蛇隠し編 part4 「役目」

『君が津雲家最後の希望なんだ、みほろをどうか…立派な子に育ててほしい』

なんだよ…希望とか、役目とか…そんなのどうだっていい。

「今ある幸せだけで十分なんだ、俺はそれ以上は望まない。みほろと過ごす時間さえあれば…」

元々俺には関係のない事なんだ。大人の勝手に決めた役目に従うくらいなら…。

たった一人の妹を…家族を幸せにしてあげる。それだけでいいんだ。

そして俺は今日から始まる新しいバイトへと向かった。

でも、通り道を誰かがつけてくる。何者かがこちらを見てくる。

《役目は済んだか、マヒロ》

その声は…。

「親父…、俺はもう役目なんか忘れたんだ。もう俺とみほろは親父とは関係ない。津雲家は…九十九代目で途絶える。そう決まってるんだ」

《ミホロの中の白狼が目を覚ました、このままではミホロの魂は白狼に喰われる》

「…っ!」

俺は急いで家に戻った。バイト先には連絡した。今度ももう来なくていいと言われるだろう、だとしても…!

「この槍さえあれば、みほろを…救える!」

役目よりも、バイトよりも大事なのはみほろの命だ、それに変えられるなら…何だってやってやる…!


「どうしたの…?みほろ、凄く青ざめてるけど」

私は止まった時の中で声を聞いた。

まひろ兄が…、私のたった一人の家族の命が狙われている。

「私の中にも、いるの。まことさんやかんなちゃんみたいな憑異が」

やっぱりまことさんと触れ合った時に感じた気配は間違いじゃなかった。

「私の憑異…白狼は今私の魂と同化している、そして目を覚ましてこう言ったの、私の魂を喰らわなければ力を与えられないって」

まだ…私にはそんな覚悟はない…でも…!

「それでも…!私はまひろ兄を、たった一人の家族を助けたい!」

でも…まだ私の中には踏み出す勇気が足りない。

「なるほどね、でも…もうやめない?たった一人で抱え込もうとするのはさ」

私はまことさんに力いっぱい撫でられた。

「みほろさんは私達とおんなじかくれんぼ研究会のメンバーです、みほろさんの家族は…一人だけじゃありません」

そうだ!私はまだ…一人じゃない!

「急ごう、まひろ兄が待ってる」


私達はすぐに自宅へと戻っていった。

「大丈夫!?まひろ兄!」

そこにはひどく俯いているまひろ兄がいた。

その手に持っているのは…ツクモの槍…?

「大丈夫か?みほろ…俺が今…救ってやる」

まひろ兄が突然槍を私に振り下ろしてきた。

「やめて…まひろ兄…!もしかして…憑異に取り憑かれて…!」

でも…、そんな気配はまひろ兄からは感じられない…。

「みほろ…そこに二匹もいるじゃないか、お前らがみほろを誑かしたのか…この獣憑きめ!」

まことさんとかんなちゃんに鋭い目つきを向けるまひろ兄は、とてつもない瞬発力でまことさんに向かって槍を突き出した。

しかし、まことさんは身軽な動きでまひろ兄の攻撃を退ける。

「あちゃー、これはもう手遅れだったみたいね。お兄さん、あんたもう憑異と接触してるでしょ。三叉の蛇『螭』…津雲家九十八代目その当主…津雲やひろに」

まことさんの口から信じられない事が放たれた。

私の…お父さん…が…憑異に…?

「ねぇまひろ兄!お父さんってどういう事!?私達、ずっと2人で暮らしてたはずだよね!?」

「蛇に睨まれて手も足も出なかったんですか、自分のお役目を忘れてのうのうと過ごした日常はどうでしたか?それを…貴方は自分で壊そうとしている、その槍にみほろさんを救う力はありません」

かんなちゃんも槍のことを知っていたの…?

まひろ兄は槍を手から離し、ふと我に返り正気に戻る。

「俺は…なんて事を…たった一人の家族を…!」

まひろ兄はひどく悲しんでいる。私の事を大事に思っていたまひろ兄がこんな事するはずないって思ってた。

「ねぇ、まひろ兄…そろそろ本当の事を教えてくれないかな…私達家族のこと…津雲家のお役目の事を」

私はまひろ兄の手を取り、これまでまひろ兄が抱えていたお役目について話そうとしたその時だった。

「いっ…た…なにこれ」

私の脚に痛みが走った。これは…鱗の傷…?

《まひろ、何をやっている、みほろから白狼を引き離せ…お前がやらないなら…》

その声は、重く…私を抑えつけるような圧を感じた。

そしてその眼に見えたのは三叉の蛇。

「この私がこの憑異どもを片付ける、お前は…」



「…不要だ」


Prologue 蛇隠し編Part5「纏遺物」に続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る