第29話 王都、学園
「ここが王都ですか……」
馬車の向かいの席でセリアがしみじみと呟いた。
セリアにとってはここは敵国の首都だからね。いろいろと思うところがあるだろう。
「賑わっていますね……」
「そうだね」
馬車の窓の向こうには、たくさんの馬車とすれ違うし、多くの人々がいるのが見えた。その顔はどれもこれも明るいように見える。クラルヴァイン領も賑わっている方だと思ったけど、上には上があったらしい。
「まずは学園に行こうか」
「はい」
王立魔法学園は全寮制の学校だ。入学式は明日だし、直接学園に行ってしまおう。
「ここが魔法学園……!」
王城のすぐ近くの一等地に王立魔法学園はあった。
学園の門や中の校庭や校舎など、どれも見覚えがある。ゲームの背景で何度も見た魔法学園だ。なんだかテンションが上がるな!
まぁ、オレに待っているのはあまりいい未来ではないのだが……。
でも、そんな未来なんて変えてみせるぞ!
学園の男子寮に着くと、オレとセリアは使用人たちに指示を出して部屋を整えていく。オレの部屋は男子寮の最上階だった。嫡子から外されたとはいえ、オレは侯爵家の人間だからな。歴史を感じるが、それなりにいい部屋だ。
だが、順調にいくかに思われた学園生活は、早くも問題が発生した。
セリアの部屋をどうするか問題だ。
オレの部屋には寝室とリビング、ウォークインクローゼット、使用人の部屋があるのだが、その使用人の部屋が問題だった。なんとカギが付いてないのだ。
さすがにカギがないのはセリアも心配だろう。
「こうしよう。オレは使用人の部屋で寝るから、セリアは寝室を使うといい。そこならカギがあるから」
「さすがにそれはできません! 私なら大丈夫ですから、寝室はレオンハルト様がお使いください」
「だが……」
「私は、レオンハルト様が不誠実なことはしないと信じております」
「ぐぬぬ……」
そう言われたらなにも言い返せないじゃないか……。
そうだよな。オレが気を付ければいいだけの話だ。
がんばれ、オレの理性!
そんなこんなで部屋の整理も終わり、オレたちは学園の中を探索することにした。どこを見てもゲームのイベントが思い出され、オレは感動しっぱなしだったのだが……。
人の楽しみに水を差す輩というのはどこにでもいるものだ。
「ねえ、あの首の証……」
「あれは奴隷? なんで奴隷なんかが誇りある魔法学園に?」
「誰かの従者なのだろうが……。なぜ奴隷なんかを連れてくるんだ」
「汚らわしい……」
どうもセリアが奴隷ということで白い眼を向けられているようだ。
そんなことどうでもいいだろうが! 人の従者に文句言ってるんじゃないぞ!
「レオン様……。申し訳ありません。私のせいで……」
「セリアのせいじゃない! 行こう」
オレは俯いてしまったセリアの手を取ると、男子寮に戻ろうとする。
しかし、オレの行く手を阻むように一人の男が立ちはだかった。
「そこのキミ! 尊い学園に奴隷を連れてくるなんてなにを考えているんだ?」
「お前は……」
オレはその顔に見覚えがあった。ゲームで何度も見た。平民出身の主人公のよき理解者となってくれる友人ポジの少年だ。
「私はアショフ伯爵家の嫡子、エンゲルブレヒト。新入生だ」
名乗られた以上はこちらも名乗り返すべきだろう。
「オレはレオンハルト。レオンハルト・クラルヴァインだ」
「クラルヴァイン?」
クラルヴァインの名にエンゲルブレヒトが眉をひそめた。
「ねえ、クラルヴァインって……」
「あいつがクラルヴァインの嫡子から外された……」
「属性が一つしかないのよね? それって……」
「平民以下じゃないか!」
周りの貴族たちがひそひそと噂話をしている。こちらに聞こえるように言っているということは、もう悪意しかない。
エンゲルブレヒトが睨むようにオレを見る。
なんでそんな目で見られなきゃいけないのかわからん。
「レオンハルト、私は奴隷には反対派なんだ。奴隷に罪はない。キミの奴隷を開放するんだ」
会っていきなりなにを言ってるんだ?
「エンゲルブレヒト、それはお前の意見であって規則でも法律でもない。国の法律にも奴隷を禁ずるなど書かれていないし、学園の規則にも奴隷の従者について禁止していない。放っておいてくれないか?」
なんかもう相手をするのも面倒だった。
そのままエンゲルブレヒトの隣を通って男子寮に帰ろうとする。だが、エンゲルブレヒトに回り込まれてしまった。
「待て、まだ話は終わっていない」
「まだなにか用があるのか?」
「そこのお嬢さん、キミは自由は欲しくないか? キミだって望んで奴隷になったわけじゃないだろ? さあ、私の手を取るんだ。キミを開放してあげよう」
オレはエンゲルブレヒトの手を叩き落とす。
「言葉がわからないのか? もう放っておいてくれ」
「キミこそ私に意見することの意味がわからないのか? 私はアショフ伯爵家の次期伯爵だ。もちろん、それ相応の属性を持っている。キミとは違ってね」
なんでこんなにこいつはケンカ腰なの?
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