第15話 消える

マナワル共和国 ラナムン




ソラ「何!?大陸を発見した!?」



千代「はい。つい先ほど調査船から連絡がありまして、今までのとは比べ物にならない程大きな陸地を発見したとのこと」



ソラ「やっと見つけたか……。これで国家建設を始められるな」



侯爵との会談から約二週間後のこと。調査船の数を大幅に増やし、外洋の調査をさらに進める一方、侯爵側から攻撃や、ラナムンを去るときの準備を進めていたなか、調査船から吉報が届いた。



今までは、大陸周辺に存在する、国家を建設するには小さすぎる島を見つけて無人であることを確認後、補給基地を設置して、さらにそこから遠洋に出るという「飛び石」のような方法で探索を行ってきた。



しかし、幾つもの島を通過したにもかかわらず、大陸を発見できなかったために諦めかけていた。



そんな時、遂に大陸を発見したという報告が入ってきたのだった。



官兵衛「やっと来ましたか。となれば……」



ソラ「……ラインハルト、敵の様子は?」



ラインハルト「現在、集結した軍の再編成と作戦の伝達を行っています。攻撃の準備は着々と完了しているようで、一部の軍は既に、近くに陣を張っているとのこと」



ソラ「攻撃開始時期は?」



ラインハルト「予定では五日後に開始となっています」



マンシュタイン「五日後か……それなら、輸送船を全て動員すれば、確保した島に全軍を移送することは可能です。閣下、どうなさいますか?」



そう聞かれたソラは、



ソラ「……全ての物資、兵器、人員を輸送船に載せろ。作戦を開始する」



そう決断を下した。



ソラ「予定通り、この基地は放棄すると同時に、侯爵側に打撃を与える。そのための準備は周到に進み、抜かりはない。あとは、彼らをここに招くだけだ」



そういうと、先ほどから一言も言葉を発さず、黙って聞いている男性を見た。



ソラ「これで、君も本来の仕事ができる。期待しているぞ、軍需大臣」



シュペーア「……私は、本来建築家のはずなんですが……。まあ、任せてください。このアルベルト・シュペーア、微力ながら力を貸しましょう」



以前決めたように、国家の基礎となる部分を決め始めた中、首都の街並みや象徴的な建築物の設計などを頼もうと、新たに彼を召喚したのだ。建国が軌道に乗り、工場が稼働し始めた後は、軍需大臣として活躍してもらう予定でいた。



ソラ「ああ。1940年代のような活躍を期待する。もちろん、建物の設計も頼むことがあるだろうから、その方面でも頼んだぞ」



シュペーア「わかりました」



シュペーアが黙ったと同時に、ラインハルトが手を挙げる。



ラインハルト「閣下、作戦開始の伝達をしても良いでしょうか?」



ソラ「ああ。かまわん」



ソラは立ち上がると、



ソラ「両将軍は積み込みを担当してくれ。シュペーアは最後の点検を。資料に資材、一つでも情報を残してはまずいからな。千代は、前線にいる部下を呼び戻すと同時に、妨害工作を頼む」



一気にまくしあてた後、少し息をついて続ける。



ソラ「それと、発見した大陸への調査団をすぐに送れ。ただ、短期間で済むよう、予定とは規模を大きくする」



ロンメル「わかりました。すぐに送ります」



ソラ「三日だ。三日で全ての準備を完了させろ。その後、すぐに出発する。行動開始!」



「は!」



一斉に返事をすると、部屋から退出して撤収準備を開始した。














ブルーノ「何?見張り役が?それに、あいつらが消えただと?」



「はい。定時連絡が来なかったため確認したところ、見張りが全て死亡しており、新たな見張りを置きました。ただ、前回の定時連絡までは姿を確認できましたが、新たな見張りからは、姿が確認できなかったと報告が……」



攻撃開始日になったため、昼頃に使者を送って最後通牒を突きつけようとしたところ、見張り役は全て死亡したうえ、ラナムンから人の気配が消えていたとの報告がブルーノに届いた。



ブルーノ「…………わかった。報告ご苦労、さがってくれ」



「は!」



報告に来た兵が部屋から退出した後、ブルーノは貴族たちを呼んで会議を始めた。



ブルーノ「人の気配が消えた、という報告が入ってきたが、これをどう見る?」



「消えた……?そんなことがあるのか?」



「三日前までは確認できたのだぞ?そんな急に姿が消せるわけが……」



「仮に消えたとして、どうやって消えたのか、どこへ行ったのか……」



貴族たちは思案を巡らせるも、答えはでない。



ブルーノは、壁に寄りかかり目を閉じて、じっとしているコンラートに聞いた。



ブルーノ「コンラート、君は何か知っているか?」



聞かれたコンラートは目を開けて、貴族たちをさっと見渡すと、ブルーノに答えた。



コンラート「それについてですが、実は一つ……」



ブルーノ「何か知っているのか?」



コンラート「昨日の晩、真夜中に基地に偵察に行ったのですが、基地から所属不明の数隻の船が海へ出たのを見ました」



ブルーノ「船?奴らは船で出ていったのか?」



コンラート「そこまではわかっていません。真夜中でしたのでよく見えませんでしたが、その船に多くの人が乗っていく様子が確認できました。ですので、奴らは恐らく、攻撃を恐れて基地を放棄したのではないかと」



「だとすれば、あの基地には奴らの置いていったものがあるのでは?」



「さすがに、全てのものを船で輸送したわけではあるまい。船を見たのは、その一回か?」



コンラート「はい。それ以前にも偵察に何回も行きましたが、船は見ませんでした」



それを聞いた貴族たちは騒ぎ出した。



「ならば、あの基地には多くのものが置いていったあるはずだ。その船には恐らく、人員しか乗せていないだろう」



「ああ。多分、慌てて撤退したに違いない。船がどこから来たのかはわからんが、大方、急遽購入した船だろう」



ブルーノ「……真実がどうかは、基地に行って確認してみるしかあるまい……。ここで話していても何もわからんからな」



その言葉を聞いたコンラートは笑みを浮かべ、



コンラート「では、私が基地に案内しましょう。周辺の森には罠が仕掛けられており、近づくのは危険でしたが、偵察する中で何とか安全に進めるルートを開拓しましたので」



ブルーノ「善は急げだ。念のため、腕の立つ部下を連れて行こう。行きたいものは準備をせよ。コンラート、案内を頼む」



コンラート「お任せください。しっかりと案内をさせてもらいます」











ブルーノ「…………確かに、誰もいないな」



「全員撤退したようですね。もぬけの殻です」



基地に到着したが、人っ子一人いないもぬけの殻で、ただ静寂が場を支配していた。



ブルーノ「奴らの乗っていたらしき物は無いな。武器も無いぞ。そういったものは、さすがに持って行ったか」



「置いていってくれたらよかったものを」



「くまなく探しましょう。伏兵がいるやもしれません」



ブルーノ「ああ。班に分かれて散開!探索を行え!」



「は!」



連れてきた部下たちが基地内を探索していると、コンラートがブルーノに話しかけた。



コンラート「閣下、私はホラートに戻り、奴らについて調べてみます。船の出処や、奴らの行き先を知っている者がいるかもしれませんから」



ブルーノ「わかった。頼んだぞ」



コンラート「は!」



コンラートは、走って元の道を戻っていった。



そしてしばらく経った頃、ブルーノの部下が報告に戻ってきた。



「閣下、本部と思しき建物を発見しました!」



ブルーノ「本当か!案内してくれ」



「は!こちらです」



貴族と部下たちを連れて、ブルーノは建物へと向かった。



その建物の中は、やはり人の気配を感じさせない、不気味な静けさが漂っていた。



ブルーノ「ここもいないか……」



「本部にもいないとなると、基地内に人はいないと見て良さそうですね」



「家具類は残っているが、書類とかは全て持って行ったのか全く無いな」



ブルーノたちは二階へと上がり探索を続けるも、やはり何も見つけられない。



そんな時、



「……ん?これは……閣下!」



ブルーノ「何だ?何か見つけたか?」



「こんなものが……」



一人の兵が、模様の描かれた布を見つけた。



ブルーノ「……これは何だ?旗……か?」



「どこかの家の紋章か?だが、こんな模様は見たことが無いが……閣下はご存じで?」



ブルーノ「……いや、私の記憶にはこんな模様は無い。一体何処の……」



その時



基地内に設置された爆薬が、一斉に爆ぜた。















ホラート近郊 とある山 観測拠点



コンラート「……うわ~……えげつねえ……これじゃ、生存者は零だな」



ミラヤ「……これが……「黒い太陽」の力……ですか……」



「これは壮観だな。夜間で、これに光と明るい色でもついていればよかったが」




コンラートとミラヤの他に、複数人が爆発を眺めていた。彼らの眼には、基地から煙が空高く昇っている光景が映っている。



ブルーノと別れたコンラートは、ホラート近くにある山に移動してミラヤらと合流。



その山にある観測拠点は、望遠鏡で基地の様子が窺える高さだったため、望遠鏡で様子を確認し、指示された通り、頃合いを見て予め渡された起動装置を発動させて爆弾を爆発させた。



大量に仕掛けられた爆弾が一斉に爆破。更に、至る所に隠された火薬に引火し、恐ろしい規模の爆発が起こった。遠くからでも、大きな音が聞こえるほどの。



コンラート「恐ろしい奴らだ。誘引して爆死させるとはな……」



ミラヤ「基地を完全に破壊するため夥しい量の爆弾を設置。基地を破壊するついでに、貴族たちも可能なら始末。「ついで」で貴族を始末するなんて、今までだれもやったことがないのでは?」



「まあ、確かに貴族を吹き飛ばしたのは大ごとだが、上からの命令だからな」



コンラート「貴族であろうが、敵には容赦しない。それができるだけの力を持ってるからこそできる芸当だな。手を組んで正解だったな」



コンラートは馬小屋に繋いである馬に乗り、



コンラート「この国には居れないな。北部の貴族が一斉に死亡した。これで、共和国北部は揺れる。南部ではカラザルでのダンジョン崩壊に、北部では貴族の一斉逝去。これで他国が動かないはずがない。周辺は荒れる。移動したほうが良い」



「その通りだ。次の目標は命令通り、東方に行って情報網の構築だ。急ぐぞ」



コンラート「わかった。『ル=ジンゲン協商連合』がある東方なら安全だ。それに、色んな情報も入手できるだろう」



彼らは、東に向けて移動を開始した。

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