第33話 聖女誘拐事件

 ランス様とロイ様がこちらにきて、私とリラにそれぞれ手を差し伸べる。私たちはそれぞれランス様とロイ様の元へ行き、隣に座った。


 席について周りを見渡すと、総勢15〜20人弱と言った所だろうか。ユーズ団長とベル様のように仲睦まじい騎士様と聖女様や、見るからにまだぎこちない騎士様と聖女様などさまざまだ。私とランス様はどんな風に見られているのだろう、そう思ってちらりとランス様を見るとランス様は私の目線に気づいたのか微笑んだ。ランス様は目が合うとすぐに微笑んでくれて、それが嬉しいのと恥ずかしいのでなんだか胸がこそばゆい。


 すぐ前の席にはロイ様とリラがいる。ロイ様はリラの様子を気にかけているようで何度か話しかけているが、リラは目を合わせてもすぐにそらして頷くだけだ。話をしてみるとは言っていたものの、やはりまだ恥ずかしいのと慣れていないので難しいのだろう。


「よし、全員席に着いたな。白龍使いの騎士は王都より遠方の者が多い。そんな中でもわざわざ出席してくれて感謝する」


 ユーズ団長はよく通る少し低めの声で挨拶した。ユーズ団長の隣にはいつの間にかベル様が少し微笑みながら座っている。ベル様、いつお見えになったんだろう、後で挨拶に行きたいなぁ。そんな風に思ってベル様を見つめていたら、目が合ってにっこりと微笑まれた。あまりのナイスタイミングにびっくりしてしまうけど嬉しくなって微笑み返す。


「今回は皆も知っての通り、各地で起こっている瘴気の騒動についてだ。数年前から少しずつ発生していたが、最近になって多発するようになった。それに伴い、さらに気になることも起こっている」


 ユーズ団長がそう言うと、会場がピリリとした空気になる。


「最近、虹の力を持つ聖女の誘拐未遂が起こっているようだ」


 会場が一斉にざわつく。聖女の誘拐未遂?一体何のためにそんなことが起こっているのだろう。


「瘴気の件と直接関係しているかは不明だが、聖女の誘拐が多発し始めた頃と瘴気騒動が多くなった時期が一致しているんだ。誘拐から聖女を助けるために複数人の白龍使いの騎士が負傷している。もしかすると白龍の使いの騎士の足止めを狙ってのことかもしれない」


 白龍使いの騎士が負傷すれば瘴気騒動への対応が遅れる。対応が遅れれば瘴気はどんどん広がり、瘴気によって我を忘れる人間や魔獣も多くなる。


「騎士も聖女もそれぞれ身を引き締めて周囲に気をつけてほしい。いつどこで狙われるかわからないからな。誘拐犯については王都騎士団が調査中だ」


 王都騎士団といえば、あのちょっといけ好かないケインズ団長がいる騎士団だ。


「王都騎士団からの情報によると、聖女が誘拐されそうになる前に騎士へ不審な女が近づいているそうだ。聖女が誘拐された騎士に話を聞くと、その女は騎士を誘惑してくるらしい。だが騎士がその誘惑を断り、数日後に聖女が誘拐されたそうだ。これは誘拐された聖女と騎士どのペアにも当てはまる」


 その場が騒つく。騎士を誘惑してダメだった腹いせだろうか?


「不審な女から騎士への接触は任務後、白龍の力を消費した後が多いようだ。聖女の誘拐については、不審な男が言葉巧みに言い寄ってきたり、騎士の知り合いだと偽って聖女をたぶらかして誘拐しようとするそうだ。断れば無理やり連れ去るという強硬手段にでるらしい」


 騎士にも聖女にもそれぞれ不審な男女が近寄る。一体何がしたいのだろう。瘴気騒動と関係があるのだろうか?考え込んでいると、ランス様が机の下で私の手を掴んでぎゅっと握りしめた。ランス様を見ると、真剣な顔でユーズ団長の話を聞いている。


「誘拐された聖女は全員騎士と白龍によって救出されているが、誘拐された後の記憶は曖昧らしい。しかも自分が虹の力を持つ聖女だということをすっかり忘れてしまっている。数日で記憶は戻るようだが、なぜそのようになっているのかは不明だ」


「また何か情報があればその都度知らせるようにする。くれぐれも気をつけて任務に当たってくれ」


 ハイっ!と騎士たちの声が会議室内に響く。


「それでは解散とする。他に気になることがあれば何でも構わない、直接俺に話をしてくれ」


 ユーズ団長の声で騎士や聖女達が席を立ち、帰路に着くもの、ユーズ団長の元へ行くものなど様々だ。



「ランス様、ちょっとだけベル様の所に挨拶に行ってきます」


 そう言うと、ランス様は俺も団長に聞きたいことがあるから、と私の手を握ったまま歩き出した。手を繋いだままこの中を歩くのはちょっと恥ずかしい。けれどランス様が手を離す気配はないようだ。


「セシル、ベル様のところ、行く?リラも、行きたいの」


 リラに声をかけられたので一緒に行くことにした。ロイ様はランス様と私が手を繋いでいるのを見て一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニヤニヤとしながらランス様を肘で小突く。なんかすごく恥ずかしい。


 ふと、リラが私とランス様を見てから、ロイに手を差し出す。


「ん?どうした」


「手、繋ぐの。ランスとセシルみたいに」


 真顔でそう言うリラを見てロイが驚く。だが、ロイはリラの小さな手をとって優しく握り、リラはほんの少しだけ嬉しそうに微笑んだ。本当に、ちょっとだけ。





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