第40話 痩せる決意?

「あっちゅ! あっちゅ!」


 火の着いたお尻を叩きながらユリアンがピョンピョン飛び跳ね回っている。その姿は決闘前の尊大な態度からの落差でひどく滑稽に見えた。


「ユリアン!」


 エンゲルブレヒトがユリアンに駆け付け、水生成の魔法でユリアンのお尻と頭の火を消そうとする。


 だが……。


「くそっ! なぜ火が消えない!」

「あっちゅ! あっちゅ!」


 オレの炎が人間が使う程度の魔法で消せるわけないだろ。オレの炎を消したいなら、この国の守護精霊にして水の大精霊、ウンディーネでも連れてくるんだな。


「あっちゅ! ちぬ! あっちゅ!」


 だが、安心してほしい。今回燃える範囲に指定したのはズボンとパンツのお尻部分だけだ。死ぬような火傷にもならないように調整してある。まぁ、しばらくお尻が痛い程度だろう。


 ズボンもパンツもハート型に燃やしたし、お尻も真っ赤になってさぞお似合いだろう。


「アンネリーエ殿下、ユリアンにエンゲルブレヒトの助けが入りました。私の勝ちということでよろしいでしょうか?」

「……ええ。勝者はレオンハルト、あなたです」


 アンネリーエが不服そうな態度を隠してにこやかに告げる。たが、その口はヒクヒクと引きつっていた。


「では、約束の通り、金貨二百枚は貰っていきます」

「ええ……。どうぞ」


 オレは金貨の入った革袋を持ち上げると、その場を後にする。


「どういうことだ? なにが起こった……?」

「魔法が、消えた……?」

「いったいどんなトリックを使ったんだ?」

「レオンハルトが新しい魔法を開発した、のか……?」

「そんなバカな。宮廷魔法使いでもあんな魔法作れるもんか!」

「それもそうだが、ユリアンを燃やした魔法はなんだ?」

「魔法が見えなかった? 見えないほど高速……? いや、しかし……」

「そんな魔法聞いたこともない!」


 クラスメイトの慄いたような声を背後に、オレはセリアの元に急ぐ。


「セリア、心配かけたね。でも、この通りだ」

「おめでとうございます、レオンハルト様!」

「うん! そうだセリア、今度の休みは学園を出て王都に買い物に行こう」

「買い物、でございますか?」

「ああ。セリアのメイド姿はかわいいけど、いつもメイド服じゃセリアもつまらないだろ? セリアの服を買いに行こう。アクセサリーとかもいいね」

「まあ! でも、よろしいのですか?」

「そのための軍資金なら手に入れたしね。それに、王都は品揃えがいいらしいから。装備なんかも見てみるのもいいかもしれない」


 この世界では、ゲームの時のように店が一つしかなく、店売り品がショボい品しかないということはない。店もたくさんあるし、ゲームの時はダンジョンで手に入れるしかないない品も普通に店売りしている。


 まぁ、考えれば当たり前だよね。この世界はゲームの舞台のようでいてゲームじゃない。


 それに、ゲームでは登場しなかった品も大量にある。服なんてまさにそうだ。


 たしかにメイド服のセリアはかわいいよ。魂にアップロードして永久保存するほどの破壊力だ。


 でも、他の服を着たセリアも見てみたい!


 それに、今まで手に入れた金貨四百枚は、セリアを賭けの対象にして手に入れてしまったものだ。少しでもセリアに償いたいのだ。


「よし! そうしよう、そうしよう! 決定だ!」

「私ばかりよろしいのですか? レオンハルト様も欲しいものがあるのでは?」

「オレのことはいいの、いいの。じゃあ、教室に戻ろうか」

「はい」


 前世で推しに貢ぐ人たちのことがよくわからなかったけど、こんなにもドキドキして自分も嬉しいものなんだなぁ。


 まぁそれで身持ちを崩すようなことがないように気を付けないといけないけどね。


 ご利用は計画的にってやつだ。



 ◇



 教室に戻ると、みんな決闘の観戦に動員されたのか、ガランとして誰もいなかった。


 オレたちは一番後方のいつもの席に座ると、セリアから甘い匂いがした。


「レオンハルト様、おつかれさまでした。お疲れでしょう? ケーキはいかがですか? お茶もありますよ?」

「いただこうかな!」


 オレが元気よく答えると、セリアがクスクス笑いながらバームクーヘンとお茶を用意してくれる。チョコまみれのバームクーヘンだ。すごくおいしそうだね!


「どうぞ」

「いただきます!」


 さっそくフォークとナイフでバームクーヘンを一口大に切って口に放り込む。おいしい。やっぱり学園のシェフの腕はいいね。個人的に雇いたいくらいだ。


「セリアは食べないの?」


 もぐもぐしながら問いかけると、セリアはクスクス笑って答える。


「先ほど昼食をいただいたところですから」

「そっか」


 そうだよね。普通はこんなに食べないよな。でも、お腹が空くんだ。どうしようもない。仕方ないね。


 昔はダイエットを考えたものだけど、今はもう諦めてしまったもんなぁ。おかげでオレの体は押せば転がりそうなほどだ。


 セリアは分け隔てなく接してくれるけど、やっぱり細身のイケメンの方がいいのだろうか?


 そうだよなぁ。ゲームでのセリアは最終的にユリアンのサブヒロインになっちゃうし……。痩せようかなぁ……。

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