第17話 国家の勃興 後
千代「休憩が終わりましたので会議を再開いたします」
休憩を終え、会議が再び始まった。
千代は資料を参加者各位に配った。
千代「この会議では、帝国の外交方針を決定いたします。資料は、情報部によるヴァルマイヤート大陸のより詳細な調査結果です。情報部、説明を」
ラインハルト「はい。先ほども説明しましたが、現在ヴァルマイヤート大陸北西部では民たちの反乱、『終戦反乱』が発生。各国はその対処に追われているわけですが、更なる調査を進めていくうちにとある情報が入ってきました」
ソラ「とある情報?」
ラインハルト「はい。此度の反乱では、ル=ジンゲン協商連合が軍事介入しているようで」
マンシュタイン「協商連合が?経済活動に専念する傍ら、死の商人として活動している奴らが直接介入?おかしな話だ」
五十六「協商連合に攻撃した勢力がいたのか?」
ラインハルト「どうやら、そういうわけではないようで。何かしらのルートを通じ、協商連合は我々の噂を聞きつけたらしく、それが介入の原因となったと思われます」
ソラ「噂?それがどうして介入に繋がる?」
ラインハルト「お手元にある資料を見てください。資料は協商連合加盟国の小国、『ヤガニア公国』と大公クリストフ・ミールス・セリュジエについてものです。公国は軍需産業が主要産業で、今回の動乱で多額の利益を得ましたが、商売を続ける過程で我々について聞きつけたらしく、我々の持つ兵器を狙って介入を開始したようです」
千代が配った資料を見る参加者。その資料の一枚目は、協商連合の地図であった。それをめくると、同じ地図が書かれていたが、ヤガニア公国の場所が目立つよう、赤い丸でマークされていた。
ロンメル「軍需産業が盛んなら、なおさら新兵器を手に入れたいと思うはずだな」
ラインハルト「大公クリストフは、手に入れたいものは何としてでも手に入れようとする貪欲な人物で有名であるらしく、彼は動乱で兵器を手に入れられなかったため、その後発生した終戦反乱では直接介入を決定。我々の痕跡を探そうと躍起になっています。その他の殆どの加盟国は黙視していますが、一部は介入しようとしているようです」
ラインハルトはそういうと、更に別の資料を机上に出して続けた。
ラインハルト「こちらの資料は、終戦反乱の規模を調べたもので、資料が示すようその規模は日に日に大きくなっています。各国は動乱によって軍が疲弊。そのため反乱の対処が難しく、民衆が津波のように大挙して押し寄せ、その勢いに負けて既に陥落した城塞もあるようです」
千代「建国事業が落ち着き、外へ目を向ける余裕が出てきました。このような中で、帝国としては隣接する大陸が不穏なままなのは好ましくなく、更に魔法に関する技術研究も考えると、大陸の国と交流を持つのが良いでしょう。これからの帝国の外交はどのようにするのかを決め、準備を進めるべきかと」
顎に手を当てて考え込んでいたマンシュタインが手を挙げて発言する。
マンシュタイン「……共和国と接触するのは?」
ソラ「共和国か……共和国は現在何をしている?」
ラインハルト「戦災からの復興を進めております。破壊されたインフラや城塞の修繕を中心に行い、少しずつですが、以前の状態に戻りつつあります。軍も迅速に立て直し、国内に来た賊の制圧に勤しんでいます」
マンシュタイン「ならば、彼らに接触して復興の支援をする形で大陸に進出するのは?」
官兵衛「復興支援で恩を売る、ということですか。いい案ではありますが、我々は貴族を葬った張本人です。どれほど関知されているかはわかりませんが、要らぬ警戒を持たれる可能性があります。ここはいっそのこと、協商連合という選択肢をとるのは?」
シュペーア「協商連合か。経済活動に精を出しているから、通商条約なら容易に結べるでしょう」
ロンメル「ですが、ヤガニアはどうします?難癖を吹っかけてきそうですが」
机の中央にはヴァルマイヤート大陸北部の地形と国が書かれた地図が置かれており、それを眺めていたソラが口を開く。
ソラ「……他に良さそうな国は無いのか?」
ソラの問いに、ラインハルトが地図に手を当てながら答える。
ラインハルト「幾つかあります。共和国の西方に存在する『ラムザティネ同盟』、更に西、大陸の端にある『ヤガ=ソジャー二重帝国』あたりでしょうか。今回の動乱に関わっていませんが、両国ともそこそこの国力を持ちながら、野心を持たぬ平和的な国家との報告があります」
マンシュタイン「……二重帝国か……オーストリアを思い出すな」
ソラ「……いっそのこと、同時多発的に接触するか?」
千代「同時多発的に?」
ソラ「ああ。共和国や協商連合のみならず、その『ラムザティネ同盟』と『ヤガ=ソジャー二重帝国』の四つに一斉に使節団を送る」
シュペーア「かなり思いきりますね」
ソラ「一つの国に絞る必要はない。大陸に進出するにつれ、何れこれらの国と否が応でも関わることになるだろうからな。早めに国交を樹立させておいても損はないだろう。若し、敵対的な行動をとってきたら、その時は帝国の力を見せつける、ということで、どうだろうか?」
ソラが周囲を見渡すと、皆は微妙な顔をしている。
ロンメル「まあ、検討の余地はありますね。ただそうなると、有事に備えた軍備増強が必要になります」
マンシュタイン「現状では防衛で精一杯ですので、大陸に派遣となると厳しいものがあります。軍拡の準備期間を設ける必要があります。凡そ一年でしょうか」
官兵衛「悪くはないです。しかし、相手国への贈り物を用意する手間が増えますね」
ラインハルト「とはいえ、いつかはしなくてはならない事項。閣下の案だと複数のことを同時に片づけられますから、まあ、これでいいのでは?」
マンシュタイン「その通りではある。閣下の案で行くか」
千代「では、閣下の案を採用し、接触する国は四か国ということでよろしいですか?」
千代の言葉に、全員が頷いた。
千代「では、最後に軍備拡張計画を決めましょう。先ずは陸軍から要望を」
マンシュタインが立ち上がる。手元にある資料を持ち、それを見ながら答える。
マンシュタイン「陸軍からの要望は二つ。一つは、将官の増員です。現状、私とロンメル将軍で作戦立案や帝国陸軍の指揮を執っている状態ですので、効率が悪くなっています。将官の増員で参謀本部を創設し、そのもとで作戦立案や指揮を執ることで効率が良くなるでしょう。二つ目は、師団の増設です。歩兵師団三十個では防衛が不安ですので十個師団増設。大陸に進出するのであれば、最低でも更に四十個師団増設が必要ですね」
ソラ「合計五十個師団か。……召喚数に余裕は十分あるな。わかった。人員を呼んでおこう」
マンシュタイン「ありがとうございます。陸軍からは以上です」
千代「次に海軍」
妖怪五十六が立ち上がる。
五十六「海軍も、陸軍と同様に将官の増員と艦船の追加です。艦船に関しましては、計画しているのは、空母を主力とする空母機動部隊を三個。潜水艦を中心とし、通商破壊や哨戒を任務とする潜水艦隊十個。遊撃を主な任務とする予備艦隊五個の計十八個を予定しております。詳細については、先ほども言いましたリストをご確認ください。海軍からは以上です」
ソラ「わかった」
千代「最後に、空軍」
ゲーリング「空軍は、先ほども言いましたように千機ほどの拡充をお願いします。偵察や哨戒には、それだけあれば十分でしょう。追加で、航空基地の増大もお願いします。ただ、外征を行うとなった場合は全く足りませんので、その時は更に拡充をお願いします。空軍からは以上です」
ゲーリングがそういうと、ソラが立ち上がった。
ソラ「さて、帝国の大まかな方針は決まったわけだ。この方針のもと、大陸進出の準備をする。期間は二年。その間で、帝国を大国へとのし上げ、大陸のどの国にも負けない国へと成長させるぞ」
皆は力強く頷いた。
ヴァルマイヤート大陸 マナワル共和国 首都マナワル 旧宮廷
共和国の政治が決まる場である宮廷。
戦乱の影響で燃え上がり、灰と瓦礫の山となったこの場所は、復興でその姿を取り戻した。
とはいっても、以前のような華々しさは失われ、金銀を使ったものではなく、質素な装飾が飾られている。
その宮廷のある一室。そこには、カラザル領主である、侯爵アーダルベルトの姿があった。
アーダルベルト「……何とか耐え忍んだ、か。共和国は滅亡せずに済んだが、失ったものが多すぎるな……」
長方形の机の、上座に最も近い場所に座る彼は、戦争で失った国土や兵士、費やした戦費などがかかれた資料をみて、曇った表情を浮かべる。
「復興を開始していますが、労働力や資金が不足しているため、遅々として進んでいません。軍を動員しようにも、周辺国からの難民の対処に追われている状況で」
「終戦後の周辺国での反乱か。此度の戦争に勝者はいるのだろうか」
「国土を奪われたことで民が減り、カラザルダンジョンが機能しなくなったせいで労働力や資金が足らん。調達しようにも、周辺国はあてにならぬし、自国で得る方法は限られる」
その他の席に座るのは、「穏健派」の貴族たちである。この戦争の戦後処理に、彼らも追われている。
対応に頭を悩まされている彼らをみて、侯爵は独り言つ。
アーダルベルト「……こんな時、彼らが居てくれたら……」
「……?彼らとは?」
呟いただけだったが、近くにいるものには聞こえたようだ
アーダルベルト「いや、気にしないでくれ。兎にも角にも、復興に注力しろ。反乱の対処に追われている間に国力を回復させるぞ」
「は!」
部下が部屋から退出した。その部屋では、アーダルベルトが腕を組みながら、変わらず資料を眺め続けていた。
ヴァルマイヤート大陸北東部 ル=ジンゲン協商連合 ヤガニア公国 首都ヤガニア
クリストフ「まだ情報は手に入らないのか!」
豪華な服で、その太った体を纏った大公クリストフが、拳を机に強く叩きつける。
「は、はい。全くないわけではありませんが、手に入ったものは既に入手している情報と同じで、新しい情報はありません」
わなわなと怒る大公に、おびえながらも部下が報告する。
クリストフ「ぬ~~……とにかく、何としてでも居場所を突き止めろ!」
「は!」
部下が出ていくと、クリストフは大きなため息をついた。
クリストフ「どいつもこいつも、使えない奴らだ。これだけの期間探し回って新しい情報の一つもないとは……」
クリストフは棚に保管されている報告書に目を通し
クリストフ「謎の兵器を所有する「黒い太陽」……こいつらが持つ兵器を手に入れれば、公国はより強くなるはず。しかし、奴らは一体どこへ行った?」
「黒い太陽」に関する噂を聞きつけたクリストフは総力を挙げて捜索を開始した。だが、既にソラたちは大陸を発った後であり、行き先を特定することができずにいた。
クリストフ「必ず見つける……あの兵器を手に入れて、協商連合を我が手に……」
ヴァルマイヤート大陸北西部 ラムザティネ同盟 首都ロマニウム
ラムザティネ同盟。
周囲を山に囲まれ、侵入者を容易に寄せ付けないこの地には、大昔からエルフたちがいくつもの集落を築いていた。次第に、同じ土地に住まうもの、また同族であることから結束し始め、集落同士で同盟を結んで成立した国家である。
全ての集落を治める立場である上級王が、この国の国家元首である。
この国の中央にある、ロマニウムという集落が首都機能を果たしており、そこで政治が決まる。
?「東方の動乱はどうなりました?」
ロマニウムの中で最も大きな木造の建築物が行政機関となっており、その建物内には玉座が置かれている。
そこに座っている、真っ白の絹の服で身を包み、長く、先がとがった耳を持つ女性が、同じような容貌をした男性に問う。
「動乱は終結、幾分か国境に変化がありました」
?「終結しましたか……これで、周辺から戦争は無くなりましたね」
報告を聞いた女性は安堵の笑みを浮かべる。
男性は苦々しい顔をしている。
「……それが、終戦後に戦費の支払いのため重税を課した国で反乱が発生。戦争で疲弊した各国は鎮圧叶わず、反乱は拡大を続けていると報告が」
?「……そうですか……同胞が被害を受けていなければよいのですが……」
女性は笑みから一転、不安げな表情を浮かべた。
ヴァルマイヤート大陸端 北西部 ヤガ=ソジャー二重帝国北部 首都ヤガ 宮廷
ヤガ=ソジャー二重帝国。
地球にも、二重帝国と呼ばれる国は存在していた。墺洪帝国がそれである。
ヤガ王国とソジャー王国という二つの王国があり、両王国は蜜月の関係であった。
あるとき、ソジャー王室から後継者がいなくなり、王国存続の危機に瀕していたが、婚姻関係を結び、親戚となっていたヤガ王室の一族がソジャー王位を継承。その後、二王国が合体する形で成立したこの帝国は、もともとが国力のあった国が合体したため、周囲から一目置かれる国であった。
この国の首都の中央に位置する宮廷のある部屋。そこでは、数人が集い会議をしていた。だが、その会議は紛糾している。
「また奴らか!海軍は何をしている!」
「周辺海域を哨戒、偵察しているが、広大な海で海賊の根拠地を見つけるなど不可能だ。探索も終わっていない上、旧式の船でどうやって対処しろと?」
「海賊どものせいで貿易に影響が出ている。何とかしないと不味いぞ」
「ソジャーの有力者に支援を要請するのは?」
「ソジャーは陸が専門だ。海に関してはてんでだめだ」
「ならばどうする?海軍に予算を回すのはちと厳しいぞ」
二重帝国は以前から周辺の海域に海賊が出現していたが、その対処に頭を悩ませている。
ヤガ王国は海側に、ソジャー王国は内陸に位置していたため、ヤガはシーパワー、ソジャーはランドパワーに力が偏っていた。
合併後もそれは変わらず、ヤガ系列の人は海軍、ソジャー系列の人は陸軍へと入隊する風潮があり、それを基に海軍と陸軍は別々で行動していた。
海賊は神出鬼没。突然現れ、襲撃を完了すると即座に撤退。
海軍を派遣し海賊退治に専念するも効果は無く、根拠地を叩こうにも発見できていない状況だ。
彼らが会議を行っていると、黒髪黒目の若い男性が入ってきた。
?「会議中失礼します。海賊に関する新しい報告があります」
「何だ?もううんざりだぞ、海賊の話は」
?「海賊の根拠地を発見しました」
うんざりした様子で話す貴族に、その男性は笑みを浮かべるとそう言った。
「何!?」
「それは本当か!」
悩まされていた海賊の本拠を見つけたという朗報に狂喜乱舞する貴族たち。
それを見ながら、男性は報告を続ける。
?「西にある小さな島に海賊船が向かっているのを確認。その後も、多くの船が向かっていったので間違いないかと」
「素晴らしい!すぐに第一艦隊を派遣するよう伝えろ!」
?「わかりました」
黒髪の男性は部屋から出ていった。
春聖大陸北部 帝都京
あの会議から二年が経過。
この二年の間で、帝国は国内整備と大陸進出の準備を完了させた。
帝国中の街で選出された議員で帝国議会を創設。
国務大臣を任命し、内閣をつくった。
会議で決まった計画では力不足になることが予想されたため、計画を大幅に変更したうえで軍拡を行い、当初の予定より遥かに強大な帝国軍を育成。
海の調査を進め、別大陸に植民を開始。開発を進め、ほぼ全ての資源は帝国内で賄うことが可能となり、ソラの能力に頼らずとも良くなった。
帝国が建国され、ソラが総統に就任した年を元年とする帝国歴を制定。現在は帝国歴二年である。
ソラ「とうとうこの日が来たか……」
ソラは、机上にある大陸進出準備完了の報告書を見て、感慨深くひとりごちた。
マンシュタイン「長かったようで短かったような……ようやくですな」
ラインハルト「ですが、長い期間を準備に費やしたおかげで、恐れるものはないほど帝国は成長しました。この世界の列強に名を連ねることもできるほどに」
シュペーア「まあ、まだこの世界の探索は完了していませんから、もしかしたら帝国よりも強大な国があるかもしれませんが」
現在、ビルの会議室に帝国の国家首脳部が集まっている。
国内整備と大陸進出の最終確認をするためである。
千代「では、会議を始めます」
副総統である千代が会議の開始を宣言した。
千代「各省から現在の状況報告を。先ずは陸軍から」
そういわれた、陸軍大元帥となり陸軍を統括するマンシュタインが立ちあがった。
マンシュタイン「現在、機械化師団百五十個、機甲師団三十個、特殊師団ニ十個、本土防衛用の歩兵師団百個の計三百個師団がいます。装備人員も充足してあり、有事の際には即座に動かせます。陸軍からは以上です」
マンシュタインが座ると、千代は五十六を見て言った。
千代「では次に、海軍お願いします」
海軍を統括する海軍大元帥の五十六が立ちあがる。
五十六「海軍は、計十個の空母機動部隊を主力とし、準主力艦隊十個、潜水艦隊を五十個、海域での哨戒を任務とする哨戒艦隊ニ十個の計九十個の艦隊を保有しています。大陸へ派遣するのは、一国に一艦隊を向かわせ、第一、二、三、四準主力艦隊の計四つ。これらの艦隊は準備を完了し、待機しています。海軍からは以上です」
五十六が座ると、次にゲーリングを見た。
千代「空軍、お願いします」
空軍大元帥となった、以前よりも少し痩せたゲーリングが立ちあがる。
ゲーリング「空軍は、戦闘機七千機、戦術爆撃機三千機、対艦攻撃機五千機など計二万五千機を保有しています。今回派遣する艦隊には空母が数隻いますので、それらには艦載機を既に載せています。空軍からは以上です」
二年間で、これほど軍備が充実したのは理由がある。
というのも、建国を宣言した二年前に能力が成長したのだ。
『物質召喚』『人材召喚』『能力拡張』が、全てⅢへとなったことで制約が大きく解除。
付け加えて、良い誤算が生まれた。
そのため、大胆に能力を使用することができたのだ。
軍部からの報告が終わると、千代はラインハルトを見た。
千代「では情報省、大陸の情勢を」
ラインハルト「はい。大陸に関してですが、二年前とさほど変わっていません。変わった点としては、二つ。一つは、終戦反乱が終結したことです。幾つか反乱の鎮圧に成功した国はいますが、できなった国では民たちが独立を宣言し共和国が成立、若しくは王や貴族の権力を抑制する法を制定するという動きがありました。さらには、独立した共和国や周辺の国が軍事同盟を結び『ワヨウルド連盟』を結成しました。二つ目は、協商連合のヤガニア公国に関してです。ヤガニア公国は相も変わらず我々を探し続けているようですが、成果を挙げられていません。報告は以上です」
ラインハルトが報告を終えると、千代は痩せた男性を見た。
千代「最後に、小村寿太郎外務大臣、報告を」
小村「はい」
立派な口ひげをたくわえ、小柄な体躯をした小村が立ち上がる。
小村「予定通り、接触した国に対しては通商条約を締結して、こちらの製品を輸出できるようにします。可能なら軍事同盟を結び、大陸での拠点をつくれればと。大陸に派遣する使節団は既に乗船済みです。いつでも出発できます」
ソラはそれを聞くと口を開いた。
ソラ「そうか……全派遣艦隊に通達。大陸に向け出港せよ。帝国はこれより、大陸諸国との接触を開始する。最初が肝心だ、帝国海軍の威厳を見せつけてやれ」
「は!」
皆は一斉に、力強く返事をした。
ソラ「…………す~…………す~…………」
丑三つ時、総統公邸の一室でソラは睡眠をとっていた。
ソラ「…………す~………………………!」
突如として目が覚めたソラ。その目には、『三本足の烏』が濃く出ていた。
ソラ「…………ふ~…………さて……」
布団から出たソラは、バルコニーへと出て夜空を見上げた。
ソラ「なんとか落ち着いたか。なかなかやるな」
長らく眺めていると、突然手を空へかざした。
その手に、白く光る球体が現れたかと思うと、それは高速で空の星に向かって飛んで行った。
ソラ「……後は、待つとするかな。……そうだ、少し悪戯するか」
そう言ったソラは、先ほどの球体をまた出したかと思うと、それはソラの体へと吸い込まれていった。
ソラ「さ~て、あいつらは何時ごろに来るかな。…………対処も、考えておかねばならんか」
『三本足の烏』が光ったかと思うと、ソラはそう呟いた。
風も吹かないバルコニーで、男はただ空を見ている。
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