第4話 初弾
ソラ「………………ん?」
意識がはっきりしてくると共に、草の匂い、風に靡く木の葉の音、自然を感じた。
ソラ「ここは……?」
目覚めたソラは、体を起こして周囲を見渡す。どうやら広い草原の、小高い丘にいるようだ。
太陽は目線と同じほどの高さにある。
しばし景色を眺めた後、能力の確認を始めた。
ソラ「さて、どうするかな……まずは、能力の確認をするか」
そういって、白虎が言っていたようにする。すると、目の前に文字の書いてあるディスプレイが出現した。
ソラの選んだ能力は以下の三つである。
『人材召喚Ⅰ』
これは読んで字の如く、人物を召喚するものである。歴史上存在していた有名な人物からただの農民まで召喚することができる。しかし、現在は召喚可能人数及び種類に制限があり、限られた者しか呼び出せない。
加えて、召喚した人物は死亡した時を除き、消すことはできない。
能力が発達すると、召喚可能な人物及びその数が増大する。
『物質召喚Ⅰ』
上記と同様。相違点は、召喚対象が人から物へと変わっていることだ。石油、鉄等の資源から武器・防具、果てには施設まで召喚可能。『人材召喚Ⅰ』と違い、任意な時に消去可能。召喚可能なものは基本全て。ただし、総重量には制限があり、その重量以上の召喚はできない。
例えば、十トンが制限だった場合。五トンのものを召喚した後、四トンのものの召喚は可能だが、六トンのものを召喚すると合計十一トンになるため、召喚不可。
能力の発達により、召喚可能な種類は増え、制限は緩和される。
『能力拡張Ⅰ』
現在自分の保有する能力を強化する。この能力が発達すると、制限の緩和量、能力の上昇量などがより強化される。
なお、能力はⅠ→Ⅰ改→Ⅱ→Ⅱ改→Ⅲ……のように発達していく。
ディスプレイには能力の使用方法が記載されている。
それに従って、『物質召喚Ⅰ』を使い銃を召喚させる。
ソラ「良し。ちゃんと発動したな。これが銃か……実物を持つのは初めてだな」
とある第一次大戦前型小銃を召喚させると、
ソラ「さて次に弾薬だな。普通の弾はどれだ?……これしかないから此奴がそれか?」
更に弾薬を召喚し、早速銃を使おうとする。ここで、ソラはふと気付く。
ソラ「……弾の装填ってどうしたらいいんだ?」
ソラは二十一世紀に生きる高校生である。銃に実際に触れたこともなく、どうすればよいかわからない。そこで、ソラは……
バン!カチャカチャ……バン!カチャカチャ……バン!
?「……最初と比べ、動きが滑らかになりましたね」
ソラ「ああ、銃を撃つのにも慣れてきたよ。まあ、まだ生物に向けて撃ったことはないからなあ。実戦で撃った経験は得ておきたい。なんにせよ助かった。千代
千代「私は閣下の部下ですので、閣下のご命令を果たすだけです」
『人材召喚Ⅰ』を発動させて部下を召喚した。彼女の名は千代。ディスプレイには、なぜか固有名詞で表示されており、召喚してみるとなぜか黒い軍服に身を包んでいる。艶やかな長い黒髪をたなびかせ、瀟洒という言葉が即する美人である。
ソラは、千代から銃の撃ち方、装填方法などを大方教わり、ぎこちない乍らも、銃を撃てるようにはなった頃、そろそろ動くべきだと判断した千代がソラへ話しかける。
千代「閣下、これからどうされるおつもりで?」
ソラ「う~ん……どうするか……」
ソラは遠く右方に見える道のようなものを見て、それを指さして言った。
ソラ「……千代、右方に見えるあれ。道だと思うか?」
千代「はい。筋のように草のない場所が続いているところを見ると。荒くはありますが……」
ソラ「なら、あの道を歩いていこう。道があるってことは、人の往来があるとみていい。道なりに行けば、人の住む町や村につくはず」
千代「了解」
二人は道に向かって歩き出した。
ソラ(……他の皆はいない、か。リリーはうまくやっているだろうか……)
ソラは【境界世界】でのことを思い出していた。
境界世界にて
白虎〔ああそれと、向こうに行くときなんだけど、行き先を選ぶことはできないし、誰かと一緒に行くこともできないからね。友人と会えるのも、ここで最後になる可能性があるから〕
そう言うと、生徒たちに動揺が広がる。
「……は?まじかよ……」
「もう会えない可能性があるって……」
「え!嫌だよ!もう会えないって!」
希道「そこをどうにかできませんか?場所を選べなくてもいいので、行きたい人と一緒に行くようには……」
白虎は帽子を深くかぶり、ふっと息を吐くと
白虎〔…………無理だね。そこまでの権限は、僕には残念ながら与えられていない。そもそもの話、僕に与えられた任務は、君たちに【オストラント】や能力などといったことに関する説明、それから君たちを転送、この二つ。それ以上はどうにもできない〕
その言葉に、生徒らは落胆する。
「……そんな……」
百合「じゃ、じゃあソラとは……」
ソラ「……ここでお別れってことか?」
百合「そんなのやだよ……」
気を落としている生徒らを見ていた白虎は、少し逡巡した後、
白虎〔……ま、そんな気を落とすことはない。向こうでやれる方法は、あるにはある〕
と言う。すると、生徒らは
「!!本当か!!」
「なら、また会うことも……!」
希望が降って湧いたと喜ぶ。
愛海「その方法とは……?」
白虎〔そこから先は答えられないから、自分たちで見つけることだね。方法に関してはいくつもあるから、見つけることはそう難しいことではないと思うよ〕
千代「閣下、あれを」
道を歩き続けて数刻、日が頭の上にきた頃、左右に森が広がる中で道を歩いていると、千代が左方の森の中から、いくつか煙が上がっていることに気づいた。
ソラ「ん?……あれは……黒煙?」
千代「……この気候からすると自然発火の可能性は低い。とすれば、人為的な発火か、戦による煙か。あの煙の下には人がいる可能性があります。閣下、どうなさいますか?」
須臾ほど考えた後、
ソラ「行ってみよう。なにしろ、今は情報が必要だ。ただ、もし人がいた場合、接触は見てから考える。あれが盗賊の類によるものだとしたら戦闘になるかもしれない」
そう決断を下した。
千代「了解しました」
二人は、煙の下へと向かった。
【オストラント】極東 ヴァルマイヤート大陸北部 ミナンバト王国北部 ハルカヌ村
「急げ急げ!女と子供は逃げろ!男は武器を持て!何でもいい、鍬でもハンマーでも、武器になるものを持って広場に集まれ!……さ、行こう」
「おい!なにをしてるんだ!早く行くぞ!」
「わかってる!……いいかい、後ろを振り返ってはいけないよ?お母さんの言うことをよく聞いて、いい子にするんだぞ?」
「お父さんは?」
「……俺は……ちょっと仕事に行ってくる。……エメ、アメリーを頼んだ。」
「うん。待ってるから……」
「こっちだ!奴らが来るぞ!」
「絶対に生き残るぞ、アーデム」
「おう、お前もなクラウス」
石造りの壁に緩やかな屋根、小さな窓がいくつかある家が何軒も立ち並んでいるハルカヌ村。
この村は、左右と背後を森に囲まれており、整備されていないものの、正面入り口にあたるところからは道が続いている。
豊かな自然に囲まれ、穏やかな気候の元、平和な暮らしを謳歌してきたハルカヌ村は、物々しい雰囲気に包まれていた。
男たちは武器を持って、背後の森側にある広場に集まり、顔と体をこわばらせながら、何かを待っている。老人や女性、子供は、村の正面から集団で逃げ出している。
少し時がたち、避難が完了した頃に、男たちが見つめる遙か先に人の姿が見えた。男たちは武器を構える。十分ほどで、森の中から剣や弓を持った三十名程の男たちが現れた。彼らは酷く汚れた服を着ており、黄ばんだ歯を見せながら不気味に笑っている。
彼らは、村人たちの敵意をものともせずに
「おいおい、なんだこれは?何か物騒じゃないか?」
「鍬やらもってどうしたんだ?……まさか、俺たちに逆らおうってのか?」
「ははは!そんな馬鹿な!」
おどけた様子で笑っている。
すると、汚らしい男たちの中から一人、大きな斧を持つ大男が前に歩み出て大声をあげた。
?「おい!村長のダミアンはどこだ!」
大男が声を上げると、
ダミアン「ここだ」
という声とともに、村民の中から老人が一人出てきた。
?「さて村長、先日の提案の返事を聞こうか?」
ニヤリと笑いながら、老人を睨みつける。
老人は、少しおびえながらも
ダミアン「……断る!」
力強く答える。
それを聞いたドミニクの顔から笑みが消える。
ドミニク「ほお?断ると?いいのか?このドミニク様に逆らって?」
ダミアン「……食料と女を全て明け渡せば、安全を保障する。しかし、断れば皆殺し。こんな提案、吞めるわけがなかろう。今の今まで、貴様らを恐れて従っていた。だが、今回ばかりは我慢ならん!」
顔を真っ赤にしながら、ドミニクを睨みつける。
ドミニク「そうか……おい、やれ」
そういうと、ドミニクは後ろにいる、ローブを纏った細い男を見た。
「はいはい。お任せ下せえ、お頭」
その男が両手を前に出した途端、火の玉が出現した。
ダミアン「なに!?魔法だと!」
「『火魔法』の『ファイアボール』だ!散らばれ!」
村人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げると
「…………よし、行け!」
細い男の手の前にある火の玉が正面に向かって飛んでいき、ドーン!という大きな音と衝撃を発生させた。
ドミニク「さあ野郎ども!祭りの時間だ!かかれーー!」
ダミアン「全員!何としてでも生き残り、村を守るぞ!」
ソラ「はっ……はっ……森を進むのは、案外疲れるな……ん?あれは……」
千代「建物ですね。いくつかあるのを見るに、恐らく村かと」
森の中の黒煙に向かって走っていた二人は、燃え盛る建物がいくつかあるのを見つけ、そこで立ち止まった。
千代「ここから先は慎重に行きましょう。建物が燃えているということは、野盗か野伏せりの類、若しくは正規軍が襲撃中かもしれません」
ソラ「ああ、わかった」
屈んでゆっくりと村に近づき、建物の影に隠れて村の様子を伺うと、そこには
ソラ「これは…………ひどい……」
千代「……鍬やハンマーが近くに落ちているのを見るに村人でしょうか。……あそこで倒れている汚れた服装をしているのは、恐らくこの村を襲撃した盗賊、かと」
何人もの、村人と思しき人たちが血を流して倒れていた。その近くには盗賊と考えられる人が、これまた血を流して物言わぬ骸となっていた。
千代「閣下、どうなさいますか?周囲の安全を確保したほうが良いと思いますが」
ソラ「……村の中心にむかう。盗賊や生存者がいるかもしれないから慎重に」
そういって慎重に村の中に入っていき、中心へと歩いていく。その途中にも、幾人の村人や盗賊の骸が倒れている。
数分歩いていると、とある家が目に入ってきた。
ソラ「……ん?これは……」
千代「どうなさいました?」
ソラ「この家……おかしいぞ。まるで、爆弾が直撃したみたいな壊れ方をしてる」
千代「……確かに。一部分が欠損しています。ここだけ燃え尽きたとは考えにくいですね」
不可解な、屋根の一部分に穴が開いた家に釘付けになっていると、声が聞こえた。
ソラ「……ん?向こうから声が聞こえる。あっちに行こう」
二人はその声の聞こえる方へと向かった。するとそこには…………
ドミニク「まったく、手を焼かせやがって。なあ、村長さんよお?」
ダミアン「う……うぐっ……」
「くそが……貴様らにくれてやるものなど……何もないっ……」
「うるせえぞ!黙ってろ!」
ドミニク「さて、この様子じゃ食い物は燃えちまってるな……おい、女子供はどこだ?見当たらねえぞ?」
ダミアン「ふん……誰が言うか」
数名の傷ついた村人たちが、広場の一か所に集められ、その周囲を七名ほどの盗賊が取り囲んでいた。
二人は燃えた家から覗くように様子を伺う。
ソラ「襲撃者は盗賊だったみたいだな。武装は剣に弓、やれないことはない、が……」
千代「注意すべきは、あの大きな斧を持った大男ですね。他の盗賊と比較して強さが明らかに違います。しかし、彼以上に注意すべきは隣にいる細い体の男。彼だけ武器らしき物を持っていません」
ソラ「ああ、他の奴らは武器を持っているのにも関わらず、あいつだけ持っていないのはおかしい。……どうする?千代。俺は村人側で参戦しようと思うが」
千代「それが良さそうです。情報を得るにも、盗賊だと攻撃してくるかもしれません」
ソラ「良し。じゃあ、どうする?周りの奴から片づけるか?」
千代「……いえ、やはり大男と細い男から片づけましょう。大男はともかく、細身の男からは嫌な予感がします。危険は早めに取り除くべきです」
ソラ「同感。俺は大男を片づける。千代は細い男を」
千代「了解」
銃を構え、照準を目標に合わせ、引き金を引く。
バン!という音と共に、大男と細い体の男の頭には赤い花が咲く。そして、二人の男は地面に倒れ伏した。
「な、なんだ!?何が……」
「敵襲だ!敵襲!」
首領が一瞬にして殺されて動揺し、統率を失った盗賊たちはただ慌てふためいている。
千代「私は左側を」
ソラ「じゃあ右を」
次々と鳴る音と共に、盗賊たちは次々と倒れていった。
千代「……全員片付きました。閣下、腕がいいですね。一発で頭に当てるとは」
ソラ「……ああ」
ソラ(……初めて人を殺した。なのに、何も感じない、か……)
千代「とりあえず、彼等から話を聞きましょう。此処がどこか、聞けるとよいのですが……」
ヴァルマイヤート大陸 ミナンバト王国中央 王都レムール 宮廷
宮廷のある一室、円状になった机がある部屋で複数名が会議をしていた。
?「何とか防衛には成功したか」
老齢の、冠を被り煌びやかな服を着る男性。
この男性がミナンバト王国の国王、ディートハルト・バルラー・ミナンバト。通称ディートハルト二世である。
腕組みをし、机上にある地図を見ながらそう言った彼に続き、二人の男が口を開く。
?「はい。王立騎士団の活躍により、ラタイム王国の攻撃を防ぎ切りました」
?「あのラタイムの奴らめ!いきなり宣戦布告してくるとは……くそが!」
拳を机に振り下ろし、ガン!と音を立てた、国王の左方に座る男性は、
この国の軍務卿、ディルク・マリャヌ・フォン・ゼタ。
筋骨隆々の若い男性であり、気性が荒いことで知られている。
そして、国王の右方に座り国王の言葉に返事をした若い男性、
彼は宰相、エーベルハルト・ハスヤイト・フォン・マーズ。
エーベルハルト「……近いうちに侵攻があると考えていましたが、よもやこんな早くとは……」
ディルク「前線のヤファーズ城、その後方の街マエラスも陥落した。何とかハルトマー平原での野戦で勝利したから良かったものの、現状の戦力だけで奪還するのは、ちと不安がある」
?「それだけではありません」
ディルクの左に座る、眼鏡を掛けた男性が口を開いた。
彼は外務卿、エドウィン・ラムサー・フォン・ヤエラート。
エドウィン「今回の侵攻と共に、ラタイム王国の同盟国であるミラワ王国の軍が不穏な動きを見せています。もし共同して侵攻してくるなら……」
ディートハルト二世「敗北は必至、か……」
エドウィンの言葉に、顔を曇らせる国王を見て、
ディルク「現在交戦状態となってるのはラタイム王国だけだ。敵が奴だけとなっている今なら勝てるかもしれん。かの国の軍は所詮烏合の衆、正面からぶつかれば余裕で勝てる」
ディルクがそう言ったと同時に、エーベルハルトが後押しする。
エーベルハルト「短期決戦に持ち込むのが良いでしょう。マエラスの住民が避難した結果、周辺の村での治安が悪化し、盗賊による被害が増えているとの報告が上がっておりますので、それの対処もする必要があります」
重臣からの言葉に決心がついたのか、
ディートハルト二世「……わかった。ラタイム王国の奴らに鉄槌を下す!諸侯の軍と王立騎士団は、反攻を行う準備をするよう伝達!軍務省は、反攻作戦の立案をせよ。盗賊どもは、ことが片付いた後だ」
そういって、会議は終了した。
部屋から出ていく人たちを、窓の近くに止まった二匹の烏が硝子越しに様子を伺っている。
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