第2話 不穏過ぎた適性検査
「だいたい君らだって詩が好きでサークルやってるんだろっ」
「好き? どう? ヒカルは」
福乃がメガネの娘に振る。
「ヒカルはぁ好きではないかなぁ」
メガネは苦笑する。
「
「嫌いに決まってんじゃんっ」
モデル風が吐き捨てた。理多って言うのかこいつ。
「そうよね。わたしも詩は……嫌い。詩を憎んでる」
福乃は怖い表情をした。
「だったら、なんで詩のサークルをやってんだよ?」
俺は疑問を口にする。だってそうだろ。詩が嫌いなくせに詩のサークルだなんて、意味がわからん。
「詩は遊びじゃない。わたしたちの逃れられない宿命、闘い、呪われた……」
福乃はメガネのヒカルにこづかれて黙った。
どういうこと? めちゃくちゃ厳しいサークルってことか?
俺の怪訝な眼差しに、三人は無言でお互いの顔を見合う。
そのまま時間が過ぎていく。気まずくて俺はテーブルの上のこまごまとしたものに視線を移す。資料やパソコン、それに毛筆と硯の他に小さい金属のものがある。弾丸? え、なんで?
「ま、いいんじゃないのぉ。入会動機がわたしたちが可愛いからだとしてもぉ」
メガネがしたり顔で沈黙を破った。
「ふんっ、そういうことか。このキモいポエミー野郎がっ」
理多はいちいち罵詈雑言だ。
福乃もなるほどと手を打つ。
「いや納得するんじゃない! んなことひとっことも言ってねえ」
「ほほぅ、では雨森さんは女性にはまったく興味はないとおっしゃるんですかぁ?」
眼鏡の女子が上着を脱ぐ。ブラウス姿になると巨大な二つの膨らみが姿を現した。ボタンを首元から外す。谷間らしきものが徐々に晒されていく。
う、うわあ、こっ、これは……
だ、だめだ。見ちゃダメだ。これは罠だ。詩のサークルに女子がいるだけでも奇跡なのに、さらに巨乳がついてくる⁉︎ いやいやいや、そんな夢みたいな話あるわけない。
出来すぎてる。罠だ。
おそらく、この反応いかんによっては、風紀を乱す輩はゴメンだと入部を断るという流れ…… ふんっ、見切ったぞ!
吸い寄せられかけた視線を鋼の精神力でそらし、詩人、最大の危機を乗り越える。
「けしからん。その乳をしまえええっ! 俺はそんなよこしまな気持ちでこのサークルの扉を叩いたんじゃないっ」
言ってやったぜ! ふふ、俺の勝ちだな。
「こらっ、ヒカル、そういうのはしまいなさい」
福乃の言葉でヒカルはようやく上着を羽織った。
「真にポエムを愛するものとして、詩をやる仲間を求めて来たんだ!」
くーっ! いま俺、ちょっとカッコいいんじゃないの。
福乃は俺の目をじっと見て思案する。
「まあ、みんな、せめて適性検査だけでもしてもらいましょう」
同じ会社のよしみか、福乃はそんなふうに提案しiPadを渡した。
画面は申し込みフォームだ。
「雨森くん、入力して」
氏名、性別、生年月日から始まって質問が出てくる。
現在の収入に満足している →そう思わない。
職場の人間関係はいい →そう思わない。
イエスかノーで答えるものもあれば、四段階で、そう思う、ややそう思う、ややそう思わない、思わないという選択肢もあった。
彼女がいない → ……
こっ、これは、えらく微妙なことを聞いて来るなこのシート。
「正直に答えて。適性診断はAIが行います。私たちは見ないから」
手が止まった俺は、福乃に
彼女がいない → YES
まあ、いねえよ。
彼女が3年以上いない → YES
……悪かったな。いねーもんはいねえし。
これまで女性とつきあったことがない →
「しつけえんだよっ! 余計なお世話だよっ。なんだこの質問項目」
ズケズケとプライベートに踏み込んで来やがって。詩のサークルになんの関係があるってんだ。
「まあ、まあ、適性診断だから」
福乃になだめられた。
彼女が3年以上いない → YES
くそっ。どうせ非モテのポエミーだよ!
政府に不満がある →ややそう思う
ようやく女性関係から質問が切り替わったのだ。
この世界をひっくり返したいと思う →ややそう思わない
まるで思想や信条を聞いているようだった。
幽霊を見たことがある → NO
ネッシーは存在すると思う →NO
なんだこの質問。トンデモ系なのかこのサークルは。
人を殴ったことがある →YES
人を殺したことがある →NO!
NOに決まってんだろ。なんてこと聞くんだ。
戦闘訓練を受けたことがある →NO
不穏な…… まるで兵士の適性を質すような設問じゃないか。
てかこのエントリーフォーム、詩のことまったく聞いてなくね?
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次回予告
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外から音が聞こえる。破裂音だ。テロリストが来てるのか。
危険だ。カーテンを持つ手が震える。
しかし窓の外を見て釘付けになった。外に人が倒れてる。
小宮山福乃だ!
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平凡な詩好きが足を踏み入れた詩のサークル。その向こうにはテロ警報、そして雨森が救おうとした福乃は⁉︎
詩を愛する雨森の運命がここから大きく狂い始める……
>>>第3話 帰り際にはテロ警報が鳴り
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