第12話 人の姿のミゼル様と無茶ぶり
ミゼル様が山奥の瘴気を浄化した翌朝。
屋敷のそばにある小さな庭園で私は花を見ていた。ここの花達はジェシカやジョルジュによって綺麗に手入れされており、そのため妖精達がよく遊びに来ているのだ。
みんなには見えないらしいのだけれど、私はなぜか小さい頃から妖精の姿を見ることができた。今も花の周りをキラキラと小さな粒が舞っていて笑っているのがわかる。その笑い声は小さな鈴が鳴るような高くて可愛らしい音。
「楽しそうね」
妖精たちにそう話しかけると、鈴の音のような笑い声はさらに強くなって光の粒が飛び回っている。なんだか私まで楽しくなって一緒になって笑ってしまう。
「やぁ」
ふと後ろから声をかけられる。振り返ると、そこには綺麗な長めの銀髪を片側にゆるりと結んだとてつもない美しい人が立っていた。女性?男性?どちらとも言えないような中性的な雰囲気だ。ちょっとどこかの民族チックな服装をしている。
「あ、どうも……」
誰だろう?ランス様にお客様かな?しかしものすごい美人さん!!ランス様もかなりのイケメンだと思ったけど、こんなに美しい人がこの世にいるんだろうかという位だ。思わずぼーっと見惚れてしまう。
「ふふ、そんなに見つめないで。照れてしまうよ」
にこっと頬笑む姿も美しい。美しくて、ま、眩しすぎる。
「えっと、どどちら様でしょう?ランス様にご用でしょうか?」
気を取り直して尋ねると、またふふふ、と笑っている。
「誰だかわからないかな?」
???誰だろう。会ったことはないはずだけど、この雰囲気、どこかで感じたことがあるような……。
「あぁっ!まさかミゼル様?!」
「正解~!」
手をパチパチと叩いて嬉しそうに笑っている。
「この姿で会うのは初めましてだね、セシル」
まさか白龍様が人の姿になれるなんて知らなかった!でもさすがの美しさは納得だ。
「というわけでセシル、力を分けてもらいに来たよ」
そう言ってミゼル様はどんどん近づいてくる。目の前まで来て、顎に手をかけられた。
瞳は白龍姿の時と同じアクアマリンのようでとても綺麗。吸い込まれてしまいそうで目が離せない。
ぼんやりと見つめていると、あれ?どんどんミゼル様の顔が迫ってくる……。
「セシル、ここにいたんだ……って何してるんだミゼル!!!!」
ランス様の声がして我に返る。目の前には今にもキスされそうな距離のミゼル様の顔がある。
「?!?!」
驚いて後ずさると、ランス様にぶつかってそのままランス様の両手に包まれる。後ろから抱き締められてるような形になってるんですが……!
「やぁ、ランス」
「どういうつもりだ、ミゼル。人の姿になってセシルに何を……」
ランス様が怒っているのが背中越しにもわかる。
「何って、昨日の力の補充では足りなかったからもっと力をもらいにきたんだよ。ランスのやり方では全然足りないからね」
両手を広げてやれやれという仕草をする。昨日のでは足りなかったんだ……。
「でもだからってこんな急にセシルに迫るなんてダメじゃないか!」
「そんなに怒るなよ、ランス。君に言ったってきっと聞いてはくれないだろ?昨日だって軽く流したじゃないか。私が直接セシルからもらう方が利にかなってる」
昨日、ミゼル様からランス様には足りないと言ってたのか。だったらなぜランス様はそれを言ってくれなかったんだろう。
「ランス様、足りなかったのでしたら言ってくだされば……」
「いや、でも……」
振り返るとランス様は困惑した顔をしている。
「別にキスの一つや二ついいだろ。君達は結婚してるんだし、その結婚だって合意の上じゃないか。それをランスはいつまでも先伸ばしにするから」
そっか、抱き締めるだけでは力の補充は足りなかったんだ。でもランス様はキスしたくなくて……。
なぜだろう、胸の奥がモヤモヤする。
「ほら、セシルが不服そうな顔をしてるよ」
ミゼル様が私を見てそう言うと、ランス様は慌てはじめた。
「違うんだよ、セシル。君とキスしたくないとかそういうことじゃなくて」
「……じゃぁなんだって言うんですか」
思わずむくれてしまう。あぁ、嫌だな、こんなの子供っぽい。
「結婚してるとはいえ、契約結婚だし昨日はあまりにも急すぎて君も困るんじゃないかと思ったんだ」
頭をかきながら申し訳なさそうに言うランス様。
ランス様の気遣いはとっても嬉しい。嬉しいけど、でも。
「私はそんなに聖女として頼りないですか?」
じっとランス様を見つめると、ランス様はさらに困惑した顔で見つめ返してくる。
「ランス様と契約した時、この力をミゼル様とランス様のために役立てると決めたんです。力の分け方を聞いた時にはびっくりしましたけど……でも、聖女としての決意は揺るぎません」
そう言うと、ミゼル様は腕を組んでうんうんと嬉しそうに頷いた。
「だから、もし力が必要なのであればちゃんと言って欲しいです。キスまでなら大丈夫ですと、この間お話しましたよね」
私の気迫にランス様は驚いていたけれど、困った顔は次第に柔らかい微笑みに変わっていく。
「そっか、そうだよね。ごめんセシル。君のことを頼りないと思っていたわけではないんだ。君の決意はちゃんと伝わってるよ」
「だったら、さっさとキスしてくれよ。じゃないと私がセシルとキスして力を直接わけてもらう。白龍でも人の姿であれば力は同じように分けてもらえるんだから」
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