第10話 迎撃と終戦
「だめだ!きりがないぞ!」
「どんだけ出てくんだこいつら!」
「このままじゃ、予備の装備がきれちまう!」
アルバン「回復魔法師は治療を急げ!正面戦力を確保せよ!」
アーダルベルト「……全てを破壊せよ『ストリームエクスプロード』!……ぬう、数が多いな」
千代「倒してはいますが、出てくる魔物が強くなっているような……」
「!おい!ゴーレムだ!第五層の敵が出てきてるぞ!」
「嘘だろ!まだ五層かよ!カラザルダンジョンは十層まであるのに!」
「あ!サイクロプスだ!あいつを早く倒せ!薙ぎ払われるぞ!」
ロンメル「ちぃ!砲兵!榴弾砲であのデカブツを吹き飛ばせ!」
「は!目標、デカブツ!装填を急ぐんだ!…………放て!」
「ぬあ!相変わらずでかい音だ……。何!あのサイクロプスを倒したぞ!」
アーダルベルト「でかした!皆の者!我らも負けてはおれぬぞ!」
カラザルの街に、激しい爆発音と銃撃音が鳴り響き、止まることがない。
爆発が各地で発生し、それと同時に道に穴が開き、家が破壊されている。
太陽が頭上を過ぎた頃になっても、戦いは続いていた。
スタンピードはそのダンジョンの地上に近い層、つまり、第一層、二層、三層といった順で、その層にいる魔物が出てくる。
カラザルダンジョンは十層で構成されており、現在は第四層の魔物を殲滅済みである。
現時点だけでも五万程の魔物を討伐している。しかし、層が進むにつれて魔物は強くなっていく。上層は魔物が弱い分、その絶対数が多い。対し、下層にいくにつれて数は減っていくが、その質は反比例するように高まっていく。
ソラたちは現在の兵器では対処できなくなっていくのを感じ、榴弾砲や火砲、携帯型対戦車砲を大量に召喚したうえに、更に数千の軍勢を密かに召喚して戦力を増強。合計一万強の軍人をソラは召喚したことになる。
魔物の数に押されて一時少し後退したものの、前線を広げ、正面圧を緩和することで戦線を維持しようとした。
だが、ソ連軍のような人海戦術を彷彿とさせる魔物の群れに、冒険者や兵は疲弊していた。
斬っても魔法を放っても、魔物の陰から別の魔物が姿を現し、ダンジョン入り口からも際限なく魔物が出現している。加えて、第四層のボスであるサイクロプスがダンジョンの入り口を広げ、出てくる魔物の数が増えた。
このままでは前線の維持ができなくなると判断したマンシュタインとロンメルの進言により、より後方に防衛陣地を構築。そのラインまで撤退することで前線を伸ばし、正面に来る魔物を分散させると同時に、新たに数千人を召喚して戦力を増強。合計二万人を召喚。
それらを分散させ、ダンジョンを包囲するように展開し、連絡を密にするようにした。
結果、前線を維持することに成功し、負担が減った。
だが、懸念もある。
最初は新米たちに任せ、魔物が強くなっていくごとに腕が立つ者を投入し、強い魔物に対処する。
この作戦で腕利きの者たちの損耗を抑えることはできたが、物資や矢はそうはいかない。
供給量よりも消費量が上回っており、使えば使うほど無くなっている。
さらに、材料も無尽蔵ではないため、その不安もある。
そんな中、広場に冒険者の集団がやってきた。
「おい!隣町からの援軍だ!」
「援軍に来た!装備と矢もたんまり持ってきたぞ!」
アルバン「おお!ありがたい……!」
「資材と材料を持ってきた!これで包帯や矢をつくれるはずだ」
アーダルベルト「よし!材料があるなら生産はできる!」
ロンメル「……狙撃兵だけでは対空が厳しいか……閣下!対空砲を!」
ソラ「わかった!」
千代「閣下!弾薬が少なくなっております!補充を!」
ソラ「ちょっと待ってくれ!……よし。君たちは対空を頼む。千代!すぐ補充する!」
「いいぞ!少しずつ押し戻してる!」
「『サイクロン』!この調子で前線を安定させるんだ!」
「敵を効率よく討伐できてる……!今まで、こんなスタンピードは経験したことねえぞ!」
「どんどん倒せ!『ロックガトリング』!」
援軍の影響で士気が上昇。さらに、戦力が増えたことで戦線が安定し、次々と魔物を討伐できていた。
ソラたちの銃撃音やグレネードの爆発音が轟く。
冒険者やアーダルベルトの兵たちの剣戟や魔法による攻撃の音が各地で聞こえてくる。
アーダルベルト「……だが、ここまでのスタンピードになるとは……」
アルバン「ええ。カラザルダンジョン程の規模では前例がなかったため予想できませんでしたが、まさかこれほどとは……」
アーダルベルト「やはり、ダンジョンは攻略せず、資源の倉庫として活用するのがよいの。……ぬ!『ドラゴンストーム』!全く、キリがないな」
アルバン「……これは、我々だけでは確実に負けていたでしょうね」
アーダルベルト「ああ。戦功一位はあの軍団だな。…………だが、彼らの人数が増えているような?」
「よし!……はあ……はあ……ふん!……まだ……終わらないのか……?」
「く……そ……だめだ……出血しすぎた……」
「『ファイアボール』……!……俺もだ。もう限界だぞ……」
「来るんじゃねえ!……おい!矢が尽きかけてるぞ!」
「装備も予備が少ない!そろそろ無くなってちまう!材料も乏しい!」
「……………どうすれば…………!おい!あれを見ろ!」
「あれは……フェニックス……!」
「はは……第九層のボスか……後一層もあるのかよ?」
「……よくやった……ほうじゃねえか?最初から、負けることを覚悟してたんだ」
「……ああ、そうだな。よくやったと思うぜ。……こんな魔物を倒したんだからよ……」
更に数刻が過ぎ、太陽は傾いている。
出てくる夥しい数の魔物を倒し続けて、体力は消耗し、鎧は凹み、武器は魔物の血で紅く染まり、矢は尽きかけている。精神的、肉体的に消耗した絶望的な戦いの最中でも、彼らは戦意を完全に喪失してはいなかった。
エルンスト「『雷の鉄槌』!」
「エルンスト!こっちの魔物は任せろ!お前はフェニックスを!」
エルンスト「任せろ!そっちは頼んだぞ!」
ダンジョンの入り口正面で戦闘を続け、あふれ出る強者を叩いては後退して回復、前線に復帰を続ける「鋼の絆」のメンバーたち。
第九層にいる魔物、体が紅く燃えるフェニックスが現れた瞬間、エルンストは先制攻撃をかけた。
彼の手から雷が出現し、フェニックスへ命中する。
電撃をくらったフェニックスは体が痺れて動けないでいる。
「フェニックスまでの道は用意する!邪魔だ魔物!『霰の台風』」
「おらおらおらーー!!!どけどけ魔物ども!」
彼の仲間たちはフェニックスへ至る道を確保するため、彼とフェニックスの間にいる魔物を倒していく。
仲間たちの援護により、周りの魔物はエルンストへ攻撃できない。
フェニックスへ接近したエルンストは、両手をかざして狙いを定める。
エルンスト「『氷龍』!落ちろフェニックス!何度お前を倒してきたと思ってる!」
両手に氷の柱が出現すると、フェニックスへ真っ直ぐに飛んでいく。
電撃による麻痺で動けないフェニックスへ命中すると、冷気によって体が冷やされていくと共に、柱が体を貫通して穴を開ける。
フェニックスはズシンと音を立てて落下、そのまま動かなくなった。
「さすがエルンストだ!こっちの援護に来てくれ!」
エルンスト「今すぐ行く!ちぃ!数が少なくなってきた分、一体一体の強さが上がってやがるな……」
アーダルベルト「……さすがは「鋼の絆」だな……だが、彼らも目を見張るものがある」
「数匹そっちに行った!すぐに倒せ!」
「了解!」
「対空部隊!あそこにいる鳥野郎を打ち落としてくれ!」
ロンメル「そのまま戦線を維持せよ!耐えるのだ!」
マンシュタイン「弾薬は気にするな!倒すことに集中せよ!」
官兵衛「……閣下。この辺りに対空砲を新たに」
ソラ「わかった。その次は?」
千代「弾幕を張り続けろ!魔物は不死身ではない!恐れるな!」
「後方に退避ーーー!!」
「近づくんじゃねえ!クソ、小銃じゃだめだ、対戦車砲を!」
「くらえデカブツ!!」
「戦線を押し戻せ!奴らを自由に行動させるな!」
「突破した敵は殲滅した!戦線に復帰する!」
「こっちに来てくれ!こいつら硬いぞ!対戦車砲の斉射で押しつぶす!」
「了解!」
アーダルベルト「見たこともないが、強力な兵器を使い、数万人を動員している。士気も高く、統制もとれている。冒険者としては異質だが、軍としては良い手本だな。……敵として相対するには恐ろしい……だが……」
「あいつらに負けんな!冒険者の意地を見せるぞ!」
「何でもいい!武器になりそうなものを持って前線に行くぞ!任せっきりなんてさせるな!」
「俺たちは「鋼の絆」の支援に回る!お前らは、あの黒い軍団の支援だ!」
「任せろ!それと、差し入れだ。「鋼の絆」に渡せ!戦い続けてろくに食事をとれていないだろうからな」
「すまん待たせた!多少回復したから俺も戦う!」
「そっちに一体魔物が行った!家の中に入っていったぞ!」
アーダルベルト「彼らと「鋼の絆」の奮戦が士気の低下を防いでおる。それどころか、闘志に火をつけているな」
アルバン「それだけじゃありませんよ、カラザル卿。戦い続けていることで、皆が仲間意識を持ち始めています。最初は距離をとっていた冒険者とあの軍団は、今では……」
「大丈夫か!この包帯を巻いてろ。応急処置にはなる」
「助かるぜ。油断しちまったな……」
「『ファイアウォール』!大丈夫か!後ろから魔物が来ていたぞ」
「本当か!ありがとう。助かった」
「後ろに下がれ!俺たちが援護する!」
「負傷者を連れて後方へ行け!君たち、援護感謝する!」
「医療用テントに連れていけ!こいつ、血を出しすぎで死んじまう」
アルバン「互いに協力し合っています。おかげで、最初のころと比べて負傷者は減り、魔物を次々に倒せています」
アーダルベルト「そうだな。この調子なら、もしかしたらこの戦い、勝てるやもしれん」
「良し!この付近の敵は粗方倒し終わったぞ!」
「こっちもだ!近くに敵はいない!」
ロンメル「対空部隊!あの鳥野郎を落とせ!…………よし。空中の敵は全滅した!後は地上の敵だけだ!最後の仕上げにかかる!」
「こっちだ!一匹こっちに逃げていった!小隊、追うぞ!」
「了解!」
「ここのエリアは制圧した!もう敵はいない!」
「こっちもだ!」
マンシュタイン「よし。周囲のエリアは制圧済みか。全軍、広場へ進め!残った魔物を殲滅する!」
アルバン「冒険者たちも続け!モンスタースピードはもうすぐ終わる!最後の辛抱だ!」
アーダルベルト「我が軍も広場へ行け!この街から魔物を駆逐する!」
エルンスト「残った魔物は後わずかだな」
「ああ。街は瓦礫だらけ、物資も尽きかけていた。危ない戦いだった」
「さ、残りの魔物を倒そうぜ。もうすぐ終わりだ」
カラザルの街に、断続的に銃撃音と爆発音が鳴り響いている。
カラザルから完全に魔物を討滅してモンスタースピードが終結したのは、日が沈んだ頃であった。
終戦後のカラザルの街は、目も当てられない状況だった。
至る所に、爆発による穴が開いている。
家は倒壊したものもあれば、魔法で凍ったものもあり、焼けてしまったものもある。
冒険者や兵、魔物の死体で道は埋め尽くされ、流れ出た血で地面は赤く染まっている。
かつて、ダンジョンの恩恵で繁栄し多くの人々が住んでいたマナワル共和国南部の大都市カラザルは、その面影をなくしてしまった。
「こっちに人がいる!瓦礫の下敷きになってる!どかすの手伝ってくれ!」
「おう!」
「こっちもだ!誰か来てくれ!」
「包帯を巻け。失血を少しでもいいから抑えるんだ」
「助かる」
「衛生兵!重傷者がいる!すぐに治療を!」
「負傷者は野戦病院に運べ!動けるものは捜索に!」
戦いが終わり、人々は怪我や瓦礫の下敷きになり動けなくなったものがいないか街に探索に出ている。
ソラは、カラザル郊外に設けられた司令部で椅子に座りじっとしていた。
ソラ「…………」
千代「閣下、こちらが今回の戦闘による損害です」
ソラ「……ああ、ありがとう。確認する。…………多くの人が死んだな……」
千代「冒険者は始め四千人いましたが、負傷者は二千を超え、死者は約五百程、行方不明者約三百。現在は三千人ほどに減っています。カラザル卿の軍は一万二千人でしたが、負傷者六千、死者三千、行方不明者千程であり、現在は八千人程です。我が軍は約二万人いましたが、負傷者五千、死者千、行方不明者二千程、現在は約一万五千にまで数を減らしています」
ソラ「…………そうか。負傷者の治療と行方不明者の捜索を最優先にするように。……俺は、少し外に出ている」
千代「は!」
司令部から少し離れた、夜空が見える木もない平原で、ソラは星を眺めていた。
ソラ「…………多くの人が死んだ、か。…………カラザルを助けなかったら、もっと多くの人が亡くなっていたかもしれない。が、……」
ソラ(…………俺は、何時ごろから、人の死に、何も感じなくなってしまったんだろうか?…………まさか、白虎が説明していない何かが原因か?それとも別の………?…………いづれにせよ、勝てたのが幸いか)
空を見つめるソラの目に、『三本足の烏』の模様が浮かびあがり、金色に輝いたと思ったら、すぐに消えた。
風の吹かない、木もない平原で、ソラはただ空を見ている。
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