第27話 あの後

「ふむ……」


 さすがにお咎めがあるかと思ったけど、なかったな。


 最悪、家を出ていけとか言われるのかと思ったけど、そんなこともなかった。


 まぁ、後で言われる場合もあるかもしれないけどね。その場合に備えて、自活できる能力が欲しいな。


「やはり、ダンジョンか……」


 ダンジョンで金を稼げればどうにかなるんだが……。そのためにはもっとダンジョンの奥に潜らないとな。


 攻略スピードを上げる必要があるかもしれない。がんばろう。


「レオンハルト様!」

「ん?」


 廊下を振り向けば、焦ったような表情をしたセリアと目が合った。


「レオンハルト様、先ほどの――――」

「ああ、それならちゃんと話してきたよ。お咎めはなしだ」

「え!?」


 まぁ、そうだよね。セリアが驚くのも無理はない。弟の小指を焼失させておいてお咎めなしというのはオレも驚いたくらいだ。オレでもちょっとやりすぎたかと思わなくもないからね。


 でも、ケジメといったら小指だし、仕方ないね。


「レオンハルト様、あまりご無理をなされないでください。私なら大丈夫ですから」

「セリアが気に病むことじゃないよ。オレがセリアをどうしても手放したくなかっただけだから。それに、ケジメはつけなくちゃいけなかったから」

「レオンハルト様……」


 セリアが悲しそうな顔でオレを見ていた。


 そういえば、公式設定集ではセリアには弟がいたな。だが、王族の生き残りがセリア一人ということは亡くなったのだろう。


 もしかしたら、俺の弟ということで、エドガーと弟を重ねている部分があったのかもしれない。


 だが、セリアは知らないが、エドガーはセリアを大事に扱うどころか壊すと明言したのだ。とても心を許せる相手じゃない。


「そういうわけでセリア、もうオレの家族の命令を聞く必要は無い。セリアはオレだけのメイドだ」


 復讐の可能性も考えられるしな。その場合、狙われるのはオレではなく立場の弱いセリアになるだろう。


「ですが……」

「頼む、セリア。オレと家族の仲は今回の件でさらに険悪になった。これはセリアの身を守るためなんだ」


 オレはセリアの手を取って、頭を下げて頼み込む。


「頭をお上げください!」

「セリアが頷いてくれるまで、オレはいつまでも頼むつもりだ。納得できないこともあるだろう。だが、今はオレを信じてほしい」

「レオンハルト様……。かしこ、まりました……」


 セリアは最終的に頷いてくれた。


 ダメだな、オレは。セリアに迷惑をかけてばかりだ……。



 ◇



 オレがエドガーの小指を燃やした日から、使用人たちがどこかよそよそしく、恐れを含んだ目で見てくるようになった。例外はカミラとセリアくらいだ。


 まぁ、客観的に見れば、オレは実の弟の指を焼いた男だからな。なにか怒られるようなことをしたら燃やされるとでも思われているのだろう。


 そんなことしないのになぁ。


 そして、動きがあるかと思ったアルトゥルたちだが、今のところ動きはなかった。廊下でオレに会っても即座に逃げる始末だ。


 まぁ、あいつらに恐怖を刻めたのならいいか。その分だけバカなマネは控えるだろう。


「レオンハルト様……。怖いお顔をしています……」

「ああ、ごめんごめん」


 オレは向かいのソファーに座るセリアに謝って、二つ目のケーキに手を伸ばした。


「うん! 相変わらずうまいな! セリアも食べるといいよ」

「はい」


 オレとセリアは、オレの部屋でおやつタイムとしゃれこんでいた。


 でも、そろそろセリアには話しておいた方がいいよな。


「セリア」


 オレはケーキを一口で食べると、お茶を飲み干して、セリアを真剣に見つめる。


「はい」


 オレの真剣さが伝わったのか、セリアはお茶を置くとオレを見つめてくる。


 スクショしたい……。


 じゃなかった。


「セリア、今のうちにセリアに話しておこうと思って……。セリアも知っての通り、オレと家族の関係は険悪だ。家を出されるのも時間の問題かもしれない。その時、セリアにはオレに付いてきてほしい。たくさん迷惑をかけると思うし、苦労させると思う。だけど、絶対幸せにしてみせるから。オレ、がんばるから!」

「ッ!?」


 セリアは少し顔を赤らめて頷いた。


「レオンハルト様……。はい……。私は付いていきます。どこへでも」

「ありがとう、セリア。オレは思うんだ。まずはやっぱりダンジョンじゃないかって」

「……え?」


 甘く蕩けていたセリアの顔が、まるで急に冷や水を浴びせられたかのように真顔に戻った。


 どうしたんだろう?


「オレに職人のようなマネはできないからね。技術も無ければ、知識も無い。ということは、やっぱり冒険者として金を稼いだ方がいいと思うんだ。オレとセリアが力を合わせれば、もっと深くまでダンジョンを攻略できる。そうすれば、二人だけでも暮らしていけると思うんだ」

「レオンハルト様……。もう……。はい……」


 セリアは呆れた顔をしながら頷いてくれた。

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