第2話

突如として現れた、空中に浮遊する白虎と名乗る少年。彼は緩やかに地面へ降り、未だ唖然としている生徒らを見渡す。



一体何が目的なのだろうか。生徒を一人一人値踏みするように、とっくり眺めては、首を傾げたり、口元を歪めている。



数分間そうした後、一通り眺め終わったのだろう、彼は口を開いた。



白虎〔さて、では早速だが、案内をしようか〕



彼は踵を返して歩き出そうとする。それに待ったをかける者が一人。



?「ちょっと待ってください」



低く落ち着いた声と共に、端正な顔立ちをした好青年が前に出てきた。白虎は動きを止め、歩み出た青年を見つめる。



白虎〔ん?何だい?〕



青年は答える。



希道「私は藤原希道〈きどう〉。現在、生徒会長を務めている者です。」



白虎をしっかと見つめて言う彼。


一間ほどある身長の約六割ほどを占める足、袖から出ている腕には血管が少し浮き出ており、雄偉な体格だということが服の上からでも推測できる体躯。


力強く、狐のような目尻、情調に合う、前髪を後ろへと流して額を晒す髪型。



希道と名乗る青年は、押しも押されもせぬ佇まいでいる。



生徒らは、畏敬と思慕のまなざしで彼を見る。



「さすが生徒会長。あんな堂々としていられるなんて…」



「こんな状況でも冷静にいられるってでマジすげえ…」



「かっこいいなぁ……」



百合「生徒会長様様だね。藤原くんが冷静なおかげで、皆の混乱も収まってる」



百合も、希道を同趣のまなざしで見ている。



彼は白虎に対して、こう言った。



希道「いきなりこんな訳のわからないところに飛ばされて、はい案内しますと言われても困ります。なにかしらの説明をしてもらいたいのですが……」



希道の言葉に、ソラは眉を顰める。



ソラ(……少なからず混乱はしているな。白虎という少年が言った<あの言葉>は、率直に言って人の口から出る代物じゃない。……恐らく、選民思想ないしレイシズム……それに近しい何かを持っているのだろう)



ソラは白虎を見る。今までは歪んでいた口元は、今は真一文字だ。



白虎〔…………あ~確かに、いきなり言われても困る、か。わかった、取り敢えず少し時間をあげよう」



希道「ありがとうございます。皆!向こうに集まってくれ!」



そう言って希道は振り返り、白虎と離れたところを指さしてそこに向かって歩き出した。生徒たちはそこに向かい集合した。



希道「とりあえず、皆がいるかどうかを確認したい。学級委員の人はクラスの人が全員いるかどうか確かめてくれ」



「わかった。みんないるか!番号順に並んでくれ!」



「〇組!こっちに集まって!」



「〇〇!こっちだこっち!」



百合「みんなのところに行こ?」



ソラ「ああ」








確認が終わり、現状確認に移った。生徒らはクラスごとに集まって座っている。



希道「成程、休んでいた人や先生を除き、全クラス全員が揃っている。ここに飛ばされた経緯も一緒か………木原さん、これからどうする?」



そういって希道は、副生徒会長である木原愛海〈きのはら まなみ〉に質問した。



彼女は意思の硬さが如実に表れたとも言える目を生徒らに向け、そして希道へと向け



愛海「ん~……確認すべきことは確認したし、皆も落ち着きを取り戻した。……あの白虎という人にいくつか質問してみる?」



そう言った。離れた所で、存在しなかったはずの椅子に座ってカップの中の飲み物を飲んでいる白虎へと、希道は視線を向けて言う。



希道「他に選択肢もないし、そうしようか」



ソラ(それが現実的だな。この状況じゃできることは限られているし)





希道と愛海、そして生徒らは白虎のもとに向かい、質問を投げかけることにした。



白虎〔♪♪~~……お?どうやら落ち着いたようだね〕



近づいてきた生徒たちを視認した白虎は、彼らを見つめる。



希道「はい。それで、いくつか質問をしたいのですが」



白虎〔ん?なんだい?〕



希道「まず、ここはどこなのでしょうか?何もない真っ白な空間ですが…」



白虎〔ここは…そうだなぁ、一言でいえば【境界世界】だね〕



愛海「境界世界…?」



白虎〔そ、君たちの居た世界と、これから行く世界との二つの世界の中間に位置する世界。正確に言えば、空間座標におけるある二つの地点、この間にあって、二点間を亜光速で移動するのに必要な一種のゲートウェイ、だけどね。〕



白虎の言葉を聞いた生徒らは黙ったままだ。



ソラ(………ふ~ん。全くわかんね)



白虎〔ま、理解できないのは仕方ないよ。君たちの文明は、まだそこまで科学が発達してないし。あの世とこの世の間の世界、とでも思ってたらいいよ〕



希道「な、成程?わかりました。次の質問なんですが、どうして私たちはここへ…?」



白虎〔……そうだね。それじゃ、そろそろ説明しようか。ついてきて〕



そういうと、白虎は何もない空間に向けて掌をかざした。すると突然、何の変哲もない木の扉が出現した。



白虎はその扉を開け、中に入っていった。



その扉の先は、暗闇に包まれている。



「おいおい……真っ暗で、あいつの姿しかみえねえぞ……」



「どうするの……?」



希道「…………行こう」



愛海「……うん」



ソラ「……リリー、ついていこう」



百合「…わかった」



生徒たちは、続々と扉の中に入っていった。



その扉の先には……………






「な……なんじゃ……こりゃ……」



「すげえ~……………」



希道「これは…………」



愛海「綺麗…………」



幻想的な風景。オーロラのような、虹のような、しかし説明のしようがない美しい風景が、入った途端、目に入ってきた。



百合「わあ……綺麗~!」



ソラ「ああ……綺麗だ……」



?「あ!ゆーちゃんだ!」



突然、二人の右方から声をかけてくる一人の女子生徒がいた。その生徒は日本の高校生にはひどく珍しい、水色の髪をしていた。



?「やっぱりゆーちゃんもきてたんだ~!ついでに宙翔も」



ソラ「おい、俺はついでかよ」



?「当然!ゆーちゃんを誑かすやつだし」



ソラ「なんだと~?」



百合「まあまあ二人とも。泉水ちゃんも来てたんだね」



彼女の名は二原泉水〈ふたはら いずみ〉。他クラスに所属している、百合の友人の中の一人である。



その特徴的な髪色を持つため多数の人に注目されるのに加え、小さな背、可愛らしい容貌と社交的な人物のために多くの男子生徒から好まれている。




百合「泉水ちゃんが来てるってことは、ほかの二人も来てるんだよね?」



泉水「もちろん来てるよ!」



ほかの二人とは、泉水と百合の友人である、宮下風花〈みやした ふうか〉と広末千風悠〈ひろすえ ちふゆ〉のことである。この二人は非常に仲が良く、周りは姉妹のようだと思っている。



「あ!おい!白虎のやつ、どんどん先に行ってるぞ!」



ある生徒がそう言うと、風光明媚な光景に見惚れていた彼らは、はっとした表情を浮かべる。



希道「はやく行くよ!」



先頭にいた希道は、後ろを振り返って生徒らに付いてくるよう手振りする。



?「ちっ!命令すんなっての……」



泉水「じゃ、私はふーちゃんとちーちゃんの二人と一緒に行くから!宙翔!ゆーちゃんを誑かさないでね!」



そういって、泉水は二人の元から去っていった。



ソラ「誰が誑かすかっての…全く……じゃ、俺らも早くいくか」











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?〔それでは、御前会議を始めます。〕



半円形をした、日本の国会議事堂の衆議院議場のような場所。



正面中央の、国会議事堂では議長席に当たる高い椅子に座り、緑の髪をしている、大和撫子のような美しい女性がそういうと、座っていた者たちが一斉に立ち上がって、女性の後ろにある『白の無地に赤の丸、丸の中に三本足の烏が描かれている旗』に向かって一糸乱れぬお辞儀をして座った。



?〔それではまず、甲計画の進捗を〕



その女性がそういうと、議長席から見て左側の最前列にある席に座る者のうち、眼鏡をかけ、黒い長髪を後ろで結んだ男性が立ち上がり、演壇に立った。



?〔え~まず、今現在行われている甲計画第一段階に関しまして。帝国東方にある二つの銀河団の奪還に成功し、我々の生存圏は拡大しました。加えて、つい先日開発された新型兵器の実験的投入も行い、現場からは非常に強力且つ扱いやすい兵器であった、との報告も上がっております。以降は今回の結果も踏まえ、更なる改良を加えたのちに量産体制を構築し、前線に投入していく予定です〕



そういうと、男性が座っていた席の隣に座る、眼鏡を掛けて白衣を身にまとい、豊満な体をした黒い短髪の女性が口を開いた。



?〔当然だ。我ら技術省が本気となって開発した兵器だからな。有用なのは間違いない。より強力な兵器は我らの生存圏拡大へとつながるが故、全力を出すのは当然よ〕



?〔現場からの報告はそちらに直接送りますので、確認をお願いします〕



?〔ああ。了解した〕



すると、男性は振り返って議長席に座る女性を見た。



?〔これをもちまして、第一段階は完遂されました。代行閣下、次のご命令を〕



?〔……ではこれより、甲計画は第二段階へと移行します。即座に準備を行ってください〕



?〔了解しました〕



?〔では、次の報告を〕



?〔はっ。次の報告ですが、此度行われた【移魂】に関しまして、実行直後に観測された異常神経波を危険視する者たちから、親衛隊の第一艦隊を現場に派遣すべし、という意見が多数上がってきており………………〕











白虎〔さて、ここらへんかな〕



立ち止まった白虎は、何もない空間に手をかざした。するとまた、木の扉が出現した。



白虎〔じゃ、中に入って。この扉の先で説明するから〕



そういって中に入っていく白虎。そのあとに生徒らは続いていく。










扉を抜けると、その先には、空中に浮く巨大な地図がある空間が広がっていた。



希道「あれは地図か……?大陸のようなものや島みたいなものがある」



愛海「だとしたら変だよ?知ってる地図とは全然違うし……」



白虎〔そらそうだよ。この地図は、これから君たちの行く世界、【オストラント】の地図さ〕

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