第3章 奪われたプリン事件

また取り寄せればいいじゃないか。

「わーっ!大変です大変です!探偵さん!」

「どうかしたの?」

「プリンが、私のプリンが消えたんです!」

「落ち着いて。プリンが君の口の中に消えたのなら何も驚くべきことはない。」

「それで大騒ぎしてたら私が馬鹿みたいじゃないですか。そんなわけないですよ。冷蔵庫から!プリンが!私は食べてないのに!消えてるんです!」


探偵さんは事務机に手袋の手をついて立ち上がり、キッチンに入ってきて、まっすぐ瓶用のゴミ箱へ向かい、蓋を開いて、内側が綺麗に洗われて乾いている空のプリン容器を取り出しました。


「これだね。プリンの容器。つまり君のお取り寄せプリンを盗んだ犯人は、これを冷蔵庫から取り出す時、そして空になった容器をゴミ箱に入れる時にはこの事務所の中にいなければならない。そしてそれらの行為は、君には目撃されていなかった。」

「でも私、昨日と今日はずっと事務所にいましたよ。プリンが届いたのは昨日の夕方です。この2日間、私は探偵さんと恵子ちゃんたちだけしか見ていません。そして私の知る限り、キッチンに入ったことがあるのは私と探偵さんだけです。」

「君の知る限りという制約が危ういとは思わないのかい?昨日の夕方にその高級プリンが届いたのだとしたら、君が眠っている夜の間にプリンが盗まれた可能性もあるだろ。」

「確かにそうですね。私が寝ている間に誰か来客はあったんですか?私って眠りが浅い方なので、インターホンが鳴ったら気づいて目が覚めちゃうと思うんですけど。」

「子どもたちの誰かが、君の寝ている間に食べちゃったのかもしれないな。」

「それは無いです。冷蔵庫の上段の奥に隠しておいたので、あの子たちの背丈では届きません。そもそも私、このプリンのことは誰にも話していません。私が眠った後にキッチンに忍び込んで、踏み台を使ってプリンを盗むという発想に至るのは不可能だと思います。」

「そうか。じゃあ、そういえば、君が眠ったすぐ後くらいに花奈が来ていたかもしれない。」

「なんですかその変な言い方。」

「そんな記憶はないのでね。必死に練り出しているところなんだ。その時はインターホンを押さなかっただけかもしれないな。」

「そうだとして、私が寝た後の夜中にやって来た花奈さんが、冷蔵庫を開けて1つ1500円くらいするご褒美プリンを食べちゃって、容器を洗って綺麗にして乾燥させてから、そのゴミ箱に入れて私が目覚める前に帰っていったということですか?」

「花奈ならやりかねない。甘いものに目が無いのは、君も知っているはずだ。」

「あのプリンは甘さ控えめで、カラメルがとっても苦いことで有名なんですけど・・・。」

「・・・ああ、確かにそうだな。コーヒーくらい苦味が強かった。・・・と言っていた気がする。」

「え、そうなんですか?」


私は、家に入るなりまっすぐキッチンへ向かい、冷蔵庫を開けて私のプリンを食べ、殻になった容器を洗って、布で拭くなどして水気を取り、ゴミ箱に入れて帰っていく花奈さんの様子を想像してみました。とてもスムーズにそのイメージが浮かびました。


「あーあ。あのプリン、事件を解決したご褒美にって、先週くらいにネットで頼んでお取り寄せしたプリンだったんですよ。その時は運よく予約が空いていたんですけど、一昨日くらいにテレビで紹介されたみたいで、今から注文すると手元に届くのは1年以上先になっちゃうんです。私のご褒美、1年以上先送りになっちゃうってことなんですけど。」

「申し訳なかった。」

「どうして探偵さんが謝るんですか!?」

「申し訳ないと、思ったからだよ。君がしてきたことと同じだよ。」


探偵さんは空の瓶をゴミ箱に戻し、事務机の方に戻っていきました。私も着いて行きます。


「よし。決めた。それじゃ、こうしよう。また取り寄せればいいじゃないか。」

「話聞いてました?」

「僕の人脈を舐めないでいただきたい。」


探偵さんは受話器を上げ、誰かに電話をかけました。何の言語を話しているのか、よく分かりませんでした。最後にメルシーだけは聞こえました。


「遅くとも今日の夕暮れ時には届くらしい。」

「え、一体どうやって・・・。」

「今後も、今すぐに欲しいものがあったら僕に言ってくれればいい。できるだけ早く手配させるよ。」

「そ、それは、ありがたいんですけど。あの、今回の犯人は花奈さんなんですよね。そこまでしていただかなくても・・・。」

「兄として、人として、責任を背負うのは当たり前だろ。」

「別にそんなことは無いと思いますけど。」

「理由はなんであれ、事件を起きなかったことにできるのならその手段を取らない手はない。」

「それは、そうです。」


恵子ちゃんたちが小学校から帰ってくる頃、探偵さんが注文したプリンが届きました。ちょうどお夕飯にデザートとして出せそうな、いい具合の時刻でした。しかし、箱を開けると、その中には4つしか入っていませんでした。


「あれ、1人1個にすると1つ足りませんけど。どうしますか?」

「僕はもう食べたから要らないよ。あとのみんなで分けてほしい。」

「あ、そうなんですか。ありがとうございます。」


・・・あれ?

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