第27話 植民地での政策

北平国家弁務官区 とある村



共和国と連盟が帝国に併合されて約二カ月後。

併合後の整備がある程度終わり、各帝国弁務官区が国家として機能するようになった頃のことである。



北平帝国弁務官区のとある村。

中世の農村にある様な、土で固めた壁に藁ぶき屋根という粗末な家がポツポツと建っている。

道はわずかしか整備されておらず、その道を歩く人も、家の周辺にある畑で耕作をする農民もみすぼらしい服を着ている。



「ん~、ん~ん~」



一人の若い女性が鼻歌を歌いながら道を歩いている。

みすぼらしい服を着ているが、笑みを浮かべ、両手で抱えている籠には山盛りの木の実や果物が入っており、幸福な生活を送っていることがうかがえる。



そのまま道を歩いていく。ときおり、畑や道で人を見かけたときは挨拶を交わし、軽い雑談をする。

家の扉をあけ、リビングへと向かう。



「おかえり。あ、果物が沢山!頑張ったじゃん」



「まあね。お母さん、ご飯はどんな感じ?」



そこには鍋で夕食の準備をする女性と、椅子に腰かけて何か作業をする幼い男の子がいた。

帰宅した女性に気付いたのか、料理をしていた母親は振り返る。少年は集中しているのか、女性には何も言わずにずっと作業を続ける。



「あと少しでできるよ。これだけ沢山果物があるなら、いつもよりお金が稼げるね」



「行商人が来るまで二日ぐらいでしょ?もっと沢山採れれば、帝国円がある程度貯まるし、そうなれば本土の道具も買えると思う」



「お父さんが喜ぶね」



共和国時代の通貨はまだ流通している。当然、いきなり帝国の通貨に変更すれば混乱が起きるため、時間をかけて帝国の通貨である円へと完全移行させるつもりである。

ただし、帝国本土から送られてくる食器や家財、道具類といったものは帝国円でしか購入はできないようになっている。

もう少しすれば、納税も帝国円へと限定することになっているため、円の流通は加速すると思われる。



未知であるが便利な道具や家財。それらを得るにも、納税をするにも帝国円が必要とあれば、人は円を使いだすものである。



「ふ~……あ、姉ちゃんおかえり。帰ってきてたんだ」



「うん。どんな感じ?……いいじゃん。やっぱり器用だね」



作業を終えた弟が背伸びをして椅子から立ち上がると、姉の帰宅に気付く。

姉は弟が作業していた机の上を見ると、複数の木の皿やコップ、器が置いてある。

木を削っただけで多少粗さが目立つが、少年にしては器用である。







その日の夕食時。部屋には蝋燭の火や窓から入ってくる月明りで明るい。長方形の机を家族で囲んで食事をしている。

家族は木のスプーンで木の器に盛りつけたスープを掬って飲む。木皿にはパンがあり、少し千切ってスープと一緒に食べている。



「うん。今日も美味しいな」



「ほんと?うれしい」



農作業から帰ってきた父親が食事をしながら感想を言う。母親は嬉しそうな笑みを浮かべ、それを見ている姉弟もまた笑顔になる。



「生活がかなり楽になった。帝国が税を免除してくれたおかげだな。以前とは比べ物にならない」



「ほんとね。一時はどうなるかと思ったけど、今は帝国に感謝でいっぱい」



帝国は円の流通が円滑に進むよう、税を免除している。

その間に帝国民たちはモノを生産し、それを円へと換えて円での納税が始まった時に備えて貯蓄する。

余った円は道具や家財などの購入にあてることで、民の生活水準は上がる。



傀儡国での生活水準を上げて人々が暮らしやすく、つまり生活に余裕が出れば生産力も人口も増加。労働力を確保することにも市場を大きくすることにも繋がる。

生活への余裕は余暇の増加へ、子供の増加は人口の増加へ繋がり、即ちそれは教育や文化への投資にも繋がる。

教育が活発に行われれば優秀な人材の育成へ繋がり、生産性の向上や統治の円滑化へ繋がる。

さらに、免税によって民の反発を抑えることも期待できる。



様々な面から考えて、この政策は開始された。

そして、民から不満も出ず、順調に統治ができていることから政策は継続されているのだ。

また、他の帝国弁務官区でも同様の政策がとられている。












南平帝国弁務官区 とある街



南平帝国弁務官区の南側にある街。

この街は近くに鉱山があり、川も流れ森もあることから、木炭の生産、鉱石の精錬や加工などの工業が発展している。

また、鉱山で働く鉱員や木炭職人、鍛冶職人などを顧客とする商店や彼らの住む家屋が多く建ち、そこそこの規模の街となっていた。



「……よっと。ふ~。あ~疲れた」



「お疲れさん。ほれ、水」



「ありがとよ」



街の外壁近く、鉱山からの鉱産物を搬入しやすいように構えられた鍛冶屋。

モクモクと黒い煙が空に昇り、カンカン!と金属を叩く音が聞こえてくる。



鍛冶屋の外にある鉱物置き場に、鉱物を運んできた男性が荷物を置き、その場にドサッと座る。

そこに一人の男性が木のコップに水を入れ、その男性に渡す。

一気に飲み干した男性は、持ってきた男性にコップを渡す。



「しかし、おやっさんは張り切ってるな」



二人の視線の先には、二人の男性が鍛冶場で作業をしていた。

一人は炉に炭を入れ、空気を送り込んで温度を調節している。

もう一人は炉に金属の塊を入れ、十分に熱した後取り出し叩く。また炉に入れて、と繰り返し、剣の形になれば水に入れる。



二人とも炉に近いためか、顔には汗の水滴が溢れ、服は汗で濡れている。だが、そんなことを気にも留めずに一心不乱に鍛冶に精を出している。



「そりゃそうだろうよ。帝産組で上に行こうとしてるらしいからな。宿敵もそれを目指しているとあらば、猶更よ」



帝国産業別組合。通称を帝産組ていさんそという。

この組織は冒険者ギルドの構造に非常に酷似している。というのも、冒険者ギルドの機構を見たソラが参考にしたためである。

武具加工や防具加工、精錬業など各産業に組合が設置され、従事する労働者は対応する組合への参加が義務とされている。



日本の労働組合と似たような在り方であり、職場環境の改善や待遇の向上などを要求する際に労働者が団結するための道具である。

また、武器職人や防具職人など個人を顧客とするような店には仕事の斡旋も行っている。



冒険者ギルドと似た機構であるためランク付けもされており、ランクが高ければ高いほど、一定の給金が出されるようになっている。

また、政府から特別依頼という形で注文が来ることもある。



「組合ができたおかげで、おやっさんの腕が世間に認知されたんだ。実際、商人や冒険者からの依頼が良く来るようになったしな」



「おかげさまで俺らの給料も上がったよ。帝国様様だぜ」



このランクは公表され、誰でも確認できるようになっている。冒険者や商人などはランクを参考に商品を頼んでいる。



「おい!サボってんじゃねえぞ!」



「はい!すんません!」



「やべやべ」



一息ついた、おやっさんと呼ばれる職人が二人とも作業を中断しているのに気づいて注意する。

おやっさんに謝罪をして、二人は仕事を再開しだした。












西魚帝国弁務官区 とある漁港



ここは、ウオゲント連盟に加盟していたとある王国の西部にある漁港。

最も、今は「漁港」とは言い難いものである。



「意外と大変だな」



「少しづつ慣れてきちゃいるがね。それにしたって、ほんとにうまく行くか?」



「俺の勘が言ってるんだ。大丈夫だろうよ」



「そうかい」



彼らが現在従事しているのは、「養殖業」である。

以前にも、養殖をしていた業者はいたが、養殖「業」と言えるほどの規模でもなく、成果も乏しかった。



一般に漁業では、沿岸や遠洋へと船を出して魚を獲る方法がとられていた。

帝国が統治するようになってからは、志願者を募って一部の地域で養殖業の試運転をしていた。

養殖業が軌道に乗れば、安定して魚を獲ることが可能になるため食糧不足になる可能性が減る。

また地球でも、養殖業が発展すれば世界の魚類消費量の全てを日本だけで賄えると言われる程潜在的な力を有しており、賄うのみならず輸出にも使える。



そのためにも、ノウハウを身につけさせると共に、養殖業に魅力を感じてもらうために志願者を求め、帝国から専門家や設備などを送って業務を開始させていた。



「しっかし、帝国って凄いよな」



「ん?いきなりどうした?」



「だってよ、養殖とかいう方法は聞いちゃいたが、それを実際にやるやつは少なかった。けど、帝国じゃあ一般的な方法らしいじゃねえか」



「ああ、確かにな。それに、船もよくわからん。あんな金属の塊が、帆もないのにべらぼうに速いからな」



「そうだな。欲しいな~」



二人は記憶を辿り、目を爛々とさせる。



帝国弁務官区を通して漁船も販売されている。普通の漁民では手が出せない程高いが、ときおり披露会を開催し、実際に動いている様子を見せたり、志願者を船に乗せて漁業を行ったりなどをしている。



彼らは以前、その披露会に参加したことがあり、船への購買欲が高まっていた。

とはいえ、彼らが船を手にするのはもう少し先の事である。












南平帝国弁務官区 中央管理棟



「ぬっ!おい!このようなことをして、許されるとでも思っているのか!」



「離せ!私を誰だと思ってる!縄を緩めろ!」



?「知らぬ。貴様のような猫を縛るには、これくらいでよい」



?「ふっ。あの時とは、立場が逆だな。呂布奉先」



呂布「うるさいぞ、夏侯惇」



帝国弁務官区の政務を担当する建物の廊下を、茶色に汚れた粗末な服を着て、腹が出ている太った男性や、ボサボサの髪の男性など、複数の人を連れている二人の武人が歩いている。



抵抗する太った男性は手を後ろに回され、そこで縄をかけられている。

彼を連行する、翎子と呼ばれる孔雀の羽でできた触角を兜から生やし、二メートル近い身長の大男は、姓を呂、名を布、字を奉先という。



夏侯惇「まさか、貴様と手を組むとはな。世の中、何が起こるかわからんものだ」



呂布の後ろを歩くのは、左目に眼帯をつけた男性、姓を夏侯、名を惇、字を元譲という。



「おい!聞いているのか!」



呂布「やかましい」



大声を上げた太った男性を、呂布は左手で殴る。

ドン!という、明らかに人体を殴ったとは思えない音と共に、男性は右に吹き飛んで壁に激突する。

男性は殴られたことと、壁に激突したことの二つの衝撃によってか、意識を失ったようでぐったりとしている。



夏侯惇「おい。殺していないだろうな」



呂布「ふん。気絶しただけだろう」



連行される他の人たちは、躊躇することなく人を殴り、しかも吹き飛んで意識を失うほどの威力を持った打撃を与えた呂布に怯えた表情を浮かべる。



夏侯惇「この国の貴族は哀れだな。いや、他の国もそうか……」



夏侯惇は笑みを浮かべながら、気絶した男性に張り手をくらわせて無理矢理にでも起こさせようとする呂布を見ながら、そう独り言つ。



ここ、南平帝国弁務官区だけでなく、他の帝国弁務官区でもそうだが、未だ併合に抵抗を続けている勢力がおり、帝国は彼らをレジスタンスと呼称している。

レジスタンスの中心となっているのは、共和国や連盟に加盟していた国の貴族や王族など、政治の実権を握っていた人物である。



帝国は中央集権国家である。

議員がいるとは言っても、民主国家にいる議員とは全く異なり、地域の意見を纏め上げて代弁する役割が中心である。

貴族を制度として導入するかは未だ検討中である。といっても、ソラは前向きに考えているため、近いうちに導入されるだろうが、現在の帝国には認められてはいない。

その中で、国家弁務官区にいる兵権や自治権を持つ貴族は、はっきり言って邪魔な異物であり、早急に排除することが決定した。

これは、情報や土地を他国に流されることを回避する狙いもある。



いきなり全てを没収すると反発が生まれるのはわかりきっている。そのため、土地や兵権は没収する代わりに、財産へは一切手を出さず、一定の給金を政府から出すと共に、能力に応じて国家弁務官区の役人として働くことを許可している。

給金に関しては、いわば明治維新後の秩禄に似た制度だ。



だが、彼等からすれば既得権益を侵害、というより消されるようなものだ。

当然、抵抗するものが現れる。帝国は、抵抗する者たちに対して厳格な対応でもって応じた。



土地の没収に反対したり、妨害をしたものは皆、国家反逆罪で物言わぬ骸と化した。



だが、貴族の中には優秀で、稀有な能力を持つ者がいるのは確かである。

帝国への忠誠を誓い、その身を捧げる覚悟があると宣言したうえで、役人として働いている者もいる。

美術や音楽、建築に明るい者や、エルフやドワーフといったた種族や、周辺の文化や歴史に詳しい者、兵の指揮に秀でた者などなど、他の形で帝国に貢献している者もいる。

最も、彼等には諜報員が数人付けられ、監視下に置かれているのは言うまでもない。



呂布と夏侯惇は、反抗する貴族たちを捕らえ、特別裁判所に連行する。

死罪を言い渡されるだろうと思いながら場を後にする。



二人は外に出て、訓練用に設けられた広場に行く。

広場の真ん中で距離を取って、互いに向かい合う。



呂布「さて、仕事は片付いたんだ。今度こそ、決着をつけるとしよう」



呂布はそう言うと、どこからともなく方天画戟を取り出して構える。



夏侯惇「望むところだ」



対する夏侯惇も、腰の剣を抜いて構える。



広場にいる見張り役の兵は、呆れた様子でこれを眺めている。

どうやら、ここではいつもの事のようだ。



各帝国弁務官区は完全とは言い難いものの、次第に安定しつつあり、帝国政府の投資によって発展の兆しを見せつつある。







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