第22話 対連盟戦 後


「防備の方は?」



「問題ありません。各部隊との連絡を密にし、馬防柵や落とし穴を各所に設置していますから、奇襲もしにくいでしょう」



アミレシア平原の南側に展開する連盟軍は、切り開いた森の中に本陣を敷き、そこを中心とした円を描くように軍を展開している。いわば、方円である。

本陣を守るように展開することで、奇襲を受けたとしても増援を送れるようにすることと、奇襲を受けても司令塔が機能不全に陥ることを恐れたからである。



ここで時間を稼ぎながら、へイヴリ共和国が二重帝国を降伏させるのを待つ戦略に変更したのだ。



「兵糧は?」



「先日、輜重隊が到着したので充分にあります」



「良かった……。これなら、もうしばらくは耐えられるな」



各地で兵たちが休息をとりながら、炊事の用意を進めていく。

煙が至る所に立ち上り、食材を調理場へ運んで行く兵もいる。



中央の大きな幕の中では、総大将であるネリレールキア王国の王子含め、数多くの貴族たちが今後の対応を話し合っていた。

長机を椅子で囲み、そこに座っている。

王子は森で手に入った果物を切ったものを皿に盛り、それを食べながら会議を進める。



「さて、やっと落ち着いたところだが……これからどうする?防衛は大丈夫だろうが、攻撃に回るのは避けたいところ。痛い目を見る可能性が高い」



「ですが、このままですと、へイヴリ共和国に手柄を全てを奪われてしまいます」



「兵を無駄に失うわけにはいかん。兵の大半は常備兵でもない、農奴や貧民の徴募兵だ。彼らは食料の生産基盤でもある。無駄死にさせては、国力を大きく損なうことになりかねん」



「しかし……」



「落ち着け。焦るのもわかるが、功を急いては勝てる戦も勝てん。落ち着け」



王子は、少し小さな声で言う。

他の者も同じように進言するが、有効的でないと思った策は次々に切り捨てていく。



「……」



長身の男性は、そんな王子の様子を黙ってみている。

時折、王子から視線が来るたびに頷いたり、首を振ったりしている。



「……まあ、良いだろう。中規模の部隊を任せる。後は……ぬっ!」



「なんだ!」



会議中、いきなり轟音が鳴り響き、強烈な風圧と砂埃があたりを襲う。

風で幕が吹き飛び、人ですらも立っていられない程であった。



爆発が起こったところに向かうと、そこには一人の男性がいた。

槍を一人の兵の首に突き刺し、それを抜いたところだった。

兵は力なく地面に倒れる。

見ると、あたりには数人の兵が血を流しながら倒れていた。胸や首あたりから血を流しているため、既に絶命していると思われる。



長可「お!大将首、見つけた」



王子たちに気付いた長可は口角を上げ、立派な鎧を着る男性を大将級の人物だと思ったのだろう、一気に駆けて手に持っている槍を王子の胸目掛けて真っ直ぐに突く。



王子は左足で蹴り、右側前方に進むことで槍を避ける。左足を遊脚側下肢にしたが、蹴り出した際の威力の大きさたるや、地面に罅が入り、少し窪んでいる。

右足で止まり、そのまま蹴り出して左腰に提げる剣を抜くと同時に横に薙ぎ払う。



向かってくる剣を避けようと、槍を地面に突き刺し、棒高跳びのように飛び上がる。

着地した長可は槍を引き抜きいて構えなおす。



長可「……それ、まじか……。早めにケリつけるとするか」



冷や汗を流しながらそう言った長可は、一度槍を少し上げると、王子に向かって構える。



「……何者だ?」



王子は剣を右手に持ち、長可へと向かって問う。



「王子を守れ!」



「敵襲!敵襲!」



辺りでは護衛の騎士が王子を守るように囲み、敵襲を知らせる太鼓の音が鳴り響いている。

周囲から慌てた様子で兵士が来て、長可を取り囲む。



長可「……さあ、誰だろうな?」



「答えぬか……ならば無理やりにでも、がっ!」



王子が駆けだそうとした時、どこからともなく矢が飛来し、王子の胸を貫いた。



長可「でかした!」



周りが、王子が撃たれたことに戸惑って動けないでいる間、その一瞬の隙を逃さず王子に接近して、槍で王子の首を突き刺す。

王子は大量の血を流して、ぐったりしている。



「一体どこから、ぐふっ!」



「弓兵だ!弓兵がいる!」



至る所から次々に矢が撃たれ、それに当たった兵がバタバタと倒れていく。

恐るべきは、飛んでくる矢全てが命中していることである。



与一「はい、もういっちょ!」



空中に躍り出た与一が、そのまま弓を引き絞り矢を放つ。



長可「お、ら、よっと!」



それを見た長可は、王子の首から槍を引き抜くと、槍を力一杯地面に振り下ろす。

凡そ人間が出せるとは思えない轟音と衝撃が生まれ、周囲にいた人間は空中に吹き飛ばされる。



吹き飛んだ人間に矢を連続で当てて命を奪っていくと、地面に一度降りた与一は再び矢を弓の弦に番えるが、人ではなく幕に狙いを定める。

さらに、一瞬にして矢尻に炎が纏ったと思うと、それを放つ。

幕に当たった矢に灯る火がそれに移って燃やしていく。



与一が再び矢を番えた瞬間、また矢尻に炎が生まれ、それを放つ。



長可「与一殿!指揮官の多くは既に討ち取った!そろそろ退くぞ!」



与一「承知!」



周りの人間の殆どが息絶えたのを確認した長可は撤退を告げる。

同時に、腰に提げる刀を抜いて王子の首を刈り取ると、それを持って走り去る。

与一は長可の後ろをついていった。



二人の襲撃を受けた場所は、矢で射られ、槍で突き抜かれた兵の死体であふれ、幕は豪快に燃えていた。











そこからの連盟軍は悲惨だった。



森長可と那須与一の二人の襲撃で軍の頭目は討ち取られ、他の高位貴族たちも死亡し、指揮系統が麻痺したところに、帝国軍が機甲師団を前面に押し立てて総攻撃を開始。

砲兵による砲撃で混乱状態になっているところに大量の鉄の塊があらわれ、主砲や機関銃で銃撃され、その後ろからは装甲車を中心とした機械化歩兵の集団が残党を一掃する。



なんとか態勢を整えようとするも、総司令部が機能していないため、近くにいる軍としか連携できず、抵抗力が大きく下がってしまった。



森の木々を戦車で強引に突破、メキメキと倒れていく木、剣も槍も効かず、次々と兵を銃撃していく帝国軍を見て、連盟軍は士気崩壊を起こした。



蜘蛛の子を散らすように逃げる連盟軍を、騎士や貴族と思しき兵を中心に追撃する。



長可「……こりゃひでえ」



与一「混ぜたら危険ってやつかね?個と群、両方とも力のある軍勢が、これほど強力とはね……」



二人は、散り散りになって逃げる連盟軍を木の枝の上から眺めていた。











約一か月後、連盟と二重帝国は停戦した。

講和条約は共和国との戦争が終了次第、同時に結ぶことになった。



この間、帝国軍は全速力で各国首都を次々に強襲。

頭を潰すことで、短期間で戦争を終わらせることを狙ったのだ。



目論見通り、王や王族、貴族が次々と捕らえられ、もはや交戦はできないと考えた国が次々と停戦を申し出て、最終的に全加盟国が停戦協定に調印。

二重帝国の南で行われた戦いは終わりを告げた。



しかし、戦争はこれで終了したわけではない。



この一か月の間で、へイヴリ共和国は更に前進しており、二重帝国南の重要拠点の内、いくつかは陥落、乃至攻撃されている状態であり、救援に向かう必要がある。



次は、共和国との戦争を見ていくとしよう。















境界世界



白虎〔……お!こいつはやるな~。ここまで強くなるとはね。……あちゃ~死んじゃったか。これで何人目だ?もうちっと粘ってくんないと~〕



真っ白な風景が広がる境界世界で、白虎は送り出したソラたちの様子を観察している。

一度本部へと帰った後、この場所に再び戻ってきて観察を続けているのだ。

まるでスポーツ観戦をしているように。



白虎はロッキングチェアに座りゆらゆらとしながら、右側にあるテーブルの上にある茶を飲んでいる。



白虎〔やっぱだめだね~。大した目的や信念みたいなのを持ってない人間は。しょうもないことを言い、しょうもないことをし、しょうもなく死んでいく。だけど、現代の人間はそういった奴が何故か多いんだよね~。戦国時代とか、昔の人間は面白い奴が多いのに。なんでだろ?…………けど、その中でも指折りなのが……〕



白虎は映し出している映像を幾つも消していき、数個に絞る。



白虎〔こいつらだよな~。思ったより面白んだよね~。こいつとか何?女の子侍らせすぎでしょ。いつか刺されない?大丈夫?……対照的にこの女の子は凄いよな~。どんだけ一途なの?これだけ強けりゃ、誰か雄と結ばれてもいいのにね。……この男の子は……うん、真面目君だね。この女の子も。偶然にも合流したとは言え、こんな似てることある?な~んか変な組織立ち上げて人助けしてるし。……とはいえ、あのお方と、こいつには勝てんか〕



白虎は観察対象を次々と変え、最終的に二人を見続けた。



それは、帝国の総統となったソラと、紫色をした人型の生き物を統率する一人の男であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る