第12話 

ソラ「それではカラザル卿、またどこかでお会いしましょう」



アーダルベルト「ああ。何度も言うが、困ったときは私を頼ってもらって構わぬ。褒賞金を渡したが、それでも恩は返し切れておらぬからな」



ソラ「わかってます。色々と助けてもらいますよ」



アーダルベルト「おいおい、無茶ぶりはやめてくれよ。君たちの無茶ぶりは、首相のそれを超えそうだ」



モンスタースピードから約二週間後、ソラたちはカラザルから北進するため、カラザルを発とうとしていた。



この二週間は、ギルドマスターのアルバンを通して軍団「黒い太陽」を創設後、専らカラザルの瓦礫の撤去、治安維持や治療といった復興の支援を行っており、ソラたちは、そのことも含めてアーダルベルトからひどく感謝されていた。



また、モンスタースピードを制圧したことで、ソラの能力が成長していた。



それぞれ、『人物召喚改二』『物質召喚改二』『能力拡張改二』へと成長しており、いくつかの制限が撤廃され召喚できる対象が増えたため、装備の更新や部隊の再編成を行った。



現在は、歩兵師団二個と複数台の戦車を保有する二万人ほど部隊となっている。



機甲連隊に関しては、軽戦車を中心とする編成のため速度はあるが、突破力に少し欠ける。



千代「閣下、お時間です」



ソラ「わかった。カラザル卿、それでは」



ソラはトラックに乗り込み、部下たちと共に北へと進みだした。









マナワル共和国北部 港町ホラート



ソラたちはカラザルから北へと進み、いくつかの街を通過。



それらの街でギルドの依頼達成や魔物討伐をして資金調達や更なる情報の収集に努めた。



三週間の移動期間があったため、ソラはマンシュタインやロンメルから戦略やドクトリン、ハイドリヒから情報の収集に関することを教わった。



そうやって北進を続けていると、港町ホラートへとたどり着いた。ホラートはヴァルマイヤート大陸の最北にある港町である。



ソラたちはこのホラートを拠点として、大陸の外へと進出するつもりだった。



ロンメル「着きましたね」



マンシュタイン「ああ。では第一連隊は閣下についていけ。他の者は、設営をしてここで待機だ」



「は!」



軍団員は一斉に答えると、設営の準備に取り掛かりだした。



千代「閣下、行きましょう」



ソラ「ああ。……見た限り、ここも少しピリついているな」



ロンメル「ええ。やはり、カラザルの件の影響でしょう」



カラザルにてダンジョン崩壊が起こったことによって、マナワル共和国は揺らいでいた。



カラザルの件で、共和国内の均衡が崩れたためだ。



これには共和国の歴史が関係している。





かつて、マナワルは元々は王制の国だったが、数百年前の平和が長く続いていた頃、国家財政が傾くほどの贅沢をする愚鈍な王が何代か続き、遂には貴族に対し重税を課そうとしたために、貴族はクーデターを起こして王を廃し、国家元首である総裁を貴族の選挙で決めることになった。これにより、マナワル共和国が成立した。



そんなマナワル共和国は成立当初、現在の北部しか領土はなかった。



しかし、今から数十年前に、王の廃止で混乱していると考えた共和国南方に隣接するガラリア王国が共和国に侵攻してきたが、この戦争に勝利したことでカラザル含む南部を領有した。



その戦争で大きな活躍をしたのが、カラザル領主の侯爵アーダルベルト・カラザル・フォン・ライナームであった。



戦功によってカラザルを手に入れ、ダンジョンの利益で大きな力を手に入れたアーダルベルトだが、当然これを面白く感じていない者もいる。



その人が、ホラートを含む共和国北部に大きな領土を持ち、共和国に存在する二人の侯爵の片方である、侯爵ブルーノ・ミレニア・フォン・ユーセリス。



彼は、マナワルが王制の頃から力を持ち続けてきたユーセリス家の当主であり、共和国北部最大の鉱山都市であるミレニアを中心した土地を領土としている。加えて、共和国の実権を握ろうとしており、お零れにあずかろうとする貴族たちと共に派閥「中央派」を形成している。



そんな彼は、二人しかいない侯爵のもう一方であるアーダルベルトを敵視していたが、アーダルベルトには迂闊に手が出せないでいた。



力があることもさることながらアーダルベルトには派閥があったためである。



アーダルベルトは権力闘争に対する関心が薄かったものの、ブルーノの勢力拡大を警戒する貴族たちやアーダルベルトの親族がアーダルベルトを担ぎ上げて派閥「穏健派」を形成している。



彼は派閥の活動には殆ど関わっていないが、彼の親族が所属するため渋々ながらも派閥を支援していた。



このブルーノを棟梁とした北部の貴族が所属する「中央派」と、アーダルベルトを棟梁とした南部の貴族が所属する「穏健派」が共和国を二分していたが、ダンジョン崩壊以降「穏健派」の勢力が少し後退した。



そんな時、ダンジョン崩壊を理由としてブルーノをはじめとする「中央派」の貴族たちが軍拡を開始し始めたため、貴族たちが蜂起するのではないかと多くの民衆が考え、各地の街でピリつきだしたのだった。



ソラ「まあ、ここで気にしても仕方ない。行政府に行って、海に隣接する土地を購入するとしようか」



千代「ええ。その後は……」



官兵衛「船を呼び出し、海を渡って陸地を発見後、可能ならその土地に国を興す。ですよね?」



ソラ「ああ。この大陸は技術が発達していないから、大陸周辺しか調査が行われていない。なら、周辺の島で国を興すのは容易にできるだろう」



ソラ(覚えている「オストラント」の世界地図ではいくつもの大陸があったから、今いる大陸がどの大陸か特定することもできるだろうしな)



ソラたちはホラートの町へと入っていった。



空には、無数の鳥が飛んでいる。










マナワル共和国 首都マナワル 旧宮廷



王制から共和制に移行後も、政治を執り行う場所である旧宮廷。



煌びやかな宝石や有名な画家の絵画などで装飾されている廊下を、これまた煌びやかな服装をした数人の貴族が歩いている。



?「それで?アーダルベルトの奴は今どうなっている?」



「今現在、アーダルベルトはカラザルの復興を続けています。瓦礫の撤去が迅速に進んだことで損傷した建物の修復や建設に取り掛かっています」



?「ぬう……困ったな」



華やかな服装に身を包み、一番前を歩くこの中年の貴族こそ、侯爵ブルーノ・ミレニア・フォン・ユーセリスである。



周囲にいるのは「中央派」の貴族であり、「穏健派」の情報を集めてブルーノに報告する役割を担っている。



ブルーノ「ダンジョン崩壊で奴の領地が大打撃を受けるかと思ったが……もうそこまで復興が進んでいるか……」



「はい。それに加え、直接的な打撃を受けたのはカラザルのみで、奴の軍も被害は受けたものの、すでに充足はほぼ済んでいます。そのため、「穏健派」の勢力は我々が当初予想していた程削がれてはいません。「穏健派」は、平時にもかかわらず軍拡を始めた我らを警戒しています」



ブルーノ「失敗したな……奴はこれで終わりと思い、実権掌握に向けて動き出したが、まさかダンジョン崩壊の被害がカラザルだけとは……。はやく動きすぎたか。どれもこれも、あの軍団のせいだ!余計なことをしおって……。あの軍団は現在何をしている?」



顔を赤く染めたブルーノは、隣にいる貴族に問うた。



「現在、「黒い太陽」はカラザルから北上を続けており、カラザルから約二週間ほどの距離にある町にいるとのこと」



ブルーノ「……奴らはどこに向かっている?マナワルに向かっているわけではなさそうだが…………方向は?」



「ホラートがある方向に向かって一直線に進んでいます」



ブルーノ「ホラート?あそこには何もないはずだ。奴らは冒険者だからダンジョンがあるところへ向かうのが筋ではあるが…………う~む……」



「……………もしや、海に出ようとしているのでは?」



ブルーノ「む?海に?海に出るのは良いが、そもそも海に出たところで一体何処に向かおうと…………いや、もしや奴らにしか知らない場所があるのか?」



「聞くところによると、彼らは未知の強力な武器を使用するようです。もしかしたら、彼らしか知らない武器や土地を手に入れようとしているのでは?」



その言葉を聞き、少し考えた後、ブルーノは笑みを浮かべた。



ブルーノ「だとしたら好機だ。強力な武器を手に入れ、更に領土も得る。そうではなかったとしても、計画を狂わされた恨みを晴らすことができる。「穏健派」を潰そうとして振り上げたままの拳を、奴らに振り下ろすとしよう。「黒い太陽」を攻撃する!「中央派」の貴族たちに軍を召集させろ!それと攻撃は、今から半年後だということも伝えておけ」



「了解しました」



ブルーノの傍にいた二人の貴族が走り去っていった。



更にブルーノは、「黒い太陽」に関する報告をした貴族を見て言った。



ブルーノ「お前の部下に、更なる情報を収集させろ。何でもいい、情報が手に入れば十分だ」



「わかりました」



ブルーノ「それと、「黒い太陽」に召集をかけるように。一応、大義名分は必要だからな」



「はっ」



ブルーノ「さて、「黒い太陽」め。この恨み、晴らしてくれようぞ」










港町ホラート 行政府



「はい。代金はしっかりと頂きました。こちらが、ラナムンの所有証明書となります」



ソラ「ありがとう」



ソラは目的を果たすためホラートの行政府に来ていた。



そして今、海に隣接する土地を購入したところである。



購入後、ソラは軍団を連れてホラートから離れた、ラナムンと呼ばれる土地へと向かった。



ソラたちが購入した土地は、中央に広い平地が広がり、三方は森に、一方は海に囲まれた何もない土地だった。



ソラ「ここか……平地が広がっていて、基地を作るのに最適だな」



千代「ええ。ではまず、土地の調査をしましょう。何があるか知っておくことは大事ですからね」



ソラ「そうだな。ラインハルト!二個大隊を預けるから調査をしてくれ」



ラインハルト「わかりました。第二師団の第一、第二大隊はついてきてください」



ソラ「他の者は設営の準備だ。すぐにとりかかってくれ」



「は!」



返事をするとすぐに、軍団員は設営を開始した。



本部となる天幕をたてたあと、それを中心としていくつもの天幕をたてている。



マンシュタイン「では調査が終わるまでの間、これからの予定を再確認しましょう」



ソラ「わかった」



ソラたちは、本部の天幕で会議を始めた。



ソラ「まず、基地を立てた後の予定を確認しよう」



千代「現在の予定としては………………」



大まかな予定を要約するとこうである。



壱。調査船を海に送り込んで遠海を調査させる。



弐。陸地を発見後、調査団を派遣して国家がないか確認。あった場合は、同じように土地を購入して基地を作り、そこを拠点に更に調査船を送る。無かった場合は、国家建設に向けて本格的に動き出す。



参。調査船を送り続けて、現在地が世界のどこにあたるのか調査。



肆。これらと並行して、憲法や法、軍や政治機構などを整えて国家の基礎を固める。



伍。基礎固めが終了後、陸地の開発や、発見した別の良い陸地があれば上陸して領有し、領土を拡大。



陸。ラナムンから調査員を送って大陸の情報を収集。



膝。他国家との交流を行う準備。



千代「……現在の予定は以上です」



ソラ「意見があるものはいるか?問題がないなら、これでいこうと思うが」



ソラが皆を見ると、すぐにマンシュタインが手を挙げた。



ソラ「マンシュタイン将軍、何か案が?」



マンシュタイン「はい。これから先、陸海空軍の整備を行う上で、将軍や提督の増員が必要かと。今は我々だけで済んでいますが、海軍や空軍に関する経験や知識を持った人材が居たほうが整備は円滑に進むでしょうし、何より他国家と交流を行う上で、海軍に提督がいないというのは些か問題があるかと」



ソラ「……確かに、そういった人材は必要だな。わかった。余裕が出来たら召喚しよう。他に案があるものは?」



すると今度は、ラインハルトが手を挙げた。



ラインハルト「私からお願いが。情報を収集するための人員を呼んでいただきたい。できれば、諜報に関わったことのある人材を」



ソラ「わかった。すぐに呼ぶ。準備ができたら行動を開始してくれ」



ラインハルト「わかりました」



ソラ「他に案があるものは?…………いないようだな。では、当面は先ほどの予定で動く。解散と……」



解散しようとしたところ、ラインハルトが手を挙げた。



ラインハルト「閣下、少し報告が」



ソラ「ん?何だ?」



ラインハルト「周辺の町に部下を送り込み情報を集めていたところ、部下からこのような報告が」



ラインハルトは数枚の紙をソラに渡した。それを読んだソラは驚きの表情を浮かべた。



ソラ「……これは……」



ラインハルト「どうやら、我々はこの国の貴族に注目されているようです。悪い意味で、ですが」



報告書にはこのようなことが書いてあった



報告書




ミレニア 甲第二員ヨリ



ミレニア領主デアル、ブルーノノ軍ニ不穏ナ動キアリ。



街ノ食糧及ビ武器ヲ収集ス。



加エテ、周辺貴族動員ヲ開始セリ。



軍、ホラート方面ニ向ケ進ム。




ソラ「食料と武器を集め、周辺貴族が動員開始、軍はホラート方面に進軍…………平時且つ何もないホラートに軍を進めるとは、完全に我々を狙っているとしか思えんな」



ラインハルト「ええ。私の部下には引き続き情報収集に努めるよう命令しているので、さらに詳しい情報が入ると思います」



マンシュタイン「……しかし、まさか貴族が軍事行動を起こすとは……何が原因だ?」



ロンメル「領内で破壊活動をしているわけでも、国家転覆を図ろうとしているわけでもありませんからね…………彼らが行動に移る理由が分かりません」



官兵衛「ラインハルトさん、他に情報は?」



ラインハルト「特に目立ったものはありません。物価がどうとか、街の防御壁がどうとか、そういったものばかりです」



千代「困りましたね……このままでは、彼らと戦闘になるかもしれません。そうなれば、この国にいることが難しくなりますし、ラナムンから調査員を送る予定が狂います」



ソラ「……とにかくだ。基地の建設を急いで行い、防衛陣地を構築するように。予定を少し変更して、遠海の調査を最優先だ。さっさと陸地を発見してマナワル共和国から出るぞ」



そういったソラの目には、『三本足の烏』の模様が薄く出ていた。


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