第16話 国家の勃興 前
ソラ「……やっと着いたか。かなり長い船旅だったな」
千代「ええ。これだけ長いと、あの大陸の技術では到達するのは難しいでしょう」
ラナムンを発って二か月。確保した小島を何度も経由して、発見した大陸へと上陸を果たした。
上陸した地点は湾になっているところであり、港の建設には良さそうな場所である。
上陸した陸地の先には広い平野が広がっており、右側には山が、左側には森が見える。
ソラ「この大陸に国は無いんだったよな?」
千代「はい。まだ全てを探索したわけではありませんが、現時点で国は確認していません」
ソラ「それは良かった。それと、首都を建設するのに良さそうな場所を見つけるように伝えてくれ。国が始まる場所だから、慎重に決めないとな」
千代「わかりました。調査団に伝えておきます」
二人が話していると、船から一人の男性が上陸してきてソラに話しかけた。
?「閣下、お願いがあります」
ソラ「ん?何だ?」
?「この場所に港を作ってほしいのです。船が停泊する場所と整備するドックが必要ですので」
ソラ「わかった。それと、いずれ海軍の拡充を行うから、召喚してほしい船があったら、そのリストを作ってくれ。それに、人材もな」
?「わかりました」
ソラ「頼んだぞ。山本五十六提督」
ラナムンから大陸への移動中、海軍の編成を潤滑に進めるため、提督となる人材を召喚した。その人物が彼である。
五十六「私は一度船に戻り、書類の整理をしてきます」
五十六が船に戻ると、ソラたちは拠点づくりを始めた。
周囲に天幕を張り、上陸させた輸送車や兵器の整備を開始。
港の建設を行い、船の整備や修理ができるようにした。
更に船を召喚して、大陸を海からも調査。遠洋の調査も続行し、陸地の探索も進めている。
そうこうしているうちに、半年が経過。
大陸の調査も完了し、大体の大きさがわかった。現在いる大陸は、アフリカ大陸ほどの大きさだと判明。この大陸は中央に巨大な山があり、その周辺に大きな森が広がっている。大陸各地に小さな山や森はあるものの、大半は平野であり、緯度が高い割には、気温は比較的高いうえ、降水量も多いようで豊かな地である。
ソラたちはこの大陸を「春聖大陸」と命名した。
国家建設に注力するため、ラナムンのある大陸との交流はしない方針を固めた。ただし、情報は入手しておきたいため、すでに派遣している諜報員の他にも、更に諜報員を密かに上陸させて情報収集に努めさせている。
彼等の調査によるとマナワル共和国周辺の大陸北部は、地獄の様相を呈しているらしい。
マナワル共和国は北部貴族を一斉に失ったことで、多くの家で継承問題が発生し混乱状態に陥った。
そうでなくとも、当主を失ったことは動揺を誘うには十分な材料であった。
「中央派」を束ねるブルーノが消えたことで派閥は統制が効かなくなって空中分解。代わりに、「穏健派」が中央を掌握したものの、混乱を収めることができず、それを好機と見た周辺国は共和国に侵攻。特に、カラザルを奪われたガラリア王国は、旧領奪還を目的に大軍を以て攻撃を開始した。
幸いにも、「穏健派」は「黒い太陽」のおかげで大きく戦力を失わずに済み、友好国の援軍もあって防衛には成功したが、国力を大幅に削がれてしまった。
更に、この戦火は大陸北部に大きく拡大。共和国に侵攻した国を別の国が侵攻。さらにその国を別の国が……というように、連鎖反応的に戦争が発生。現在は各地で戦闘が起こり、収集がつけられない状態だという。
戦争によって迂闊に近づくことはできないため、現在情報の収集は主としてル=ジンゲン協商連合のある大陸北東部と、共和国から離れた大陸北西部で行っている。
共和国があるのは、大陸北部の中央からやや西に偏った場所である。大陸北部を縦に真っ二つに分断するようにテスカト大河という大河が存在する。
テスカト大河を渡ると、『ル=ジンゲン協商連合』がある北東部に行ける。協商連合は数多の国家が所属する、いわば地球の国連に似た組織であり、商いに注力するため加盟国同士での戦争は禁止されていることや、非加盟国から加盟国への侵攻は全力をもって相手するから平和が長く続いている。
商いが活発に行われているため莫大な情報が飛び交っているが故に、情報収集にはうってつけの地だ。
現在ソラたちは集めた情報から、建国後に接触する国家を見定め、大陸に進出する計画を作成中である。
ソラ「……確かに、首都とするにはいい場所だな」
千代「ここなら、大都市が築くことができますね。南の大陸から遠い地点ですし相応しい場所かと。加えて、ここから少し距離はありますが、海がありますので海運にも適している場所です」
話は変わり、ソラたちは春聖大陸北部に広がる平野に来ている。
探索を続ける中で、春聖大陸北部には広い平野があることがわかった。
大陸中央の大山から流れ出る川が平野中央にあり、近くに森がある自然豊かな広い平野。
都市が大きくなっても土地の心配をする必要がないと思う程である。
さらに、海に面しているため海上輸送ができて貿易も行える優良な土地である。
ソラ「……よし。ここに首都を築くとするか。さあ、国家づくりが遂に始まるぞ」
オストラント中央 ミリャッセル大陸最西部 オーカロン王国 首都オーカロン
バーナミラ「…………さて諸君、これをどうする?」
オーカロン王国の国王バーナミラは、頭を抱えていた。
バーナミラ「大陸を見つけたはいいが、一体全体誰が、その土地では四六時中戦争が起こっていて荒廃が進んだ土地だと考えるだろうか」
戦艦カルラードを旗艦とする調査団を遠洋に派遣して約一年と半年。
飛び石的に海を渡りながら調査を進めると、ミリャッセル大陸西方に別の大陸があることが判明した。
だが、その大陸では国家間の対立が激しく、大きな戦争が各地で発生して荒廃した大陸であった。
バーナミラ「あのような土地を得たところで価値はない。それどころか、彼等の戦争に巻き込まれる可能性がある。僅かしか探索していないにもかかわらず、資源が豊富であることがせめてもの救いだな」
「どうされます?ミファサール帝国は依然として領土を拡大しています。彼らの拡大を抑えるため、周辺国と軍事同盟を結びましたが、あまり効果はない様子。占領地の統治のため、最近は軍事行動をしていませんが、いずれ侵攻を再開するでしょう」
「やつらはふざけたことに、我が国との国境部に要塞を築いています。やつらは治安維持の拠点であると言っていますが、十中八九我らとの戦争において前線基地にするつもりでしょう。正面戦力も日に日に拡充されています。ここは新大陸に進出して、かの地の資源を得たほうが良いのでは?」
「だが、あの地は戦争が絶えん。そこはどうする?」
「不可侵条約でも結べばいいでしょう。それか、緩衝地帯をつくるか、同盟を結べば宜しい。技術があまり発展してないようなので、旧式の兵器を交渉のテーブルに出せば、殆どの国は席に着くはずです」
バーナミラ「……ミファサールとの決戦に備えるのに、資源は多いに越したことはない。かの大陸に進出する。なんとしても資源を手に入れろ」
「は!」
バーナミラは、思い出したように
バーナミラ「それと、あの遺跡の調査はどうなった?」
「……あの遺跡ですが、少しずつ調査が進み、幾つか分かったことがあります」
バーナミラ「わかったこととは?」
「大まかに二つ。一つは、我々の予想通りにあの遺跡は古代文明のものであり、技術水準は現在よりもかなり高いということ。もう一つは、あの遺跡はかつて港として利用されており、遺跡からはこの大陸のものと思われる植物の絵が見つかりました」
バーナミラ「この大陸の?では、彼らはあの島とこの大陸を航海する技術を確立していたということか?」
「はい。恐らくそうかと」
今から約五十年前、魔石の効果的な利用法が確立。これにより、工業製品の生産効率が著しく上昇して産業革命がおこった。
産業革命によって商品を大量に作れるようになり、貿易が拡大。結果、航海技術でも技術革新が起こり、今までは行けなかった場所へも行けるようになった。
その技術を利用して建造された『カルラード』を筆頭とする調査団が派遣されたのが約一年と半年前である。
航海を続けていると島を発見したため上陸したが、その島には遺跡があった。
遺跡の調査により、これはかつて存在した古代文明のものであることが判明。
その遺跡からはミリャッセル大陸産のものと思われる植物が描かれた絵が見つかった。
バーナミラ「そうか…………ふふ。思わぬ発見だ」
報告を聞いたバーナミラは笑みを浮かべた。
バーナミラ「古代文明の遺跡を更に調査しろ。彼らの持つ技術が得られれば、ミファサールの先を行けるやもしれん」
「わかりました。調査を続けるよう伝えます」
バーナミラ「ミファサールがこの大陸に拘泥しているうちに、我が国は更に先を行く。対ミファサールに向け、準備を進めていくとしよう」
春聖大陸北部
首都建設を始めて約三年。かつて平野が広がっていた場所には、多くの建物が建てられていた。
計画的な都市開発を行ったため、碁盤目状の道路が敷かれている。
大きな道路が街の中央を走り、海の港へと続く。
道路に沿ってビルが立ち並び、歩道を多くの人が歩いている。
広く設けられた車道では、数多の自動車が走っている。
空では、飛行機が飛び、人や物資を運んでいる。
遠くに見える港には船舶が停泊し、タンカーや輸送船に貨物を積んでいる。
光景は、さながら現代の東京のようであった。
ソラ「たった三年でここまで発展するとは思わなかったな」
千代「この世界のどの街よりも発展した街、といっても過言ではないですね」
この光景を、二人は街の中央に設けられた巨大なビルの屋上から眺めている。
身長も伸び、体格ががっしりしているソラは、左腰に刀を、右腰には拳銃を提げている。
黒檀のような色の服を身にまとい、同じく黒檀色のとんび合羽をその上から羽織っている。
このビルは街を一望できる程高く作られており、ソラはこのビルにある部屋で執務を執っている。
ソラ「ようやっとここまで到達した。国家建設も幕切れだな」
官兵衛「凄まじい光景ですな」
街を眺めていると、官兵衛が屋上に来た。
ソラ「見に来たのか」
官兵衛「ええ。何度見てもこの光景は飽きませんよ。私のいた時代では見れませんでしたから」
ソラ「あの大坂城を作った、秀吉すらも腰を抜かすだろうな」
官兵衛「はは!違いありません」
千代「閣下、そろそろ会議が始まります」
ソラ「わかった。それじゃ、会議室にいくか」
一行はエレベーターを使い階下に降り、会議室に入った。
そこには既に、マンシュタインやロンメルたちが、円状になっている机の周囲に配置してある椅子に座って待っていた。
その周囲には、幾人もの人が立っている。
ソラ「では、始めるとしようか」
全員が席に座ったのを確認して、会議が始まった。
千代「ではまず、各部の報告から行います。情報部」
千代がラインハルトを見ると、複数枚の紙を持ったラインハルトが報告を始めた。
ラインハルト「報告は三つ。一つは、南の大陸であるヴァルマイヤート大陸に関することです。ヴァルマイヤート北部のマナワル共和国の混乱を端に発生した動乱が終結しました」
ソラ「遂に終わったか。結果は?」
ラインハルト「共和国は領土を三割程喪失。アーダルベルト侯爵が大きな活躍をして、領土の喪失を抑えることができた様子。しかしそれ以上に、人的資源の損耗が激しいうえ、戦乱による治安の悪化で賊が国土内で跋扈しているようです」
周囲に立っている部下が、机上に共和国の地図を置いた。そこには、国境がどのように変化したのかを記してあった。
マンシュタイン「失った領土はどのあたりだ?」
ラインハルト「このように、主に北部が中心です。やはり、貴族を失った影響でしょうね」
官兵衛「お家騒動が起こった時に侵攻を受けたんですから、予想通りですね」
ラインハルト「さて、興味深いのは共和国の周辺国です。戦火に見舞われたうえ、王が戦費を賄うため重税を課した結果、大半の国で民たちの反乱が発生。反乱を抑えようにも軍は戦争で疲弊し、反乱は激しくなる一方のようで」
共和国の地図を机上から取り払い、また別の地図を置いた。それは、共和国周辺を記した地図であり、いくつもの国名とその国の国境が書いてある。
反乱が発生した国のところに、ポーンが置かれる。
五十六「戦乱が終わったと思ったら、次は反乱か。落ち着くのには、もう少し時間が要るな」
ラインハルト「二つ目は、海の調査に関しまして。海軍と協力して調査を進めてた結果、更に大陸を発見しました」
ソラ「それは本当か!」
ラインハルト「はい。これを」
ラインハルトは持っていた紙の内、一枚をソラに渡した。
ソラ「これは?」
ラインハルト「ヴァルマイヤート大陸北方の地図です。おおまかなものですが」
ラインハルト「今現在発見した大陸はヴァルマイヤート大陸を含め八つ。文字はその大陸の名前です」
ソラ(……この大陸の配置……オストラント北東か?確かこんな感じの配置だったはず……)
ラインハルト「上陸はせずに、海と偵察機からの観測に止めていますが、街らしきものは発見できないとのことで、恐らく国は無いのではと考えています」
ロンメル「となると、領土の拡張先に困ることは無いな。だが謎なのは、どうして国が無いのか……」
ソラ「……それを解く鍵が、あの遺跡か……」
ラインハルト「はい。それに関するのが三つ目の報告です。春聖大陸の中央の山、富士山周辺に広がる森の中で発見した遺跡。あの遺跡に関連すると思われる新たな遺跡が、春聖大陸北方の島でも発見されました。これらの遺跡の調査で、遺跡は古代文明のものであり、古代文明は二十世紀を遙かに凌駕する程の技術水準だとわかりました」
マンシュタイン「二十世紀だと!我々のいた時代を超える程の文明があったとは……」
ラインハルト「見立てでは、発見した大陸にも古代文明の遺跡があると思われるため、大陸内部の調査も含めて、調査団を派遣したほうが良いのではないかと」
ソラ「確かにそうだな。調査団を編制して派遣しよう」
ラインハルト「情報部からの報告は以上です」
そういうと、千代はマンシュタインを見て
千代「では次に陸軍、報告を」
マンシュタイン「は。現在、陸軍は歩兵師団三十個、機甲師団五個、山岳師団や空挺師団などの特殊師団五個の計四十個。ですが、大陸が広大ですので拡充が必要です。海岸線を守るための戦力が不足しており、魔物の対処にも奔走している状況です」
ソラ「どれぐらい必要だ?」
マンシュタイン「最低でも歩兵師団は四十個欲しいところです。それだけあれば、防衛だけは何とかなります」
ソラ「わかった。すぐに召喚しよう」
マンシュタイン「陸軍からは以上です」
千代「次に海軍」
五十六「はい。現在、海軍は調査を主目的としていますので、航続距離の長い駆逐艦を中心とした編制です。海軍の拡充としては、以前作成したリストにまとめていますのでそちらを御確認ください。海軍からは以上です」
千代はそれを聞くと、少し太った男性を見た。
千代「空軍より、報告を」
?「は」
少し太った男性は椅子から立ち上がる。
ゲーリング「空軍大元帥のゲーリングより報告を。我が空軍は戦闘機や爆撃機をはじめとした計三百機を保有しています。ただ、陸軍と同じく機体不足と言わざるを得ません。周辺海域の哨戒や新大陸内部の偵察に影響が出ています。そのため、せめて千機ほど拡充をお願いします」
ソラ「わかった。では、欲しい機体をリストにして出してくれ。すぐに呼び出そう」
ゲーリング「ありがとうございます。空軍からは以上です」
ゲーリングは椅子に腰かける。
千代「では次、軍需部」
シュペーア「軍需部からは、特に報告はありません。兵器生産は順調で、これなら閣下のお力を使わずとも問題はないでしょう。開拓が更に進み、資源採掘や工場の建設が活発になれば、更なる増産も見込めます」
こうして各部からの報告が終わると、この会議の主となる議題へ移った。
参加者各位に資料を渡した。
千代「手元の資料は、これまでの会議で決定された事項をまとめたものです」
その資料は、ソラたちの国家の概要が書かれていた。
以下にまとめる。
壱。国名は『大和帝国』とする。首都は春聖大陸北部の『京』とする。
弐。国家元首は『総統』であるソラ。『副総統』として千代が補佐をする。
参。帝国の行政府は、総統府、財務省、外務省、軍務省、法務省、経済省、国土交通省、農林水産省、文化省、技術省、厚生労働省、環境省、軍需省の一府十二省を中心に組織。各省の長は国務大臣とする。情報省は行政府に属さない。
肆。帝国各地で選出された議員を集めて帝国議会を結成。ここは帝国の立法府を担う。ただし、総統のうえに立つものではない。
伍。総統は帝国の最高位の立場であり、行政府、立法府は総統へ無条件に従い、補佐を行う。
陸。帝国軍は、帝国陸軍、帝国海軍、帝国空軍の三軍。陸軍は陸軍大元帥、海軍は海軍大元帥、空軍は空軍大元帥を長とする。軍務省は各軍を統帥する。
膝。情報省は総統直属の省とする。
捌。条約の締結、予算の編成などは議会の承認があれば、総統が介入せずとも成立できる。ただし、総統の承認があれば、議会の承認がなくとも成立し、総統が承認しなかった場合、議会が認めても成立不可である。。
玖。帝国国民は幾つかの階級に区別。総統により召喚された第一身分。同盟国や移民条約を結んだ国々から来た第二身分。従属国や占領地の第三身分。第一身分のみ参政権を与えられる。
以上の『帝国方針第九大綱』を核として、これからの帝国は形作られることになっている。
千代「最終確認です。こちらの内容に異論がある方はいますか?」
千代は、誰も異論がないことを確認した。
千代「では、一旦休憩とします」
会議は続く。
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