
ここ最近、というか、学園に入ってから、ゲームと展開が大きく違っている。
ゲームでは、主人公がセリアの解放を賭けてレオンハルトに決闘を申し込み、そして、主人公が勝つ。だが、レオンハルトはそれに反発して決闘の無効を主張するのだが……。それによって、何度も主人公に決闘を挑まれることになるのだ。そして、全敗する。
こうして、レオンハルトの名誉は地に落ちる。
そして、最終的にアンネリーエの命令でセリアを賭けざるをえない状況にされ、主人公にセリアを奪われるのだ。
だが、オレは思うのだ。
イフリートの力を継承したレオンハルトが、まだレベル1の主人公に負けるはずがない。
たしかに、オレはそんな未来が嫌で努力してきた。魔法だって早く覚えようとしたし、剣術だって学んでいる。ダンジョンに潜ってレベル上げもした。
しかし、そもそもイフリートの力を操れるレオンハルトなら、主人公に負けるはずがない。
なぜ負けたんだ?
ゲームでのレオンハルトは、魔法もロクに使えない落ちこぼれと蔑まれていた。ゲーム内でレオンハルトが魔法を使ったのは一度だけ。自身の身と引き換えに邪神を滅する時だけだ。
だが、本当にレオンハルトが魔法もロクに使えない落ちこぼれなのなら、オレだってもっと魔法を使うのに苦労したはず。納得がいかない。
そこでオレはある仮説を思い付いた。
レオンハルトは魔法を使うことができた。だが、敢えて使わなかった。
その理由は――――。
おそらく、イフリートの力を制御しきれなかったのだろう。
イフリートの力は、人間が使うことができる魔法がおもちゃのように思えるほど強力なものだ。まさしく神の力。その力を制御して自分のものにしようなんて考えもしなかったんじゃないか?
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