第26話 帝国の乱舞
オリーヴ「な……!いくら貴国といえど、全土割譲は流石に問題が……」
全土割譲。言ってしまえば、国家の消滅を意味するものである。
本来、割譲を要求する場合は国土の一部、もしくは租借という形をとるのだが、ソラの言った言葉はそれを超越した要求であり、前代未聞である。
あまりの驚きに言葉が詰まったオリーヴだが、気を持ち直して何とか言葉を出す。
ソラはオリーヴの言葉にかぶせる様に言う。
ソラ「問題ありません。此度の戦争で、彼らは我が国の義勇軍から大打撃を受け、貴国との講和条約で国力は疲弊しました。もう一度、我々と一戦交える余力は無いでしょう」
オリーヴや大臣たちは唖然として言葉も出ない。
その表情には、驚きと困惑が見受けられる。
ソラ「……ん?ああ、そういうことか。賠償金の事なら気にしないでください。彼らの貴国に対する借款は我が国が代わりに払いましょう。条約の内容を見た限り、我が国の財政には何ら支障をきたさないようでしたから」
未だ呆然としている大臣たちだが、オリーヴは引きつった笑みを浮かべ
オリーヴ「でしたら、問題はありませんね。ええ。全く。我が国は平和を愛しておりますから、貴国と事を荒立てる気はありません」
そう答える。
ソラ「おお、そうですか。ありがとうございます。では、この要求はそのまま通すとしましょう」
ソラは満面の笑みを浮かべると、外交官に要求書を下がらせた。
すると、ソラが疑問を呈する。
ソラ「おや、どうされました?暑いようでしたら、我々は問題ありませんので室温を下げて頂いてもよろしいですが……」
オリーヴ「い、いえ、お気遣いいただきありがとうございます。なにぶん、大陸外の国家から元首が来るのは初めてですから、少し緊張しまして」
ソラ「ははは。そうですか」
オリーヴをはじめ、二重帝国側の参加者の顔には汗が流れていた。
ソラはそれを見て言ったわけだ。
彼はオリーヴの返事に愛想笑いを浮かべる。
ソラ「さて、前置きはこのくらいにして、本題に入りましょう」
しかし、ソラのこの言葉と共に、場は張り詰める。
ソラ「戦争により一旦は流れてしまった軍事同盟の件、いかが致します?」
オリーヴの目が鋭く光る。
彼女の隣に座る大臣たちは口を固く閉ざし、開けることも無い。
大臣の一人がチラリとオリーヴを見て頷く。
オリーヴ「その件ですが、こちらからお願いしようと思っていました」
ソラ「そうですか!貴国との友好が確立できるとは、何とも嬉しい限りです」
オリーヴは力を込めて言う。
ソラは大げさな対応をする。
はたから見れば、ただの茶番に見える。
ソラ「では、細かい部分に関しては……」
約一か月後、ヴァルマイヤート大陸北西部に激震が走る。
ヤガ=ソジャー二重帝国が大和帝国という新国家と接触したことを発表。
それと同時に、二重帝国と大和帝国間で技術提携、通商条約及び軍事同盟の締結を宣言。
また、ウオゲント連盟、へイヴリ共和国とヤガ=ソジャー二重帝国間の戦争、『前兆戦争』で大きく活躍をしたこの軍は、大和帝国の義勇軍であるであることも発表した。
だが、周辺国家が動揺したのはこれではない。
二重帝国の発表数日前に、ウオゲント連盟とへイヴリ共和国に大和帝国が外交官を送った。
この二つの勢力は二重帝国の時と同様に、大和帝国が友好的に接してくるかと思いきや、会うや否や併合を要求。
拒否すれば即座に宣戦布告という、最後通牒を突きつけた。
前兆戦争とその講和条約で国力が尽きた二勢力は、渋々ながらも要求を受諾。
抵抗をする貴族や国に対しては侵攻して屈服させた。
二勢力の領土を手に入れた帝国は、この領土を五つに分割。
へイヴリ共和国の北部には『
へイヴリ共和国の南部には『
ウオゲント連盟の東部には『
ウオゲント連盟の西部には『
これらは、傀儡国のようなものである。
そして、帝国がここまで大胆な行動に出た最大の理由でもあるダンジョンを管理するために、その周辺を『帝国特定管理区』として直轄領とした。
ウオゲント連盟の東端とへイヴリ共和国の南端にはダンジョンが一つずつある。しかも距離が非常に近く、その距離は百メートルのビルの屋上から微かに見えるほど。
ダンジョンからは魔物の肉や武具防具、魔石などが手に入るうえ、兵の訓練場、兵器実験場としても使える便利な場である。
これらを管理しやすくするために、こんな無謀とも言える行動をしたわけだ。
勿論、帝国が独占すると冒険者の稼ぎ場が無くなり問題となることは火を見るより明らか。
民間へは以前のように開放し、帝国が利用するときだけ封鎖するという政策をとった。
ウオゲント連盟とへイヴリ共和国の消滅。周辺国からは地域大国として認識される二勢力が大和帝国という新国家に併合され、しかも二重帝国と同盟を結んだ。
この出来事は、周辺の勢力均衡を大きく崩すこととなる。
多くの国が友好的な関係を結ぼうと動き出している。だが、それは一旦置いておこう。
帝国が新たに手に入れた領土でどのような政策をし、それに対する民の反応は如何ほどか。これを見ていこう。
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