第13話
マナワル共和国北部 ホラート近くの大都市 行政府
ホラート近くにある大都市の行政府のある一室で、ブルーノと「中央派」の貴族たち約二十人が集まり会議を始めようとしている。集まった理由はもちろん、「黒い太陽」の攻撃のためである。
円状の机が部屋の中央にあり、彼らはそれに沿って椅子に座っている。
ブルーノは全員がいることを確認すると、隣に座る貴族に聞いた。
ブルーノ「軍の集結はどれほど進んでいる?」
「現在、閣下の軍約五万と貴族軍三万の計八万が、この街に集結しています。遠方より来る方々もいますので、それらも合わせれば合計十万の軍となります。完全に集結するのは約一週間後になるかと」
ブルーノ「一週間後か……そこから、作戦の伝達や調節とかを考えると…………うむ、やはり五か月後でよいか。異論はあるかね?」
ブルーノは周囲の貴族たちを見まわした。だれも進み出ないことを確認すると、話を始めた。
ブルーノ「二週間後で決定だな。では次に、敵の様子を知りたい。奴らは今何をしている?」
すると、貴族たちの中から二人の男女が歩み出てきた。
コンラート「「黒い太陽」の情報収集を担当しております、コンラート・フォン・イランミヤと申します。こちらは、私の部下であるミラヤです」
歩み出てきた二十代と思われる若い男性は、騎士爵コンラート・フォン・イランミヤ。
若いながらも、ガラリア王国との戦争において諜報関連で活躍し、騎士爵に授爵された。
爵位を持つとはいえど、騎士爵は名誉的な部分が強いために領地は持っておらず、現在はホラートで港から入ってくる情報をひたすら集めている。
そしてもう一人の女性は、コンラートの部下であるミラヤ。スラっとした体形を持つ若々しい女性である。コンラートに付き従って補佐をしている。
コンラート「現在の様子ですが、ホラートで土地を購入したらしく、その土地で防御態勢を整えています。ただ問題なのが、購入した地はもともと何もない土地だったのですが、今は…………」
ソラ「この光景は圧巻だな。まさしく近代の要塞だ」
千代「はい。これほどの防御なら、易々と突破されることはないでしょう」
マンシュタイン「遠くから眺めると、攻略するのが難しいということがひしひしと伝わってきますよ。空軍の支援爆撃や海軍の艦砲射撃が無い状態でこれを攻略するのは、ドイツ軍であっても至難の業でしょう」
ソラたちがホラートに到着してから二週間後、ラナムンには巨大な基地が出来上がっていた。
陸地には、トーチカや鉄条網が設置され、何重もの塹壕が掘られている。
付近の森は大きく切り開いており、残った森には木の葉で隠された地雷が大量に敷かれている。
その陣地の中央にはいくつもの建物があり、ここでは兵が寝泊まりをしている。
海に面したところには埠頭があり、停泊していた何隻もの船が抜錨して海に出ようとしている。
ソラたちは、基地から離れた所からこれを眺めている。
ソラ「これなら、貴族の軍が攻撃してきても大丈夫だろう。ラインハルト、貴族の状況は?」
ラインハルト「現在、ホラート近くの大きな街に軍を集結させているようです。規模は約八万人程。今なお集結中で、予測では九万程になると」
ソラ「九万か……かなり集めたな。兵力はこちらとほぼ同じか。だが、それほどの規模なら、余裕をもって勝てそうだな。ところで、攻撃する理由はわかったか?」
ラインハルト「はい。端的に言えば、権力闘争に介入してきたから、が理由のようです」
ロンメル「権力闘争?何かした覚えは無いが……」
ラインハルト「カラザルでのモンスタースピード撃退、これが彼らを怒らせたらしく」
官兵衛「……それがどうして攻撃に繋がるので?」
ラインハルト「現状マナワル共和国は、北の侯爵であるブルーノを棟梁とする「中央派」、南の侯爵であるアーダルベルトを棟梁とする「穏健派」の二つに分断されているようです。今回のモンスタースピードを聞きつけた「中央派」は軍の動員を行い、力を削がれた「穏健派」に対し武力で脅して共和国の主導権を握ろうとしたようです。ですが、我々が早期に解決してしまったため、振り上げた拳の下ろす先が無くなり、計画を潰した我々に矛先が向いた、という流れのようです。加えて、我々が大陸外に移動しようとしていることから、我々しか知らない土地があるのではと考え、その土地と我々の武器もついでに奪おうとしているらしく」
ソラ「……なるほど。そういうことか……となると、攻撃を中止させるのは厳しそうだな」
ロンメル「ならば、奴らを完膚なきまでに粉砕するしかないのでは?周囲の脅威を排除したほうが良いかと」
ラインハルト「それに、彼らを殲滅すれば、周囲の国家間の力関係が崩れて争いが起こる可能性があります。彼らが争っている間は、国家建設を気兼ねなく進められるでしょうし、混乱に乗じて諜報員を送り込むこともできるでしょう」
ソラ「……そうだな。この世界の正規軍にどれだけ通用するのか試すこともできるから丁度いいか。だが、一番留意すべきは魔法だ。あれについては、詳しいことはよくわかっていない。司令部に戻って対策を考えるとしよう」
ソラたちは対策を考えるため、基地へと戻り始めた。
コンラート「…………というのが現状です」
ブルーノ「……う~む。要塞か……あのよくわからん武器は強力だと聞く。要塞まで築かれているとなると厄介だな……」
「やつらの兵力はどのくらいだ?」
コンラート「恐らく、五万程になるかと」
ブルーノ「こちらの半分か。兵力差的には問題ないが、「黒い太陽」の武器には注意する必要がある。あの武器に関して詳しいことは?」
コンラート「よくわかっていません。どういう原理で動いているのか、皆目見当もついていない状態で。言えることとしては、主力武器は弓よりも長距離且つ火力が高く、連続して攻撃することが可能。乗り物は馬が必要なく、高速で長距離を移動することが可能。これくらいですね」
ブルーノ「困ったな……それだけでは対策を立てるのは難しい。もっと詳しい情報を集めてくれ」
コンラート「わかりました。では任務にあたりますので、私どもはこれで」
そういうと、コンラートとミラヤは部屋から退出した。
部屋から出た二人は街を歩き回って時間を潰して夕方になった頃、荷物を持って街を出て、近くにある森へと向かった。
しばらく歩いていると、大きなギャップがある地点に着いた。
そこには焚火の後らしきものが残っていた。
二人は周辺の木の枝を集めて焚火を焚くと、近くに腰を下ろした。
コンラート「…………来たか」
ミラヤ「そのようで」
少し待っていると、森の向こうから足音が聞こえてきた。
それも、一人ではなく複数の。
「……既定の時刻通りだな」
森の向こうからやってきた者たちは、皆真っ黒な服装をしていた。
その先頭にいる男は、腕につけている時計を見ながらコンラートに話しかけた。
コンラート「当たり前だ。遅刻なんてするわけがない」
「それは有り難いがな。こちらとしても仕事がしやすい」
コンラート「それより、無駄話なんてせずにさっさと仕事を終わらせよう」
「……ああ、そうだな」
コンラートは立ち上がると、持ってきた荷物の中から幾つかの巻物を取り出して男に手渡した。
「しっかりと受け取った。確認するが、本物だろうな?」
コンラート「ああ、間違いない。そちらでも確認してくれたらわかると思うが」
そういうとコンラートは、二つのまた別の巻物を取り出して渡した。
「これは?」
コンラート「俺が集めた限りの地理情報が記してある奴だ。そっちのは大陸に関する巻物で、そっちのは遠洋に関する奴だ」
コンラート「さて、俺の仕事はここまでだ。今度は、そちらの仕事だ」
コンラートはそういうと、笑みを浮かべた。
男は少し黙っていたが、徐に懐から一枚の紙を取り出してコンラートへ渡した。
「ほら。これが報酬だ。お前さんが望んでいたやつだ」
コンラートは紙に書かれてある内容を見て、さらに笑みを浮かべた。
コンラート「ひゅ~。ようやっとか。俺が集めてきた情報の全てがあんたらに渡ったが、それ相応の対価はあるな。それじゃ、また世話になると思うから、その時は宜しくな」
そう言われた男はコンラートの様子を少しの間見ると、仲間を連れて元の道へ引き返していった。
ミラヤ「……本当に、これでよかったので?」
コンラート「ああ。これから面白くなるぞ!ああ楽しみだな~」
紙の文字を見ながら、コンラートは心底嬉しそうな表情をしている。
コンラート、及ビ、ミラヤ殿へ
今マデノ功績ヲ鑑ミ、貴殿ラヲ我々ノ組織へ加入スルコトヲ認可スル。
更ナル活躍ヲ期待スル。
黒い太陽 情報部 ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ
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