第28話 二年

 オレとセリアは、それから毎日のようにダンジョンに通った。セリアが来れない時は、オレ一人でダンジョンに潜ることもあったくらいだ。


 ダンジョンの攻略もどんどん進み、オレたちもどんどん強く、そしてどんどん稼げるようになってきた。


 もう家を出されたとしても問題ないくらい稼げるようになった。


 なのだが、あれから一向にアルトゥルから音沙汰はない。


 それどころか、アルトゥル、ベネディクタ、エドガーは、オレから逃げるように領内の別荘に引っ越してしまった。


 ここまでされれば、いくら鈍いオレでも避けられているのがわかる。


 なにもそこまでしなくてもいいじゃんと思わなくもない。オレは話の通じる人間だよ?


 まぁ、もう行っちゃったからいいんだけどさ。


 アルトゥルたちがいなくなっても、オレとセリアの生活は変わらない。毎日のようにダンジョンに潜った。


 イフリートを失ってしまった以上、この世界には邪神が復活するだろう。その時、どうなっているのかはわからない。ゲーム通りにセリアはゲーム主人公と一緒にいるかもしれないし、オレといてくれるかもしれない。


 でも、邪神が復活し、魔物の動きが活発になる世界で強いに越したことはない。


 そんな思いもあって、オレはセリアの強化に勤しんだ。


 そんな日々が二年続いた。


「ふむ……」


 侯爵家の屋敷の自室。オレは一枚の手紙を見ていた。


 王立魔法学園への入学案内だ。


 ついにこの時が来たか。


 ゲームの開始の時間だ。今頃、ゲーム主人公もこの手紙を読んでいる頃だろう。


 ゲーム主人公、お前には絶対に負けない!


「レオンハルト様、お茶の準備が整いましたよ」

「はーい。今日のおやつはなにかなー?」

「イチゴのタルト、ミルクレープ、シフォンケーキになっております」

「おいしそうだね?」


 オレは執務机からソファーに移動すると、セリアがテーブルの上にケーキを並べてくれる。それもおいしそうだ。タルトのイチゴなんてピカピカ光ってたいへんおいしそうである。


「なにから召し上がりますか?」

「うーん。シフォンケーキにしようかな」

「かしこまりました。付け合わせはなににしましょうか?」

「生クリームとルムトプフで!」

「はい」


 オレはこのルムトプフが大好きだ。季節のいろんなフルーツのラム酒漬けなんだけど、ラムレーズンが大好きなオレにメガヒットした。これと生クリームを合わせると、それはもう至高の味わいである。


「どうぞ、レオンハルト様」

「ありがとう、セリア。さあ、セリアも座って座って。一緒に食べよう」

「はい。失礼いたします」


 セリアが向かいのソファーに座り、オレはシフォンケーキにたっぷりと生クリームとルムトプフを乗せて頬張った。


「おいひい……」


 もう背筋がゾクゾクするほどおいしい。無性にバタバタと手足を動かしてこの感動を表したくなる。


 まぁ、子どもみたいだからやらないけどね。


 セリアは向かいの席でシフォンケーキにイチゴのジャムと生クリームを盛り付けていた。セリアはよくオレと一緒にケーキとか食べてるのに細いままだなぁ。羨ましい。まぁ、食べる量が全然違うから当たり前といえば当たり前なんだけどね。


 セリアが片手で耳に銀の髪をかけながら小さく切ったシフォンケーキを頬張る。オレはそんな何気ないセリアの仕草に見惚れていた。


 元王族だからか、セリアの所作は綺麗だ。ドキドキしてしまう。


「おいしいですね、レオンハルト様。クラルヴァイン侯爵家のシェフの方の腕はすごいです」

「う、うん。そうだね」


 オレはまだドキドキしながら、それを誤魔化すためにシフォンケーキを頬張った。


「セリア、ちょっと話があるんだ」


 その後、オレが大半のケーキを食べ尽くし、お茶を飲みながらセリアに切り出した。


「はい。なんでしょう?」

「その、な……」


 オレは、セリアを学園に連れていきたいと思っている。


 だが、これを言い出すのは怖い。


 もしかしたら、ゲームの展開通りにセリアがゲーム主人公の元に行ってしまうかもしれないからだ。


 オレは自分の突き出たお腹を見つめる。


 オレはデブだし、ただのゲーム主人公の引き立て役でしかないやられ役のモブだ。


 オレとゲーム主人公、どちらがカッコいいかと言われれば十人中十人がゲーム主人公と答えるだろう。オレに男としての魅力なんてない。


 正直、セリアを学園に連れていかないというのも考えた。


 でも、セリアの選択肢を奪うということだ。


 本当は嫌だ。怖い。でも、そんなことはしたくなかった。


 我ながら、難儀な性格をしているな……。


 それに、オレの目の届かない所にセリアを置いておけない。


「セリア、オレは王都の魔法学園に入学することになった。一緒に付いてきてくれるか?」

「私でいいのですか? カミラ様もいらっしゃいますけど……」

「セリアがいいんだ」


 オレの言葉にセリアが目をぱちくりさせて、そして笑顔を浮かべてくれた。


「かしこまりました」

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