第6話 能力の成長と戦力拡大
部屋に集まった二人は、ベッドに腰かけて今後の方針を話し合い始めた。
ソラ「それで、千代。これからどうする?」
千代「代行官の話によれば、賊はおよそ百人。率直に申し上げて、戦力が不足しております」
ソラ「やっぱりそうか……」
それを聞くと、ソラは腕を組んで思案しだす。
千代「戦力を拡大できる方法が見つかればよいのですが……」
現地の人間を雇う、しかし資金が無いため不可能。義勇軍を募るにも、銃火器の扱い方を指導しなければ、安全装置を外した状態で銃口を覗き、そのまま引き金を引くという愚行にでる可能性があるが、その間に賊が移動する可能性もあるため、得策とは言えない。
いくつか案を出し合うが、これといって良い案が出ない。
そうこうしているうちに、夜が更けてきたので一旦お開きにしようとした時、ソラは何者かの声が聞こえた。
〔おめでとうございます。壱、一日目の生存に成功。弐、能力を利用し、敵を殺害。参、活動拠点の確保。これら三つの目標を達成したため、報酬を与えます。また、一日目に達成した目標が三つ以上であるため、追加報酬を与えます。これからの異世界生活にお役立てください〕
ソラ「!?何だ?今の……?」
千代「?どうなさいました?」
どうやら、今の声はソラにしか聞こえていないようである。
ソラ「今……声が聞こえた。報酬がどうのこうの言っていたが……」
ソラ(報酬……?一体どんな……。!まさか!)
自分の能力を確認したソラ。
それは、あることが頭をよぎったからであった。
境界世界にて
愛海「能力?」
白虎〔そ。【オストラント】では『スキル』と呼ばれているものもあるが、それとは別のものだね。例えば、『火魔法Ⅰ』という能力はその名の通り、能力を持っていない人よりもより強く、より効率よく火魔法を使え、より速く火魔法を発動できる。能力は枚挙に暇がないほど多くて、僕でも全てを把握しているわけではないんだ。多種多様な能力があるから、組み合わせ次第では強大な力を持つことだってできるかもね〕
白虎は右手の指を三本立てて言う。
白虎〔ここからが本題。君たちには各々合計三つの能力を選んでもらう。沢山あるから、ゆっくり選んでもらっていいよ。加えて、この能力は「成長する」。君たちだけだけど〕
希道「成長する……?」
愛海「一体どういうことですか?」
白虎〔異世界に行った君たちは各員好きに動いてもらって構わない。そのうえで、幾つかの目標が課せられる〕
「目標……?」
白虎〔どちらかというと、「こうした動きをしたらいいよ」、「普通、これが必要だよね。だから、それを手に入れてね」といったものだけどね。そして、目標を達成した者には報酬が与えられる〕
「まじか!」
「その目標と報酬の内容は一体どんな?」
白虎〔残念ながら、報酬と目標の内容は言えない。言えることがあるとすれば、その報酬は君たちに力を与えてくれるものだということくらい。……ああ、これも言って良いかな。向こうに行って一日目に達成した目標数が三を超えると、より強力な報酬が与えられる。とはいえ、まず一番に生きられるようにするのが最優先だと思うけど〕
白虎は少し考えて
白虎〔……うん。説明すべきことは説明した。それで、君たちには能力を選んでもらい…………〕
ヘフト北東 盗賊の根城となった村
「おい!その肉は俺のだ!取るんじゃねえ!」
「ああ!?知るかそんなこと!俺が食いたいんだ!」
「ああクソ!まだ傷が痛む……」
「俺もだ。膝に矢を受けてしまってな……こりゃ、しばらくは荷物持ちはできねえな。だが、あの狩人、絶対に許さねえ。今度会ったら……」
盗賊の根城となった村には多くの盗賊が居た。しかし、彼らは所詮盗賊。統率もとれておらず、あちこちで喧嘩が絶えない。治療をする者もいないため、負った怪我をそのままにしている賊もいる。
村のどの家よりも大きい建物内の一室で、数人が立って話している。
「さて、次はどうする?」
「ここら一帯の村は、粗方襲っちまった。もう少し遠いところにするか?」
「そうするか。じゃあ、めぼしい村はここから……」
そんな中、扉を開けて、眼帯を掛け、顔にいくつもの切り傷がある男が入ってきた。
?「……………………」
その男は何も言わず、室内に一つしかないが、誰も座っていない椅子に座った。
「ドカダール様、これからどうされます?遠くの村に標的を変えようと思うですが……」
ドカダールと呼ばれた眼帯の男は、重く口を開いた。
ドカダール「……ドミニクがやられた」
「何!?ドミニクがやられた!?」
「そりゃ本当ですかいドカダール様!」
ドカダール「ああ。それに、あいつが連れていた魔法を使うやつもな」
その言葉に、全員が動揺する。
「な!あいつまで……」
「あいつは確かに、接近戦はからっきしだったが、魔法の腕は大したもんだった。あのあいつまで殺されるとは……」
ドカダール「俺らの中でも、ドミニクは腕が立つ。そのドミニクがやられるほどのやつがやられるのはおかしい。それに、発見した奴が言うには、頭に穴が開いていたと……」
その時、建物の外からドーン!という音が何回も響きわたり、同時に叫び声も聞こえてきた。
「なんだ!?攻撃か!」
「だとしたらおかしいぞ!魔法はこんな連発できん!」
ドカダール「何事だ!」
すると、一人の盗賊が慌てて中に入ってきた。
「敵の攻撃だ!だが、どこから攻撃してきているのかわからねえ!」
「クソ!とにかく散らばるように伝えろ!集団でいたら、纏めて吹き飛ばされる!」
「俺は斥候を率いて、周囲の偵察に行く!弓を持っている奴は……」
ドカダール「……クソが。何処のどいつだ?その頭をかち割ってやるから待って……」
ドカダールが拳を自らの太ももに振り下ろすと同時に、ドーン!という音が建物内に響き、建物は崩壊した。
村から少し離れた地点
「いいぞ!砲兵!この調子で撃ち続けろ!偵察兵に伝達!村の様子を確認せよ!」
「了解!…………!偵察より入電!村から数名が離脱!周囲に散らばっているとのこと!」
「そいつらは即座に始末だ!一人たりとも逃がすな!」
ソラ「……頼もしいな、彼らは」
千代「ええ。後は、彼らに任せれば良いでしょう」
ソラたちがいるのは、村から少し離れた地点にある小高い丘。
ここで、戦場の女神がその火を噴いていた。
ソラ「しかし、やはり数は大事だな。二人だけだと、こううまくいかなかっただろうな」
千代「ええ。砲兵や偵察兵、指揮官も呼べたのは大きいです。彼らだけで、依頼は達成できるでしょう」
ソラ「能力が成長してよかったよ」
昨晩、ソラの聞いた謎の声。あれは、白虎の言っていた報酬を知らせる声だった。目標の達成による報酬、一日の達成数が三を超えたことの追加報酬。これは、ソラの能力を成長させた。
『人物召喚Ⅱ改』
成長により、より多く、より豊富な種類の人物を召喚可能である。しかし、未だ制限はある。
『物質召喚Ⅱ改』
上記と同様に、召喚可能な種類や量が増えた。
『能力拡張Ⅱ改』
以前よりも、能力の上昇幅が大きく拡大。
各能力が成長し、より強力になった。それらを用い、戦力を拡大。現在、ソラは砲兵大隊、歩兵大隊などの大隊程度の部隊を率いている。はっきり言って、百人の盗賊相手にはオーバーキルと言っても過言ではない。
「閣下!砲兵隊の砲撃により、敵は慌てふためいています!そろそろ、突入してよいかと!」
師団長がそう進言する。ソラはうなずいて、命令を下す。
ソラ「ああ。あれだけ砲撃したんだ。もう敵は全滅しているだろう。師団長、突入の指示を」
「了解!こちら師団長!全歩兵大隊に命令。村へと突入し、敵を殲滅せよ!」
師団長の合図とともに、歩兵達が村へと突入して敵を殲滅。百人ほどいた盗賊は全滅した。
代行官「これが報酬だ。受け取ってくれ」
師団はあのまま村で待機させて、帰還した二人は代行官へ征伐完了を報告し、報酬を受け取っていた。
代行官「これから、君たちはどうする?私としてはこのまま、町にいてもらいたいのだが……」
ソラ「……申し出はうれしいのですが、我々は別の場所へ向かおうかと。世界を見て回りたいと思っていますので」
その言葉を聞いた代行官は、肩を落とした様子だった。
代行官「……そうか、それは残念だ。二人はこれから、どこへ行こうと考えているんだ?」
ソラ「まだ決まっていません。あちこちを回ろうかと」
代行官「そうか……なら、北を目指すといい。ここから北に、道に従っていくつかの町を越えると海にたどり着く。そこから港を使えば、より遠くまで行けるだろう」
ソラ「……!そうですか!教えてくださりありがとうございます」
代行官「気にするな。ただの餞別だ。では、またな。二人とも」
ソラ「ええ。あなたもお元気で」
行政府から村へと帰ったソラたちは、部隊に移動準備をするよう命じた。
千代「しかし、あのまま離れてよかったのですか?拠点とするには良い場所でしたが……」
ソラ「確かにそれは考えた。だが…………」
ソラは後ろを振り向き、移動の準備をしている部下たちを見た。
ソラ「どう考えても悪目立ちする。領主が居なかったから良かったが、あのまま居て領主が帰ってきたら面倒が起こりそうだったからな」
千代「……確かにそうですね。見知らぬ兵器ではあるが、圧倒的な火力を誇っている。加えて閣下の能力があります。これを利用すれば大部隊を編制、維持は可能でしょう。領主は確実に利用してこようとするでしょうね」
ソラ「ああ。…………とはいえ、この先北上を続ける中で、そういった面倒ごとは起こりうるだろうが」
「閣下!部隊の移動準備が完了しました!いつでも行動できます」
二人が話していると、師団長が準備完了を告げた。
ソラ「そうか。では、これより移動を開始する!」
ソラたちは召喚したトラックに乗り、一路北を目指し移動を開始した。
ヴァルマイヤート大陸最北部 マナワル共和国 港町ホラート
ヴァルマイヤート大陸の最北部に位置する国、マナワル共和国。さらに、この国の北部に港町ホラートは存在している。ここでは近年、ダンジョンが発見されたことにより、ダンジョン攻略、魔物討伐などを生業とする何でも屋、通称冒険者の流入が続いて好況となっていた。
「すまない。このショートソードはどれくらいだ?」
「これなら、一万デナールだな」
「かー!やっぱ高いな!ただ、見た限りいい武器なんだよな~」
「はいはい!この回復ポーションは今、千五百デナールのところ千デナールだよ!」
「近くに俺が泊まってる宿があるから、そこに案内するよ。あそこの飯は美味いからお気に入りでさ」
冒険者は武器、防具、消耗品、さらには食料なども消費するため、大きくなった市場に展開する店も多くなり、これが更に人を呼ぶようになっていた。
しかし、弊害も勿論ある。
「おい!どこ見て歩いてやがる!」
「す、すみません……」
「ああ!?聞こえねえなあ!誠意が見られねえが!」
冒険者の中には横暴な者もおり、そういった輩が治安を悪化させる原因の一つとなっていた。
しかし、そういった者たちは
「おい!何をしている!」
「町の中で問題を起こすな!」
「おい!掴むんじゃねえ!」
「一旦詰所に来い!」
巡回を行う衛兵たちに止められて詰所に連れていかれる、こういった光景が日常茶飯事であった。
そういった冒険者を纏め上げるために創設された組織、それが『冒険者ギルド』である。
この冒険者ギルドは、その創設過程は伝説となって語り継がれるほど昔に作られた。
ギルドは大陸各地に支部を設置、冒険者は冒険者ギルドに入ることにより冒険者カードを発行、入手することで、仕事の斡旋や情報の入手等の支援を冒険者ギルドから受ける。
また、酒を飲める酒場や冒険者同士で情報交換や勧誘を行う場を設けてもいた。
代わりに、ギルドの法『ギルド大綱』や各国の法を破ったものには冒険者カードを没収、協力の停止といった罰則を設けることで、冒険者が違法行為をしないようにしていた。
そしてこの町ホラートの冒険者ギルドでは、ある一つの噂が広まっていた。
「おいおい、聞いたか?あのカラザルの話」
「ああ。なんでも、ダンジョン崩壊が起こったらしいな」
「それもあるが、一番は、やはりあれだ。黒衣を纏った軍団だ」
「あれか。聞いた話じゃ、でかい音を出し、謎の金属の武器を使って攻撃する、黒い服を着た集団だって……」
『ダンジョン崩壊』。文字通り、ダンジョンが核となる魔物を倒された際に崩壊することである。この崩壊はダンジョンの下層から始まり、最終的は全てが消えてなくなる。しかし、ダンジョンの消滅を感じ取った魔物たちが突如として地上を目指し始め、魔物の大氾濫『モンスタースピード』が発生し、ダンジョン内にいる魔物たちが一斉に地上へと出現する。その数はダンジョンの大きさに比例すると言われる。
マナワル共和国南部に位置する大都市カラザルは、大きなダンジョンがあったことで有名だった。しかし、そのダンジョンが攻略されたことで大氾濫が発生した。
カラザルはもはやこれまで、と思われたが、謎の軍団が助力。その甲斐もあり、無事に鎮圧に成功したらしい。だが、こういった噂が広まれば当然……
「謎の軍団、こいつが一体何なのか……」
「そいつらの持つ武器を手に入れられたら、魔物討伐に加え、ダンジョン攻略が楽になるんだが……」
「まあ、俺らが考えてもしょうがないか!」
?「……謎の軍団か……」
?「影によると、この町に向かってるようです」
その軍団に興味を示す者も一定数いる。そういった者たちは、ホラートに向かっている軍団の様子を注意深く観察している。
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