第8話 ダンジョンと彼ら

ソラ「ついにきたか……ダンジョンに」



千代「ええ。聞いていた通り、迷路になっていますね」



ダンジョンに入ると、そこは暗く広い洞窟の中だった。周囲を見渡すと、いくつか道があり奥に続いている。



ソラ「じゃ、ささっと回って帰るか」



千代「はい。固より、攻略に来たわけではありませんし」



向かって右側の道へと歩き出した二人。すると、中心に赤く光る石がある緑色の物体と遭遇した。



ソラ「こいつは……」



千代「スライムですね。このダンジョンの最上層によく出る魔物らしく、地上でもあまり珍しくはないそうです」



ぷるぷると震えながら、ゆっくりと、赤子のように二人のもとへ向かうスライム。



ソラは腰に提げて取り出し、スライムへと照準を合わせて引き金を引いた。



スライムは弾丸に貫かれると同時に、バラバラになってスライムだったものが周囲に飛び散った。



ソラ「ん?これは……魔石か」



スライムの居たところには、赤く光る石が残っていた。これが魔石である。




魔物はこの石に宿るエネルギーを用いて生きていると考えられているが、詳しいことは未解明である。一つ言えることは、この石のエネルギーを使えばその石に合う魔法を使うことができるということだけである。この赤い石は『火魔法』を使うことが可能である。



千代「……魔物相手でも通用するようですね。これなら、我々に敵う魔物はなかなかいないでしょう」



ソラ「ああ。あと数種類の魔物で試して威力検証はおしまいにしよう」



道を進んでいると、いろいろな魔物に出会った。緑色の肌をし、棍棒を振り回すゴブリン。ゴブリンよりも大きな図体で、斧を振るオーク。一本角が生えているウサギのアルミラージなどの魔物に出会ったが、銃で脳を貫かれて絶命するだけであった。









そうして歩くこと数刻、大きな門の前まで来た。



ソラ「さて、第一層のボスか」



千代「今までの魔物を見る限り、大したことはなさそうですが……備えあれば憂いなし。装備を整えましょう」



携帯対戦車砲や狙撃銃を召喚して装填。その後、門の扉を開けた。



中には、大きな牛型の魔物ミノタウロスが待ち構えていた。



千代「閣下!」



ソラ「ああ」



ミノタウロスを認識するとすぐに、ソラは対戦車砲を構え、ミノタウロスの体へ照準を合わせた。



ミノタウロスが二人を発見して雄叫びをあげると同時に、対戦車砲を発射。弾頭はミノタウロスの体へと向かい爆発、ドーン!という大きな音がなった。ミノタウロスが後ろに吹き飛び壁に激突した。



千代「……まだです。確実に息の根をとめましょう」




ソラ「ああ」



新たに弾頭を召喚し装填、その間にもミノタウロスは起き上がろうとしている。



装填が終わると、ソラは再び照準を合わせて攻撃。今度はミノタウロスの頭付近で爆発し、ミノタウロスは頭を失った。それは、地面にドサッと倒れて白い光を出しながら消滅した。ミノタウロスがいた場所には、一本の角と茶色く光る石が残されていた。



ソラ「討伐完了か」



千代「ええ。これは角と魔石でしょうか。……?なにか光が?」



戦利品を拾っていると、部屋の真ん中に、光る魔法陣が出現した。



千代「……これが帰還用の魔法陣ですか」



ソラ「そうみたいだな」



カラザルに向かう途中に存在する、とある町で出会った冒険者から二人はダンジョンのことについて話を聞いていた。



ソラ「一旦帰ろうか。とりあえず、目的は達成できた」



千代「ええ」



魔法陣に足を踏み入れ少し待つと、魔法陣が強く光りだして視界が真っ白になった。







視界が元に戻ると、そこには多くの人がいた。



ソラ「……戻ってきたか」



千代「ええ。そのようで」



右方を見ると冒険者が列を成してダンジョンの入り口で待っている。



千代「では、部隊にもどりましょう」



ソラ「そうだな」



二人は部隊に戻ろうとした。その時、突如冒険者たちの居るところから歓声があがった。



見ると、十人程度のパーティーを冒険者たちが囲んでいる。



ソラ「あれは…………?」



パーティーの一番前には、金色の髪をする、白く輝く鎧を着こんだ好青年がいた。



「エルンストさん!今日はどこまで行くんですか!」



エルンスト「ちょ、ちょっといいかい?ああ、どこまでかって?今日は最下層手前までかな」



「エルンストさん!サインください!」




エルンスト「サイン?これからダンジョンに行くから……」



他のパーティーメンバーにも冒険者が集まっている。



どうやら周りにいる冒険者が群がり、パーティーはダンジョンに行けないでいるようだ。



千代「……どうやら、人気者に冒険者が群がっているようですね。どうしてかはわかりませんが」



ソラ「…………ん?」



ソラは、パーティーの一番後ろにいる整った顔の男性に目が留まった。彼は同じく、パーティーのメンバーではあるようで、彼にも人が集まっている。だが、群がる人たちの対応をしながら、彼はその顔を時折歪ませて、エルンストと呼ばれたパーティーのリーダーらしき男性を睨みつけている。



千代「私たちにはあまり関係ありませんね。閣下、戻りましょう」



ソラ「…………ああ」



ソラは、睨みつける男性を気にしながら、その場を後にした。



空には、黒い雲があった。
















カラザルから離れた場所 とある森






二人は、カラザルの街を離れてとある森に来ていた。



『地球』では見たこともない程の大きな木が生い茂り、周囲は少し薄暗くなっている。



その森の中を二人は歩いていく。一定間隔で、木に『とある形をした』印がされている。その印に沿って森の中を歩いていく。すると、森の中に存在する大きなギャップにたどり着いた。そこには、いくつもの天幕が野営地をつくり、野営地付近に何台ものトラックが止めてあり、黒い軍服を着た軍人が多く居た。




二人が野営地に近づくと、ある一人が二人に気づいた。



「!これは閣下。確認は終了したので?」



ソラ「ああ。数体の魔物を使い確認をした。ラインハルトは?」



「現在、総司令部にて待機していらっしゃいます」



ソラ「わかった。それと、会議を行うから集まるように『将軍たち』に伝えてくれ」



「は!」



その軍人は走り去り、二人は野営地の中央へと歩いていく。



その最中にも多くの軍人と出会い、彼らは見事な『ローマ式敬礼』を二人にした。




野営地の中央には大きな天幕が張られており、その中へ二人は入っていった。



中では複数の椅子と、その中央に机があった。その椅子の一つに一人の金髪の男性が座り、珈琲を飲みながら本を読んでいた。その男性にソラは話しかけた。



ソラ「ラインハルト。今戻った」



ラインハルトと呼ばれた金髪の男性は本を読むのを止めて、ソラを見た。



ラインハルト「……戻られましたか。それで、結果はどうでした?」



ソラ「結果だが、魔物に通用することがわかった。まあ、もっと多くの魔物で試したいところだが」



ラインハルト「そうですか。やはり我々の予想通り、質量を持つ物質には通用するようです。今度は、ゴーストやら怨霊の類で試してみますか」



そういって、珈琲を飲みだすラインハルト。



その時、天幕に三人の人が入ってきた。



ソラ「お、来たか。じゃあ、会議を始めよう」



ソラは上座に、千代はその隣に座る。その三人も座った。



ソラ「じゃあまず、今回の結果から。結論から言うと、魔物には十分通用する。もっと多くの魔物に試せば、より正確な結果が得られるだろうが」



すると、千代は自分の隣にある書庫から数枚の紙を取り出して読みだした。



ソラ「次に、ラインハルト。この辺りの情報を」



ラインハルト「我々が確認した限り、やはり近くに村はありません。一番近い村でも、ここから数十キロありますので、見つかる心配はないでしょう。」



ソラ「わかった、ご苦労。では、次に俺たちはどう動くべきだと思う?マンシュタイン将軍」



マンシュタイン「……そうですね……やはり、当初の予定通りに動くべきでしょう。閣下の能力を使えばダンジョンの攻略、及びスタンピードの対処は可能でしょう。しかし、十中八九統治者に目を付けられます。そうなれば、迂闊に動けなくなります。彼らと接触することによる利点は確かにありますが」



ソラ「……やっぱりか……ロンメル将軍、どう思う?」



そういうと、マンシュタインの隣に座る男性が口を開いた。



ロンメル「私は、積極的に動くべきかと」



マンシュタイン「……それは何故だ?」



ロンメル「目立った行動をすれば統治者に目を付けられる可能性が高いでしょう。しかし、このままでは部隊を自由に動かせません。ここに来るときも、部隊を隠しながら慎重に移動してきました。しかし、これでは部隊の力を完全に発揮することができません。ですので、逆に統治者に我々の力を知らしめることで、手綱を握ることはできないと思わせればいいのでは?彼らと対等な関係を結び、自由に行動することを許可させれば、カラザルを活動拠点にすることができ、且つ部隊の力も自由に発揮できるでしょう。カラザルを拠点にできれば、ダンジョンから素材や武器の入手もできますし、魔物を使って実験もできるうえ、ギルドに戦利品を売れば資金調達もできます。接触することによる不利益を、利益のほうが上回っています。閣下、ご再考を」



そういうと、ソラは考え込み始めた。



ソラ「う~ん……ロンメル将軍の言う通りなんだが……」



?「ならばこういうのはどうでしょう?」



ラインハルトの隣に座る若者が口を開いた。



ソラ「なにか案があるのか?官兵衛」



官兵衛「大まかな方針は、今までと変わらず不干渉を貫いて資金調達と情報収集。しかし、このままでは好きに動けないのも事実です。そこで利用するのが冒険者です。どうやら、冒険者は「軍団」というものを組織可能だとか?お二人にはパーティーを作っていただき、間隔をあけて部隊員をそのパーティーへ加入させる。次第にパーティーが大きくなるので、軍団を創設。さらに部隊員を入れていき……という流れは、いかがでしょう?」



マンシュタイン「……なるほど?いきなり現れれば目を付けられる。ならば、ゆっくりとやれば良い、ということか」



官兵衛「ええ。少しずつ成長している、という形をとれば問題はありますまい。いきなり現れてよくわからない武器を使う一万人を超える勢力、から、努力をして成長した、よくわからない武器をつかう者勢力、という評価に落ち着かせることができるでしょう。とはいえ、向こうから何かしら仕掛けてくることもあるでしょうが、彼らの抱く不安を少しでも抑えることは可能です」



ソラ「………………よし、官兵衛の案でいく。反対の者は?…………いないようだな」



すると、ソラは立ち上がり



ソラ「明日から、数名を連れてカラザルに向かう。部隊の中からふさわしい人物を選んでくれ。会議はこれで終わりだ。解散」



会議は閉幕した。






野営地の空は、黒い雲に覆われている。













カラザルダンジョン 最下層にて





エルンスト「ここがボス部屋か……皆!休憩だ。休憩をとったら帰還する」



広場のような大きな空間がある場所に彼らはいた。



その空間の壁には大きな門がある。



「マジックポーチからテント出して」



「はいよ」





マジックポーチ。『付与魔法』を使って製作された袋であり、冒険者には欠かせない道具の一つだ。



中には、マジックポーチの質によって変わるものの、多くの物を収納可能である。この袋に、テントや食料、水といったものを入れることで、身軽なまま移動することが可能である。加えて、良質なものになると、「その状態のまま」収納することが可能であり、食料が腐ることがなくなって長距離の移動ができる。





「そっち持って」



「よいしょ」



「じゃあ、私ご飯の準備するね」



エルンスト「わかった」



粛々と準備を進めていき食事をとった後、周囲の見張り役として一人を残し、パーティーメンバーは睡眠をとり始めた。


?「…………」



見張り役であった男性はライアン。ダンジョン入り口でエルンストを睨みつけていたのが彼である。



ライアンは皆が寝た後、暫くは見張りを行うと、門に向かい歩き始めた。



門に着くと、ライアンは光る魔石がはめ込まれた腕輪を装備した。



ライアン「……目の前に宝があるんだ。帰るかバーカ」



静かにそう呟くと、ライアンは門に触れた。すると、ライアンの体が光りだし、彼は姿を消した。














「おい!ライアンはどこだ!」



「急げ!何としてでも見つけろ!」



エルンスト「……一体何処に……」



ライアンが姿を消して数刻。パーティーメンバーの一人がふと目を覚ました。



しかし、その一人はライアンの姿がないことに気づいた。結果、パーティーは騒ぎになっていた。



「エルンスト、どうする?このまま帰るか?」



エルンスト「いや、メンバーが居なくなったまま帰るわけにはいかない」



「だが、これだけ探しても痕跡一つ見つけられないんじゃ……」



「皆!こっち!」



門の付近にいるメンバーの一人が声を上げる。



エルンスト「どうした?何か見つかったの……!これは……」



「……多分、ライアンはこの先に……」





ダンジョンのボス部屋に入る門には、不思議な模様が描かれている。現在でも、これが何を意味する模様なのかはわかっていない。一つだけあるとすれば、「この模様が輝いていると、現在ボス部屋に入っているものがいる」ということだけである。





そして、その模様が輝いていた。



エルンスト「なぜライアンが……仕方ない、中に入るぞ!」



「待て!そうしたらボスと戦闘になる。負けるわけにはいかないし、勝ったら……」



エルンスト「……腹を括れ。……いくぞ」



パーティーメンバーは門に触れて中に入った。












エルンスト「!……ライアン!」



ボス部屋の中では、ボスと思しき魔物の亡骸と、攻略報酬と思われる剣を掲げたライアンがいた。



ライアン「……来たか」



「ライアン……あの魔物は……」



ライアン「想像通り、このダンジョンのボスだ。やっとくたばったよ。用意したものが全て消えた」



エルンスト「何だと!?そのことが何を意味するのか、理解しているのか!」



ライアン「勿論だ。見ろ、この剣を。美しいと思わないか?これが攻略報酬……実に素晴らしい」



その言葉に、エルンストは顔を真っ赤にして言った。



エルンスト「ライアン!!お前がボスを倒したせいで、モンスタースピードが起こるんだぞ!!どうするんだ!!」



ライアン「どうって?どうもしないさ」



エルンスト「……は?」



ライアン「固より、この攻略報酬に興味があったからな。まあ、こんな美しい剣とは思わなかったが。モンスタースピードなど想定内だ。さっさとカラザルから逃げればいい」



「逃げる……?」



「ライアン!お前、それでも冒険者かよ!」



メンバーがライアンを罵る中で、エルンストは拳を強く握り、声を震わせて言った。



エルンスト「……カラザルの人たちはどうするんだ?彼等にも生活がある、仕事がある、家族がいる。魔物に対抗する術を持たず、このままでは何も出来ず魔物に殺されるだろう。そういった人たちは、どうするつもりなんだ?」



ライアン「だから言ってるだろ?どうもしない、放置だ。奴らが死のうがどうだっていい。というか、前から癪に障んだよ、エルンスト。いつもいつも邪魔しやがって……街の人間なんかどうでもいいだろ。弱いあいつらが悪い」



話していると、ライアンの足元すぐ近くに魔法陣が出現した。



ライアンの「じゃあな」



一言そういって、ライアンは魔法陣に足を踏み入れて消えた。



エルンスト「待て!!!…………クソ!!」



エルンストは地面を拳で強く殴りつけた。



「……どうする?モンスタースピードが起こるぞ」



「兎に角、早く戻ってギルドに報告を!」



「モンスタースピードに備えないと……」



エルンスト「…………皆、カラザルに帰還する。ライアンを探したいが、今はモンスタースピードに備える必要がある」



パーティーは魔法陣に入り、カラザルへ帰還した。




ダンジョンが揺れている……………………………


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