第21話 対連盟戦 中
「……そうか、わかった。休息をとり、合流してくる味方を手助けしてやってくれ。対処については、こちらが考えておく」
「……わかりました。それでは、失礼します」
跪いていた大男が立ちあがると、そのまま幕から去っていく。
それを見ていた、長身の華やかな服を身にまとう若い男性は溜め息を吐く。
「たしかに予想はしていた。だが、これほどとは……」
「いかがいたします?こちらには、六十万の兵がいますが、大きな損害を被るのは間違いないかと……」
「オブ城へ向かわせた二十万が、ここまで数を減らしているとは……」
先ほど立ち去った大男は、オブ城攻略の指揮を執っていた大将である。
必死に馬に鞭うち、なんとか本隊との合流に成功したのだが、率いていた将兵は、その数を大きく減らしてしまっていた。
戦死した者や追撃で死亡した者、道がわからなくなって合流に失敗した者や軍から脱走した者などが多数いるからだ。
「まだサブンダン城を落としていないのに、やつらと戦おうなど正気の沙汰ではない。六十万はいるとはいえ、彼らが未知の敵であることには変わらない」
「それに、この辺りの地形は奇襲を受けやすい。聞けば、オブ城では奇襲をうけて混乱状態になったところを叩かれた。同じ轍を踏むことになりかねん。それに、そろそろ兵糧も乏しくなってきたころだ。一旦撤退して、態勢を整えるのは?」
幕になかにある長方形の机を囲むように座る男性たちが、各々の対策を口にする。
それを黙ってみている一人の若者がいた。
「…………」
彼はネリレールキア王国の王子にして、六十万の軍勢を率いる総大将でもある。
二重帝国への復讐に燃えていながら、賢く冷静であることから総大将に就任した。
「お前ならどうする?」
彼は、長身の若い男性へと話しかける。
「どう、とは?」
「わかったことを。これからの動きだ。オブ城方面の兵が合流して、我々は約七十万を率いることになるだろう。だが、そうなれば統率が困難になる。ただでさえ、現状でも前線での諍いが絶えないにもかかわらず、更に数を増やしては余計な火種を生む。それに、兵糧が少なくなっているのは確かだ。そろそろ、次の兵糧が送られてくる頃合いだ。さて、この状況で、お前さんはどう動く?」
尋ねられた長身の男性は、机に広げられた地図を睨みながら、顎に手をあて思考を始める。
しばらくすると、意を決したように顔を上げた。
「撤退でしょうな」
「なぜだ?」
一言、そう言った男性に、王子は理由を尋ねる。
男性は地図を見ながら答える。
「いくつか理由がありますが、大きなものは三つ。一つは、周辺の地形と彼らの戦い方です。サブンダン城周辺は隠れられる遮蔽物となるものが多い。そのうえで、彼らは寡兵です。寡兵が大軍へ立ち向かう時、搦手を使うのが定石です。それに、今までの報告から考えると、彼らは隠れながらの遠距離での攻撃を主としています。一方的に攻撃されるのがオチです」
長身の男性は、地図を使いながら続ける。
「二つ目は、作戦がもはや機能していないことです。本作戦は、東方のへイヴリ共和国、南方のウオゲント連盟の二正面から攻撃することで、二重帝国軍を分散させて勝利を得やすいようにすることが狙いでしたが、彼らの登場により、想定より敵戦力を上方修正せざるを得ません。というよりも、どうやら二重帝国はこちらに主力を配備しているようで、東部戦線では遅滞戦闘をしてへイヴリ共和国軍の足止めをしている様子。そもそもが上手くいっていません」
男性は王子の眼を見ながら続ける。拳を握りしめながら。
「三つめは、彼らの動きです。こちらに向かうならまだ良いですが、手薄な本土に向かわれては終わりです。サブンダン城攻略は順調とは言え、完全に落とすにはまだ時間がかかります。その間、各国の首都が襲われて国王が捕らえられた、ないし王族が全滅した、という場合になれば、国は確実に荒れます。そうでなくとも、首都が襲撃された時点で、国としては危機的状況です。完勝とは到底言い難い。これほど動員してビターピース?冗談じゃありません」
「……」
黙って聞いていた王子は、男性が話し終わると目を瞑る。
彼の頭の中では、いくつものシミュレーションを重ねている。
断片的ではあるが、現状得ている情報から彼らの目的を推測する。
ネリレールキア王国は二重帝国と一戦交えたこともあり、かねてから暗部を忍ばせていた。そこから、かの国が新たな国と接触したとの報告も入っており、新国家と謎の軍との間に類似点があることから、彼は謎の軍は新国家の軍ではないかと疑っている。
では、新国家の狙いはなにか。それも考慮したうえで、王子は命令を下す。
ヤガ=ソジャー二重帝国南方 アミレシア平原
「この地で決戦か……我々の独壇場となりそうだな」
「補給は終わったか!急げ、時間はないぞ!」
二重帝国と連盟の境に広がるアミレシア平原は、東に山、西に大きな川があり、しかも左右の至る所に森があるという、攻撃には不向きな場所であった。
しかし、連盟から二重帝国に大軍を向かわせるとなった時、ここを通った方が軍を動かしやすく、補給路も確保できる。行軍できる場所は他にもあるが、隘路だったり、非加盟国の領土を通る必要があったりと、何かと不自由がある場所が多かった。
また、大要塞であるサブンダン城を攻略すれば、そこを中心に二重帝国領内に浸透できるため、好都合ではあった。
現在、アミレシア平原の北には帝国軍三個師団と二重帝国軍が、南には連盟軍が展開している。
また、連盟軍は撤退する際に罠を大量に設置して時間を稼ぎ、その間、森に斥候を放ったり、罠を設置したりと、奇襲がしにくいように工作を施していた。
「そこだ!放て!」
「くそっ!鬱陶しい!」
それらを取り払おうとする帝国軍を、連盟軍は弓兵部隊を活用して徹底的に妨害。
森の中に隠れながら、撤去作業中の帝国軍に矢を射かけていく。
弓兵を排除しようとしても、木を遮蔽物にしているために、なかなか排除できない。
また、森を焼き払おうにも、航空隊がいないため焼夷弾は使えず、火炎放射器でも焼きにくいため、渋々放置することにした。
こうなれば、持久戦となるのは必然である。
帝国側は、数も多く防御に回る連盟への正面攻撃を恐れ、連盟側は圧倒的な力を持つ帝国と戦うことに恐怖する。
だが、当然ながら、帝国としてはこの状況は打破しなければいけない。
「思ったより軽快に動くな……。機甲師団が撤退中の敵部隊と遭遇したらしいが、それほど速く動くとは……」
「報告によれば、へイヴリ共和国の攻撃が激しくなっているらしい。早いうちに終わらせないと、二重帝国が限界を迎える」
「だが、あの数をどうやって御す?いくら技術差があるとはいえど、六十万だぞ?それに、オブ城の軍が合流して七十万は超えているらしい。あれに突撃するとなると、さすがに怖いぞ?」
既に、戦闘開始から一カ月は過ぎている。その間、へイヴリ軍の妨害をしてきたと言えど、二重帝国はじわじわと占領されており、このままでは二重帝国が降伏しかねない。
派遣された帝国軍の指揮を執る大将は、司令部の幕の中で椅子に座り、対応策を考える。
その幕に、二人の男性が入ってきた。
与一「そろそろ、我々の出番ってところかな?」
長可「全く出番がないから、退屈しているんだが」
那須与一資隆と、森武蔵守長可である。
二人は入ってくるなり、大将へと話しかける。
与一「七十万を相手にするのは厳しいけど、頭を潰すくらいならできるさ」
「……やってくれるかね?」
与一「任せてよ」
「……わかった。では、敵の本陣と思われる場所を急襲し、総大将の首を取ってきてくれ。できるなら、指揮官級の貴族も討ち取ってくれると助かる」
与一「はいよ」
長可「では、偵察と行こうか。本陣の場所を調べなければ」
「偵察部隊と連絡を取ってくれ。君たちの力になるはずだ」
大将の言葉に、与一は片手を上げ、長可は頷きをもって返す。
長可「では、攻撃をするときは連絡する。それまで、総攻撃の準備をしてくれ」
「ああ。わかった」
幕を出た二人。
そのまま偵察隊と連絡をとり、周辺の細かい地形や布陣の仕方から、大まかな本陣の位置を推測する。
いくつか当たりをつけた二人は、凄まじい速度で駆けていった。
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