第8話 1人での留守番
「じゃあ、僕は薬を売ってくるから大人しく家に居てよね。まあ、勝手に出て行きたきゃいいけど」
プイとそっけなくラルフはフードを被り横を向く背中には薬の入ったリュックを背負っていた。
「ううう、寂しいよ。ラルフ様!!お姉さんも街に行ってみたいな!!」
と言うと冷めた目で
「は?正気?処刑された人が街中を彷徨くとかありえないし!街ではお姉さんの似顔絵とか貼ってあったよ?
処刑された哀れな令嬢としてね」
「マジかーー…」
そんなことを聞くとなんかやだな。でも虐めたのは事実。虐めたのはヴィクトリアの方だけど。
ラルフは1週間のうち一日中薬を売りに行く日があって、その日は1人でお留守番だ。朝早くからご苦労様です。
散々何も触らないことや注意点を言ってラルフは出かけて行った。
「ていうかめっちゃ暇。掃除でもするか」
と掃除を始めた。小説も漫画もゲームもない世界でやることなんて家事くらいしかない。
風呂掃除に床掃除に窓拭きと綺麗にしていく。ついでに洗濯物も干す。ラルフのシーツも洗って干す。お天気がいいから直ぐに渇くだろう。
それから森にキノコや山菜を取りに行った。ブラックウルフはもうこの辺りには近寄ってこないから姿も見ない。
「ふ、私の魔法に怖気付いたのね」
とキノコ類を持ち、家に戻る。
台所に立ってとりあえずお鍋に入れて火を付けようとして
「そう言えばこの世界ガス無かったわ。魔法でいつもラルフは火を着けてたんだ」
私の心にはラルフきゅんへの愛で火は着きまくってるけど、実際私の魔法で火を着けたら台所事、ドカンだ。
「くっ!諦めるもんか!今日こそラルフきゅんに私の手作りのスープを飲ませてイチャラブするのよ!!」
と私は庭に出て何とか細い枝や焚き木になるものや枯葉を集めた。
周りに石も置いてその中に集めた枝やら枯葉やらを置いていく。
「キャンプで火を着けるのを思い出すのよ。それにサバイバル番組!!」
と前世の火おこしをなんとか思い出してみる。
ん?待って?
火種のあの細いヤツってなんだろ?番組ではサバイバルしてるタレント達は皆火種になるなんか細いモノを振り回したり原始的な方法でくるくると板を削って火を着けていた。小学校の時に習った気がするがそんなもんとっくに忘れた!!
「あれ?あれって何??」
もしかして番組がすでに用意してたヤツ?
それになんかクルクルする棒とか板とか…どうやって…。え?番組の仕込み?
いきなり知識で詰んだ。
そもそもサバイバルなんて普通の現代女性はしない。男性なら最近おひとり様キャンプとかで慣れてそうだけど女性はそんなのしないでしょ!?普通。
「前世知識があっても流石に男よりアウトドアじゃないもんね私。どうしよう。せっかく集めたけど火すら起こせない」
バカな私はカチカチ山の童話を思い出し
「そい言えばカチカチ山のウサギだか、たぬきは石で火着けてなかった!?」
と私はとりあえず手頃な石を見つけて二つをカチッと擦り合わせたが火花すら出ない。いや、こんなんで出るわけない。
ゴロッと石を捨てて途方に暮れる。
このままじゃ何もできないまま終わってしまう!!
「くっ!諦めない!こうなったら魔法しかない!!大物の魔物を探して仕留めてドカンと火を放ってそれを火種にして燃やそう!」
と私は森に入って魔獣達を探すが小動物の魔物が私をみて怖がり逃げていった!
なんてことなの!すっかり私の事を怖がり近寄ってこない!もしかしてレベルが上がりすぎたか!?最近練習しまくったから。威力上がるだけだったけど。
とにかく何かいないか探すが見つからない!!
そのうちに日が暮れてきた!マズイ!!
ていうか別に魔物がいなくても何かの木にドカンと火を放ったらよくない!?と気が付いた!!
私は
「フレイズアローー!!」
て巨大な火の塊で周囲の木に当てた!
やったと思って見ると大木から他の木に燃え移り周辺が火の海になりそうな気配を感じた。小動物や小さな魔物達が逃げ出していく。
「うわあああああ!やっべー!どうしよ!!ただの山火事になる!!み、水魔法使えればいいのに!!」
ど、どうしよ!このままじゃ本気でやばい!!
すると上から水の塊が雨のように降ってきて何とか鎮火した。
箒に乗ったラルフが上から降りてきて私にチョップした!!
「何してんのお姉さん!!森を絶やす気なの!?」
と怒り心頭で私は正座させられ怒られた。
もう日が暮れていた。
庭の焚き火前のモノを見てラルフがため息をつく。美少年のため息!!
「何これ?焚き火?掃除しようとしてたの?」
「違うよ!料理を作ろうとして!私、魔力量多くて台所でやると吹っ飛ぶと思って!それで地道に火を着けようと思ったんだけど…。
普通にできなくてそれで森で魔獣達を仕留める時に火を使うからそれを火種にしようとしたのね?
でも魔獣達は私を見て逃げるから全然ダメで仕方なく普通に森に火を着けようとして…。
あの、なんというか、森を絶やそうとかじゃなくてですね…」
とゴニョゴニョ説明したら
「いや、本当に森ごと燃えてしまうから2度としないで欲しいよ。バカなの!?」
と言われた。
「だって!ラルフ様においしい私のキノコスープを飲んで欲しくて!」
とうるうるしているとラルフがウッという顔をして
「ふ、ふん!お姉さんにまともな料理なんてできるの!?」
「大丈夫だよ!シチューの素でいつも作って……。あ、ああああ!おあああ!
シチューの素なんてこの世界になかったあああ!」
とスーパーで売られているシチューの素を思い出し私は泣いた。
ラルフが呆れた顔で
「さっさと中に入ってください。シチューなら僕が作るんで!ヤギのミルク買ってきたから!!」
と言い、結局、ラルフが作るのを見ていた。
野菜の皮剥きを手伝うが指切った。
シチューは極上だった。
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