第28話 

時はソラとオリーヴが交渉している頃に戻る。

大和帝国と二重帝国の同盟や領土割譲などの交渉が成功し、解散する時のことである。



交渉が終わり、二重帝国の宮殿内にある部屋にてソラは休憩をとっていた。

千代を招き、椅子に座って紅茶を飲みながら今後の動きを検討していた時に、来訪者が現れる。



扉を叩く音が聞こえ、千代が応対する。

扉の先には女性の召使が一人立っていた。



「ソラ様に面会を求める人が」



千代「面会?」



ソラ「……誰かと会う予定も何も無かったはずだが」



召使の言葉に怪訝な表情を浮かべる千代と、予定を思い出すソラ。



「何でも、”同郷”の者であるとか」



ソラ「ほう」



召使の言葉を聞くや否や、目を光らせて前傾姿勢になる。



ソラ「わかった。会おう」



残った紅茶を飲み干そうとしたソラは思いとどまり、角砂糖を二つほど入れて良くかき混ぜ、溶けきったのを確認すると、ゴクッと一気に飲んだ。

身支度を済ませると椅子から立ち上がり、部屋を後にする。











客室にソラと千代が入ると、先客がいた。

黒髪に黒目、日本人と非常に似通った容姿の男性である。



ソファーに腰かけ、紅茶を飲んでいた彼だが、二人が入ってきたのを見ると立ち上がり、お辞儀をする。



ソラ「楽にしてくれ。公式な場ではない」



そう言ってソファーに座る。隣には千代が座り、召使が紅茶と茶菓子をトレイに載せて持ってきて机に置く。

ソラが座ったのを見て、男性はソファーに腰かける。



?「お忙しいところ、お時間ありがとうございます」



ソラ「かまわない。二重帝国での用は片付いたからな。さしてすることもなくて退屈だった」



ソラは紅茶に角砂糖を二つ入れる。よくかき混ぜると、コップに口をつけて少しだけ飲む。



ソラ「それで?同郷と聞いたが……確かに、容姿だけで見ると、同郷で間違いないな。……それで、一つ聞こうか」



コップを置き、男性の目をしっかと見て尋ねる。



ソラ「白虎という名に聞き覚えは?」



?「あります。境界世界で会いました」



男性の返答に満足したソラは顔をほころばせ



ソラ「ここで日本人と会うことになるとは思わなかった。ソラだ。同郷の誼、仲よくしよう」



そう言って、左手を差し出す。



前田「前田亮太です。ええ、勿論です。仲よくしましょう」



前田も左手を差し出して握手する。



ソラ「それにしても、よく私が日本人だとわかったな」



前田「そりゃ、大和帝国なんて言う名前と、あの兵器に軍。日本人によるものだと思うでしょう」



ソラ「はは。やっぱりな」



笑いながら、頭の後ろを左手で掻く。



しかし一転、顔から笑みを消す。



ソラ「それで?要件は、何かな?」



前田「……単刀直入に言いましょう。目的は、何ですか?」



ふっと一息吐き、ソラの鼻を見ながら前田が言う。

ソラは紅茶に角砂糖を二つ入れ、一気に飲み干した。

ニヤリと笑ってから、答えた。



ソラ「さて?なんだと思う?」










千代「……少し、意地悪すぎたのでは?」



ソラ「ははは」



空が橙色に染まった頃。

前田とソラとの面会が終わり、部屋に戻って千代とソラはゆっくりしていた。



千代は面会の時の様子を振り返り、ソラを咎める。

ソラは飄々として笑い飛ばす。



二人は椅子に座り、向かい合いながら紅茶を飲んでいる。



千代「それで、収穫はありましたか?閣下の事です。ただ同郷の者だから、という理由で軽々しく会うことはないでしょう?」



ソラ「よくわかってるじゃないか」



コップをコースターに置き、足を組む。



ソラ「私や前田のような『転移者』は、この惑星では異物だ。思想も価値観も、道徳も。転移者がどう行動しようと、何か大きな影響を及ぼす可能性が高い」



ソラは能力を使い、机に林檎を召喚する。



ソラ「あの白虎という奴から与えられた能力によっては、世界をも動かしうる。なるべく、彼らの行動理念や根本を知っておく必要がある」



千代は林檎を切り分けていく。ソラが皿を召喚し、切った林檎をそこに盛る。



千代「そうではありますが……」



ソラ「今のところ、前田は典型的な日本人的思想を持っているようだ。これがわかっただけでも収穫としては十分だろう」



千代「……そうですか。意地悪は、情報を探るためのもので?」



ソラ「まあ、そうだ。前田が、私の目的に関してどのような予想を立てているのか。その返答の内容で、彼の知識や得ている情報が幾つか類推できるからな」



皿の林檎を爪楊枝で刺して少し齧る。



ソラ「どうやら、軍事にも政治にも経済にも疎いようだ。まあ、もとは高校生だからな。この世界で学ぶ機会が無かったとしたら、致し方ないだろう」



林檎を一気に口に入れて咀嚼する。



ソラ「甘いな。この林檎、やっぱ良いな」



千代「そうですか」



千代は林檎を少しづつ口に入れては咀嚼する。



千代「それで、これからどうされるつもりで?本土に帰られますか?」



千代がそう言うと、口に入った林檎を飲み込んで言う。



ソラ「現地視察に行こう。三カ月もすれば、ある程度は落ち着くはずだ。その後、各帝国弁務官区の首都に向かう。どれくらい発展しているのか、民草の反応は如何ほどか、確かめるべき点はある。それに、この目で見たほうが、いろいろと考えやすいしな」



千代「わかりました。そのように手配しておきましょう。勿論ですが、護衛は……」



ソラ「いらん」



ソラは千代の言葉に被せる。



ソラ「集団で移動していたら、逆に怪しまれる。こっそり行くことが重要だ。護衛は、忍びたちに任せておけ」



千代「……了解です」



呆れたようにため息をつくと、千代は林檎を一切れ刺して食べた。














ミクーン神聖帝国 首都ミクーン 宮殿



ヴァルマイヤート大陸北部では超大国の地位を築き、圧倒的な国力と軍事力を持つ国家、ミクーン神聖帝国。



首都ミクーンは広大な平原の上にたっており、広い土地を余すことなく使い、数々の家屋や兵舎などが建てられている。

それらを囲むように長大な城壁が続く。

首都ミクーンは大きく三つの区画に分けられ、平民が住む第三区画と、兵士が住む第二区画、王族や貴族、富裕層が住み、宮殿も含まれる第一区画。



第三区画が一番外側にあり、城壁を挟んで第二区画、第一区画となっている。



その首都ミクーンの中央に聳え立つ巨大な宮殿の玉座の間は、重苦しい雰囲気が漂っていた。



大きな扉を開けた先には、鮮やかな模様の絨毯が続き、その左右には幾人もの豪華な服に身を包んだ人が立っている。

絨毯の先には数段の階段があり、その上に玉座が置かれている。



?「……」



玉座には、金銀で装飾された豪華絢爛な絹の服を着て、金色に輝く王冠を頭に被り、右手には杖を持った老年の男性が座っていた。

顎には白い髭を立派に蓄え、年は六十代程といったところか。

不機嫌であることを隠そうともせず、眉間には皺が寄っている。



?「さて、これは、どうする?予定外の出来事が舞い込んできたな」



玉座に座る男性は、目の前で跪く男性を眺めながら呟く。



「皇帝陛下。発言の許可を」



?「許す」



居並ぶ貴族たちのなかで、一人の男性が手を挙げる。



「ワヨウルド連盟の国々への対応は無視いたしましょう。北方への進出は後回しにせざるを得ません」



男性がこの言葉を言った瞬間、場の重力が何倍にもなる。

周囲にいる貴族は、男性を信じられないものを見る目で見ている。



?「……」



玉座の男性は黙ったまま。しかし、その表情は益々険しくなり、眉間の皺も増えている。

言葉を発した男性は額から汗を流し、体を強張らせる。しかし、勇気を出して言葉を出す。



「情報が確かであれば、現在我が帝国の脅威となるのは大和帝国のみです。二大国を併合するという狂気を見せながら軍事力は強大。いつ何時、こちらに銃口を向けるかわからないのです。彼らへの対応に心血を注ぐべきかと」



?「……それもそうか」



皇帝の言葉にホッとした様子を見せる男性。心なしか、周囲の雰囲気が和らいでいるように感じる。



?「かの国の情報を集めよ。戦力や技術力、経済力何でもよい。国力がどれほどのものか知らねばならん。そして、北方への進出は中止する。軍を即座に戻せ。連盟各国のことは気にするな。捨て駒だからな」



「御意」



大和帝国の乱舞は、大きな波紋を呼んでいる。









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