第11話 白龍使いの騎士のお仕事

 白龍のミゼル様に選ばれ、ランス様の元に来てから一週間が経った。


 私は今、ランス様と一緒にミゼル様の背中に乗って空を飛んでいます。


「初めて君を乗せた時のことを思い出すな。といってもまだ一週間しか経ってないけど」


 ふふ、とランス様が後ろで笑う。今回もランス様の前に私が座っている状態なので、位置的にちょうど息が耳元近くにかかるからくすぐったい。


「んんっ」


「どうしたの?」


 くすぐったくて思わず身動いだら、不思議に思ったランス様が後ろから顔を覗かせてきた。余りの近さで余計にやばい。


「な、なんでもないです!」


 思わず大声で言ってしまうと、ミゼル様が横目でチラリとこちらを見る。あぁ、ミゼル様、うるさくてすみません……。でも、仕方ないんですよ。


 今日もランス様は私がミゼル様から落ちてしまわないよう安定させるためにお腹に手を回している。その手が触れている箇所が熱くて胸やお腹がキュッとなってしまう。背中もランス様の胸元に密着してるし……。


 ついドキドキしてしまって顔が赤くなっていないかな?でもランス様は後ろにいて顔はそんなに見えないだろうし、きっと大丈夫……なはず!





「ここか」


 ミゼル様が降り立った場所は、広い領地の中にあるとある山奥だった。


「ひどいな……」


 ランス様が眉間に皺を寄せて呟く。


 ものすごい瘴気だ。禍禍しいほどの空気で辺り一面が重苦しい。息をするのも辛い。


「こういう瘴気が溢れてしまった場所を浄化するのも白龍の仕事なんだ。そして、白龍が浄化している間に白龍を周りから守るのが白龍使いの騎士の役目」


 瘴気が溢れた場所ではその瘴気に充てられて魔物が凶暴化している場合がある。浄化の最中に凶暴化した魔物が我を忘れて襲ってくることもあるそうだ。そんな凶暴化した魔物から白龍を守るのが白龍使いの仕事だと言う。


「本当はセシルをこんな所に連れてきたくはないんだけど、白龍が浄化に使う力の補充をしてもらわないといけないから」


 ごめんね、とランス様は謝ってきたけれど、ミゼル様とランス様のためならば何てことはありませんとも!


「大丈夫です!お二方のためにも頑張りますね」


 ふんすと鼻息を荒くしてそう言うと、ランス様は嬉しそうに笑った。


「頼もしいな。セシルのことは俺が守るよ。だから離れないでね」


 ランス様が剣を構える。はぁ、そんな姿もとてもかっこいい……つい魅入ってしまうけれど、そんなことにうつつを抜かしている場合ではないのだ。


 気を引き締めてミゼル様を見つめる。ミゼル様が空を見上げると、ミゼル様からふわぁっと清らかなエネルギーが発せられた。


 ミゼル様がキラキラと輝き始める。


「すごい……!」


 ミゼル様から発せられる清らかなエネルギーはどんどんと周りへ広がっていき、瘴気が少しずつ消えていくのがわかる。


「……!」


 何かに気づいてランス様が剣を構えて茂みの方を向いた。すると突然茂みの中から何かが突進してくる。


「魔物……!」


 熊のような体に猪のような顔、角と牙が生え、爪は鋭い。そんな大きな魔物が我を忘れたようにただ走ってくる。


 ランス様が剣をひとふりした。すると剣から青白い光の刃が飛び、魔物を貫く。魔物は真っ二つに割れて塵のように消えていった。


 その後も様々な魔物が何度か襲ってきたが、その度にランス様があっという間に倒していく。


(なんて鮮やかな剣さばきなのかしら……!)


 思わず見とれてしまう。


 そうこうしているうちに、ミゼル様の浄化が終わった。辺りの瘴気は消えて清らかなエネルギーが満ち溢れている。


「お疲れ様、ミゼル」


 ランス様がそう言うと、ミゼル様は首をゆっくりと縦に揺らした。


「……くっ」


 突然、ランス様が体勢を崩した。思わず駆け寄って支えるけれど、足元がおぼつかない。


「ごめん、ミゼルの力を使いすぎたかも」


 魔物と戦う時にミゼル様の力を使い、ブーストのようなものをかけたらしい。


「大丈夫ですか?私にできることは?」


 聖女の力を分ければいいのだろうけれど、この場合どのやり方が良いのかわからない。


「……抱き締めてもいいかな?それで力を分けてもらうことができると思う。俺もだけどミゼルも浄化で力をかなり使ったようなんだ」


 眉間に皺を寄せて苦しそうに言うランス様。早くその苦しみから解放してあげたい!


「わかりました!どうぞ」


 ランス様の真正面に座って両手を広げると、ランス様が少し戸惑いぎみに私を抱き締めた。


 背中に回されたランス様の両手は弱々しい。思わず抱き締める力をほんの少し強めると、ランス様の手の力も強くなった。


 二人の指輪の青い石から光が放たれる。その光に包まれながら、私とランス様はただ抱き締め合っていた。


 どの位経っただろう。指輪の光が徐々に弱まり、消えた。


「……ありがとう。かなり楽になったよ」


 ゆっくり離れて私の両肩を掴みながらランス様は笑顔で言った。顔色も良くなったし、元気になったみたい。


「よかったです」


 ほっと胸を撫で下ろすと、ランス様は微笑みながらずっと見つめてくる。なんだか照れ臭い。


「ミゼルも力をだいぶ補給できたみたいだ」


 ランス様がミゼル様の顔を撫でると、ミゼル様は目を細める。その様子にランス様は一瞬顔をしかめて困ったようだった。どうしたんだろう?


「よし、浄化も無事に終わったし帰ろうか。騎士団本部への報告は別の日に行おう」







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