第24話 対共和国戦 中 電撃戦

共和国南西部 連盟国境付近の城




「……はぁ~……疲れた。いつまでこうして立ってりゃいいんだ?」



「おいおい。交代してすぐだろうが。もうへばったのか?」



「仕方ねえだろ?見張りは退屈なんだよ」



城の城壁の上で、二人の衛兵がだべっている。



彼らの目の前の平原には花が咲き誇り、鳥が囀る声が聞こえる。



微風が吹き、近くにある木の葉がそよそよと揺れる。



空は満天の青空だ。



「なあ~んも起こらねえし、酒でも飲んでいてえよ」



「だが、仕事は仕事だからな。二重帝国の動きが不穏なのに加え、連盟が正体不明の軍によって倒された。恐らくヤガと手を組んでいるだろうから、こちらに侵攻してくる可能性がある。見張りは必要だ。とはいえ、常に神経を張り詰めた状態でいるのはちと酷だな」



少し強い風が吹き、木の葉が音を立てて揺れる。



「だろ~?実はな。最近良い酒を買ったんだ。そいつ持ってくるから、一緒に飲もうぜ」



空に雲がかかり、青空が見えなくなる。



「バカ!仕事中だ。兵士長に見つかったら大目玉くらうぞ」



「大丈夫だって。そうそう見つかりは……」



その時、遠くに見える森から、多数の鳥たちが一斉に飛び立つ。



「ん?何だ?」



「どうした?気にすることは……」



言葉が続くより先に、城に何かが激突して大きな爆発音が響く。



「な、何だ!?一体何が……」



「おい!あれを見ろ!」



混乱した二人の視線の先には、動く鉄の塊が火を噴いて城を攻撃する様と、鬨の声を上げながら突撃してくる無数の兵士があった。



「何だあいつら!?……まさか、連盟を降伏させたっていう……」



「急げ!敵襲を報せに付近の城へ……」



言葉を言い終わらない内に、城門が轟音と共に爆ぜる。



「な!?城門が一撃で……」



視線の先にあった城門は、見るも無残に破壊され、瓦礫の山と化した。

鉄の塊の先にある筒から火を噴いたと思うと、爆発が起こり壁が壊れる。



時が経つとともに城壁の破壊が進み、崩壊した城壁から兵が場内に侵入。

迎え撃つため中から出てきた城兵は銃撃により一掃され、城の奥深くまで易々と侵入を許した。



遂には、抵抗は不可能と判断した城主が降伏。



こうして、国境付近の城は数時間と持たずに陥落した。



帝国による共和国侵攻が始まった。












春聖大陸 帝都京 総統官邸



ソラ「戦況は?」



帝都中央にある巨大なビル。総統官邸と呼ばれるこのビルの執務室で、ソラは帝国各地から送られてくる資料を確認しながら、千代に戦況を聞く。



千代「いたって順調です。現在、帝国義勇軍は連盟を制圧後、共和国への侵攻へ向けて準備を行っています。不安なのは、補給線が伸びきってしまう可能性は十分に考えられ、連盟の港を使用して物資を送っていますが、あまりにも長期戦になると補給不足で戦闘困難になるかと」



千代は直立不動のまま、ソラの前で報告を続ける。

報告を聞き終えたソラは、机の左側にある紅茶を少し飲む。



ソラ「まあ、共和国は現地部隊で十分、というより、これ以上援軍を送るのは不可能だ。補給線がパンクする。鉄床作戦が上手く行くことを祈るだけだな」



報告資料をジッと眺めていたソラは、とあることを思い出した。



ソラ「そういえば、与一と長可の二人はどうだ?役に立っているか?」



千代「はい。たった二人でも動け、かつ破壊力も十分にあります。現に、砦への奇襲や本陣への突撃を成功させ、連盟側の総大将も討ち取ったと」



ソラ「そうか。やはり、彼らは強力だ。帝国の切り札たりうる力を持っている。特に、複数で動かせば比類なき力を発揮する。問題は……」



ソラは、用箋ばさみに綴じてある報告資料に目を通す。

そこには、長可の攻撃を避け、反撃をかけたネリレールキア王国の王子についての報告書があった。



ソラ「森武蔵守長可。『開闢者』の一人」



大和帝国を建国した際、オストラントに来て初日を終えようとした時に聞こえた謎の声が再び聞こえた。能力を確認したところ、能力が成長していた。

能力がⅢへと成長したことでなのか、今までとは明らかに違う変化が起こっていた。



ソラ「『開闢者』とは、私の能力による影響なのかはわからんが、ホモサピエンスとは思えん程の力を有する者。身体能力だけでなく、魔法じみた超能力まで保有する」



彼らは、ずば抜けた超人的能力を持つが故に、その力を宝の持ち腐れにするわけにも、失うわけにもいかない。だからこそ、忘却機関で一括管理することにしている。



ソラ「それでもなお、対抗しうる力を持つ者がいるとは……。千代、かつてカラザルで見たエルンストという人間を覚えているか」



千代「ええ。彼の超人的な力は、目を見張るものがありました」



魔法を使用していた人間は、数は少ないながらも見てきた。

彼らと比べて、エルンストの力は頭一つ抜けていたのである。



ソラ「魔法だけではなく、身体能力も凄まじいものだった。ここは地球ではない。だから、この惑星に住む人間も当然、ホモサピエンスではない。だが、この王子やエルンストは異常だ。明らかにおかしい」



ソラは蟀谷に手を当て、王子の資料を睨む。

しばらく、そうしていたソラだが、気を取り直したのか、執務を再開する。



ソラ「まあ、それは後だ。二重帝国との会談は?」



千代「へイヴリ共和国との戦争が終わり次第開始します。ですが、よろしいのですか?閣下が直々に行かれる必要はないと思うのですが……」



不安そうに千代が聞くと、ソラはフッと笑う。



ソラ「なあに、開闢者を三人ほど護衛として連れて行けば問題ないだろう。それに、帝国初の大陸領土を持てるかもしれん。私が向かえば、交渉に本気だと圧をかけられる」



千代「……わかりました。これ以上は言いません」



溜め息を吐きながらも、ソラに従う千代。



千代「では、失礼します」



用を終えた千代は部屋を退出する。

ソラただ一人となった部屋で、執務を続ける。

ときたま、紅茶を飲みながら。













ヴァルマイヤート大陸北西部 へイヴリ共和国 首都へイヴリ 官邸



ウルフ「……どうする?この状況を打破する策はあるか?」



官邸にある会議場で、居並ぶ貴族たちを見ながら尋ねる。

貴族たちは項垂れたまま何も答えない。雰囲気はお通夜のようだ。



「……二重帝国との戦争は順調です。主力が到着したとはいえ、数の差で圧倒できるでしょう。このまま押し切れば……」



ウルフ「そんなことはわかっている!私が聞いているのは、南から来る謎の軍への対処だ!首都目前まで迫られているんだぞ!下手すれば、ここも陥落する!」



机に拳を振り下ろし、大声でまくし立てるウルフ。

彼の言う通り、現在共和国は危機的状況に陥っていた。



西方で二重帝国へと侵攻を続ける中、南西部から謎の軍が襲来し、瞬く間に城塞が陥落。

首都へ向けて前進しながら途上にある城塞を落とし、今や首都近くまで侵攻を許していた。食い止めようとする部隊は鎧袖一触にされ、もはや正面から戦おうとする者は現れなくなっていた。



ウルフ「軍の主力は出払っており、食い止めようとする部隊も全てが壊滅した。まだ距離があるから良いが、彼らは後数日もすればここに到着するだろう。こうなれば、屈辱だが首都を捨てる覚悟を……」



ウルフは顔を俯かせ、悲壮な表情を浮かべると共に拳に力を入れる。



すると突然、バン!と音を立てて一人の兵が入ってきた。



「会議中失礼します!城壁の衛兵から緊急連絡!南方から謎の軍が襲来!既に幾つかの地点では戦闘が発生しています!」



ウルフ「なんだと!?」



兵からの報告を聞いたウルフは思わず立ち上がる。

顔からは汗が垂れ、膝はわずかに震える。

周囲にいる貴族たちも狼狽え、顔色が悪くなっている。



ウルフ「どうしてだ……速い、速すぎる。昨日の今日で、何故……」



手をわなわなと震わせ、譫言のように同じ言葉を繰り返している。

一寸気が動転していたウルフだが、正気に戻ると命令を下す。



ウルフ「……仕方ない。ここは放棄する!即刻、持てるだけの物資を持って主力の元へ……」



?「聞けい!」



ウルフが言葉を発している途中、どこからか凄まじい大音量で男性の声が聞こえた。



ウルフ「何だ!一体誰の……?」



「閣下!あそこを!」



その声に驚いていると、貴族の一人が窓の外を指さす。

その先には城壁に設置された塔があり、その上に二人の男性が立っているのが見える。



一人は鎧を着込んで槍を持ち、もう一人は長髪の弓を持った男性。

森武蔵守長可と那須与一資隆である。



長可「貴様らは、既に負けた!首都は我らの包囲下にある!どこにも逃げ場はない!即刻降伏せよ!繰り返す!即刻降伏せよ!降伏する場合、白旗を掲げて参上せよ!三時間以内に返答がない時は、ここは瓦礫の山と化す!」



端的に告げた長可は塔の上で胡坐をかいて座り、与一は彼の後ろに立ったままだ。



「……どうしますか、閣下」



ウルフ「……」



ウルフは窓から城壁の外を見る。

二人が居た先は勿論のこと、東西南北どの方向にも鉄の塊のような物体が確認できた。

おそらく、謎の軍のものだと思われる。



ウルフは血が出るほど唇を噛み、震えるほど拳を握りしめ、顔真っ赤にしながら命令を下した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る