第36話 魔物討伐祭の任務(ランス視点)
「ちょうどいい、お前達には次の任務の話をしようと思っていた。聖女様と一緒に後で俺の執務室に来てくれないか」
会議の後、ユーズ団長にそう言われて今俺たちはユーズ団長の執務室にいた。執務室の中にはユーズ団長、俺とセシル、ロイとリラがいる。
「来週、王都近くのニケ大森林で大規模な討伐祭が行われるのは知っているな」
討伐祭。年に一度、増えすぎた魔物を大々的に討伐する催し物が開かれる。ニケ大森林はその名の通り広々としたほとんど人の手の入らない大森林で魔物が多く住んでいる。手付かずの場所のため、定期的に討伐を行わないと魔物が増えすぎてしまうのだ。
しかも、魔物が増えすぎるとなぜか突然変異で尋常ではない魔力を持つ異常な魔物が発生するため、それを阻止する目的も含まれている。
討伐祭では一番多く魔物を倒した騎士に国王から名誉と勲章、さらに望む場合には地位や財産を授けられることになっている。どう考えても命の危険のある討伐を嫌がらずに率先して行ってもらうための策だ。
「討伐祭には王都の騎士団の騎士みの参加のはずでは?」
白龍使いの騎士は王都の騎士とは王都内での役割が違う。それにわざわざ希少価値のある白龍使いの騎士を本体の目的以外で命の危険に晒すわけにはいかないのだ。
「そのはずなのだが、この数年の瘴気騒動のおかげで騎士数が減ってしまってな。さらに各地の瘴気のせいかはわからないが、大森林の魔物が例年より強くなっているそうだ」
討伐祭のため大森林へ下見に行った騎士数名が魔物と対峙しその強さに命を落としかけたという。
「このままでは討伐祭に参加する騎士があまりにも少ないと国王が危惧している。それで矛先が白龍使いの騎士にまで及んだというわけだ。白龍使いの騎士達には王都の騎士達の援護をお願いしたいらしい」
何かあれば白龍の力を使って王都の騎士を守れ、そういうことなのだろう。
「ランスとセシルには前衛で騎士の援護を、ロイとリラには後方で負傷組の治療や救護班に近づく魔物の討伐を行って欲しい。俺とベルは白龍使いの騎士と聖女の統括を行うが、場合によっては前衛に行く可能性もある」
任務は王都の騎士達の援護。王都の騎士達の強さは国内でもトップを誇っており、騎士達がいるからこそ国民も安心して生活できている。その騎士達さえ命の危険がある魔物とは一体どれだけの強さなのだろう。
「討伐祭では恐らくかなりの力を消費するだろう。その時を狙って誘拐犯は騎士や聖女に近づいてくるかもしれない。くれぐれも気を引き締めてくれ」
ユーズ団長の言葉に、その場の空気がピリリとする。
「お前達の他にも何組かペアを任務に向かわせる予定だ。討伐祭前に王都の騎士を含めた打ち合わせがあるから、その際に顔合わせをするといい」
ユーズ団長からの任務の話が終わり、解散となった。
「またな、ランス。次に会うのは討伐祭の打ち合わせだろうな」
「あぁ。また会おう」
「セシル、色々と、ありがとう。また会えるの、楽しみ」
「私も楽しみよ、リラ。またね」
セシルがリラと会話をしているのを見ていると、フワッと清らかな力を感じる。近くの広場にはいつの間にかロイ達の白龍、ジュインが白龍の姿で鎮座していた。
「よし、それじゃジュイン、行こうか」
ロイが白龍の背に乗り、リラの手を優しく引いて自分の前に座らせる。リラは相変わらず真顔だが、ほんの少しだけ口元が上向きに弧を描いている。
「またな!」
「あぁ!」
ロイ達を乗せた白龍ジュインが高く高く空へと登って行くのを見届けると、俺はセシルの方を向いた。
「それじゃ、俺たちも帰ろうか」
そう言うとセシルは軽く頷いたが、表情が暗い。
「どうかした?」
覗き込むと、目が合ってほんのり顔を赤らめた。セシルってばいつまで経っても可愛い反応をするな。
「いえ、誘拐騒ぎや討伐任務、立て続けに色々と聞かされて頭がついていかないというか、考えてしまって……」
優しくセシルの手を握る。
「大丈夫、セシルのことは何があっても俺が守るよ。だから安心して」
ね?と微笑むと、セシルも少しだけ微笑んでくれた。よかった、セシルにはやっぱり笑顔が似合う。この笑顔を絶対に守りたい、守ってみせる、どんなことがあっても。
ふと、討伐際に参加するということは必然的に会わざるを得ない昔の上司の顔を思い出してしまった。あの人に会うのはなんだかあまり気が進まないな。またセシルにちょっかいを出されるようなことがあればたまったもんじゃない。
仕事はできるが普段から何を考えているのかわからない王都騎士団団長、ケインズ団長の顔を思い浮かべながら空を仰いで俺は思わずため息をついた。
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