第5話

盗賊たちを殲滅したソラ、千代の二人は、周囲の安全を確保及び応急処置をした後、救出した村人から情報を聞き出すことにした。



千代「やはり、盗賊の類でしたか。殲滅して正解でしたね」



ソラ「ああ。それでダミアンさん、亡骸はどうします?そのままにしておくのはまずいと思いますが……」



そういって、ソラは村民と盗賊の骸を指さした。



ダミアン「……本来であれば、埋葬してあげたいところではありますが……何しろこんな状況ですので、埋葬する余裕は……うぐ!傷が痛むな……」



ダミアンは、脇腹を抑えながら傷の痛みに顔をしかめる。



千代「安静にしておいてください。包帯を巻いた程度の応急処置にすぎませんので、傷が開くかもしれません」



ダミアン「はい、わかりました」



ソラ「ダミアンさん、これからどうするのですか?」



ダミアン「……ここから少し東へ行ったところに、周辺の村を管轄する町ヘフトがございます。村の女子供はそちらに避難させました。ここで待っていても仕方がありませんので、その町へと向かおうかと。あなた方は?」



すると、千代はソラのほうを見て頷いた。



ソラ「!わかった。私たちもそちらへ向かおうかと思います。あなた方の護衛もできるでしょうし」



「おお……!ありがたい!」



ダミアン「助かります!ここら一帯では、稀に魔物が襲撃してくることがあります。守ってくださるとは、なんとありがたいことか」



それを聞いた村の人たちは喜んでいる。


ハルカヌ村は穏やかな場所ではあるが、地球と同じく凶暴な生物が近くに生息していることがある。そういった生物は、往々にして驚異的な力を持っていることが多く、たとえ弱いものでも、訓練されていない人が戦うと死亡する事例が多々発生していた。



ソラ「では、そのヘフトという町へと向かいましょう」



少しばかり休んで、準備を整えた一行はヘフトの町へと向かった。






その上を、二匹の烏が飛んでいる。そこに数匹の烏が合流し、十羽の烏の群れとなって東へと向かっている。













ソラ「……ん?あれは……壁か?」



ダミアン「!あれです!あれが、ヘフトの町です!」



何事もなく町へ到着した一行。日が傾き、あと一刻ほどで夕方になろうとしていた頃のことだ。



町の入り口と思しき門へ向かうと、そこには武装した衛兵がたむろして話をしていた。


一行に気づいたのか、複数名いる衛兵の中の内の一人に止められた。



「……ん?誰だ!止まれ!何用だ?」



ダミアン「ここは私に。……私は、ハルカヌ村の村長であるダミアンと言います。盗賊に襲われたため、こちらに避難してきました」



そういうと同時に、懐から印を取り出して衛兵に渡して確認した。



「……ふむ、本物だな。……それで、後ろの二人は誰だ?」



そういって、その衛兵は訝しげに二人を眺める。ほかの衛兵も、雑談をしながらではあるが、二人の様子を伺っている。



ダミアン「彼らは、盗賊を撃退し我々を助けてくれた方たちです。決して、怪しい者たちではありません」



ダミアンの言葉に、周辺の衛兵は雑談に集中し始めた。



「!そうか……まあ良い。では、ここに避難してきたハルカヌ村の者たちのところに案内する。お前!村人たちのところへ案内しろ」



その衛兵は、近くにいた若い衛兵へと振り返ってそう命令した。



「は!了解!こっちです」



若い衛兵についていこうとすると、



「ああそれと、そこの黒服の二人は私についてきてくれ。あそこにある、町の行政府まで来てほしい」



早老の衛兵が止めた。その衛兵は、行政府の方向を指さしながらそう言う。


指さした先には、大きな石造りの建物があった。おそらく、あれが行政府なのだろう。



ソラ「わかりました」



ダミアンたちはソラ達のほうを見た。



ダミアン「ここまで、どうもありがとうございました」



「ありがとな、二人とも」



「助かったよ」



村人たちが頭を下げる。



ソラ「いえいえ、お気になさらず。それでは」



二人は彼らに背を向け、衛兵へとついていき、行政府へと向かった。









「ここが行政府だ。生憎、現在領主様はいらっしゃられないため、代行官様が対応する」



石壁に囲われた町の中には、さらにまた石壁があり、その内壁に囲われた建物群がある。



建物群の中心には大きな建造物が立っている。ここが町の行政府であり、この一帯を統治する領主の館ともなっている。



「こっちだ」



衛兵の後ろをついていき、アーチ状の門を潜った。



衛兵にしたがっていると、行政府の入り口前で止まった。



その衛兵は、入り口にいた衛兵へ話しかけた。



「すまない。代行官様は、現在どこに?」



「代行官様なら、中の執務室で執務にあたっておられる。何か用か?」



「盗賊に襲撃されたハルカヌ村の村人と村長が来た。加えて、後ろの二人が盗賊を撃退し村長らを救ったらしい。それで、代行官様に御報告をとな」



「なんと!君たちがか!見る限り若いのに、大したもんだ」



二人は何も言わずに頭を下げた。



「わかった。では、代行官様へ報告を頼む」




「ああ。中に入れ」



言われた通りに中に入り、衛兵の後についていった。



階段を上って二階へと上がり、奥の部屋に着くと、衛兵は扉をたたいた。



「代行官様、ハルカヌ村について報告が」



「入れ」



部屋の中から返事が聞こえ、衛兵が扉を開けた。



部屋の中は多くの本棚で埋め尽くされており、真ん中には接客用と思われる机と長椅子が置かれていた。その奥には、机に座ってペンを走らせる男がいる。



この男が代行官である。現在、領主は留守にしており、彼が政務を執っている。彼は視線を紙に向けてペンを走らせながら衛兵に問うた。



代行官「ハルカヌ村か。確か、盗賊に襲われたと聞いたが、何かあったのか?」



「はい。先ほど、件の村より村長及び数名の村人が避難してきました」



代行官「……ん?襲撃を受けた時刻から、些か時が経っているようだが……まさか上手く盗賊どもを撒けたのか?」



「いえ。それが、この二人が撃退したとのこと」



代行官「何!?」



衛兵の言葉に、代行官は視線を上げてソラたちを見たと同時に、驚いた表情をした。



代行官「…………君たち二人か?」



「はい」



二人は声を揃えて答えた。



代行官「存外に若いな……わかった。報告ご苦労。仕事に戻れ」



「了解!失礼しました」



衛兵が部屋から立ち去った。



代行官「さて、そんなところに立っているのもなんだ。その椅子に座り給え」



二人が椅子に座ると同時に、代行官はベルを鳴らした。



代行官「茶の一杯も無く申し訳ない。家の者に、今用意させている」



ペンを置き、立ち上がった代行官は本棚から一冊の本を取り出して二人の対面に座ると、その本を開いて読みだした。



代行官「ハルカヌ村は…………あった、ここか。それで?君たちが盗賊を倒したと?」



ソラは千代を見た。千代は頷き、返事をした。



千代「はい」



代行官「ふむ。では、襲撃について詳しく聞きたい。知っている情報は何でもいいから話してくれ」



代行官は見ていた本を傍に置き、懐から小さな本とペンを取り出した。



千代「わかりました。まず、盗賊の人数についてですが…………」














ヴァルマイヤート大陸 ラタイム・ミナンバト国境付近 マエラス 行政府






「一体どうするのだ!!このままでは負けてしまうぞ!!」



「そうは言っても、何か策はあるのか!!!」



「あるわけないだろう!!ハルトマー平原での戦いで、口にするのも憚られるほどの大敗北を喫したせいで、多くの将兵を失ってしまった。その補充をしようにも、動員が遅々として進んでおらん!加えて、兵糧も乏しい。とれる策など限られておるわ!」



「くそ!ミナンバトの奴らめ!町の食料を焼き払いおって。食料が全く得れなんだ」



「だから、儂はこの侵攻には反対だったのだ!ただでさえ食料が乏しいのだぞ!あの王立騎士団は、我らよりも練度や装備が段違いだ!実際、奴らに我が軍は蹴散らされた。元から勝機などないというのに……」



占領したマエラスの行政府にて、何名かのラタイム王国の軍人が会議をしていた。しかしその会議は、ひどく紛糾していた。



?「現状を嘆いていても仕方あるまい」



軍人の中で、ある一人が口を開いた。



?「今とれる策を模索し、実行するしかあるまい。取り急ぎ、負傷した将兵の治療に専念するように。食料に関しては、周辺の村から略奪せよ。何としてでも兵糧は手に入れるのだ。……それと、無能な総司令官殿は作戦失敗の責任を問われ後方に送られた。代わりに、これからは私が指揮を執る。この戦争に勝つため、君たちには一層奮起してほしい」



「わかった」



「やるしかあるまい」



?「では、各自の軍に戻り再編を頼む。会議は、これで閉幕だ」



そういうと、軍人は一人を除いて全員部屋から出て行った。



?「…………この戦争、勝利できるだろうか?…………いや、「勝つ」のではなく、「負けない」ことを目指すべきか…………一万の兵を失ったのは、あまりにでかいな……」















千代「……我々から提供できる情報はこれくらいでしょうか」



代行官「ああ、情報提供に感謝する」



千代「……こちらからも質問をしても?」



代行官「ん?別に構わんぞ?答えられないこともあるが」



千代は、一寸ばかり逡巡して質問した。



千代「……では質問いたしますが、何故兵が盗賊征討に動かないので?此処に来てから思っていたことですが、盗賊の襲撃があったにも関わらず軍が動いていないような……」



すると、代行官は首を傾げた。



代行官「……?君たちは我が国の状況について見聞きしたことはないのか?」



千代「はい。何しろ、私たちは遠くの田舎から来たばかりでして」



代行官「…………そうか」



代行官は千代の言葉に眉をひそめたかと思うと、直ぐに表情を元に戻した。



代行官「では、我が国の置かれている状況について説明しよう」



代行官は、ソラたちに説明をした。それを要約すると以下の五つ。





一つ。この国ミナンバト王国は、数か月前から東方の隣国であるラタイム王国と戦争状態に入っていること。



二つ。奇襲攻撃を受け、ここヘフトからそう遠くない南東の町であるマエラス、その少し東にあるヤファーズ城が陥落。マエラスの住民が周辺へと避難したが、戦乱が原因で周辺の治安が悪化して賊が跋扈するようになってしまったこと。



三つ。マエラスの南西に広がる平原のハルトマー平原での戦いで勝利したミナンバト王国は、軍の再編を完了させるとすぐさま反攻に転じた。


しかし、新たに総司令官に就任したラタイム王国侯爵アーベル・エレライト・フォン・ラーハデルの指揮により、苦戦を強いられていること。



四つ。戦争の長期化により、兵糧確保のためにラタイム王国が略奪を繰り返すようになり、治安悪化に拍車をかけていること。



五つ。ミナンバト王国は、増加する負傷兵の補充を行うためと戦力確保のため、周辺の兵を最低限残して動員していること。



代行官は、盗賊による襲撃に頭を悩ませていると独りごちた。



代行官「盗賊どもを征伐しようにも、こちらには僅かな衛兵しかなく、それらも見張りや巡回で動かすことができん。どうにもならん状況なのだ」



千代「……成程、状況は把握しました」



ソラ(道理で、ハルカヌ村からこの町に向かうときに村へと向かう兵たちに合わなかったわけだ)



代行官「そこでだ。賊をたった二人で征伐した君たちに頼みがある」



代行官はそういうと、そばに置いていた本を取って開き、二人に見せた。



そこには、周辺の地理が描かれており、代行官は「ヘフト」と書かれた所から、少し離れた北東のある村を指さした。



代行官「この村は、戦争が始まって数週間後に賊の襲撃にあった村だ。それ以来、その賊たちが根城としている。報告によれば、ここを拠点に周辺の村を襲っており、大体百人ほどが集まっているらしい。君たちに頼みたいことは、ここの盗賊を一掃してほしい。生死は問わん。一掃はできなくても、ある程度の打撃を与えてほしい。奴らの頭を討つも良し。毒を盛るも良し。兎に角、一団が好き勝手に動き回るのを抑えることさえ出来れば良い。勿論、ハルカヌ村の件も併せて報酬は出そう」



千代はソラを見た。



ソラ(盗賊退治か……ここで生きていくには資金がいる。それに、味方は増やしておいて損はないか。………………よし)



ソラは、千代が何もしないのを確認すると、口を開いた。



ソラ「……わかりました。依頼を受けましょう」



代行官「おお!ありがたい!では、明日村へと向かってほしい。それと、今晩はここで泊まっていってもらって構わない。部屋は、家の者に案内させるのでその部屋で寝てくれ。君たちの食事もこちらで用意する。」



ソラ「ありがとうございます」



二人は用意された食事を食べた後、今後について話し合うためソラの部屋へと向かった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る