第3話 騎士団本部

 白龍のミゼル様の背中はゴツゴツしてるように見えて意外と乗り心地がいい。騎士様が後ろから支えてくれているから安定もしてるし、そんなに怖くないな。


 ミゼル様がどんどん上昇して行くのだけれど、それと一緒に自分の内臓がフワッと浮いたままな感じがしてすごくこそばゆい。なんだろう変な感じがする!でも嫌じゃないかも!


 どんどん教会が、街が離れていく。すごい、建物が小さくなっていって、上空から見るとこんな感じなんだ……!


「大丈夫?」


「はい!むしろすごいというか、楽しいですね!騎士様はいつもこんな素敵な風景を見てるんですか?いいなぁ」


 風は心地よくて空気が澄んでいる。鳥達が飛んでいるのを横目に白龍様はどんどん進んでいく。太陽の光もこんなに綺麗で暖かいなんて素敵すぎる。


「そうだね、天気のいい日は確かに風景は綺麗だし気分もいいかな。天候が悪い時は大変だけどね」


 そっか、天気が悪い時でも白龍使いの騎士様たちは任務のために空を飛ぶんだわ。なんだか軽率なことを言ってしまった気がする。


「すみません、なんか軽々しく楽しいだなんて言って」


「いいよ、むしろ初めて乗るのに怖がらずに楽しんでもらえてよかった。君が楽しそうでミゼルも嬉しいみたいだしね。あと」


 後ろから弾んだ声がする。


「俺のことは騎士様ではなくてランスでいいよ。これからずっと生活を共にするんだし。俺もセシルと呼んでいいかな?」


「え、あ、はい」


 ずっと生活を共にする???私、生贄になるのに???たまに騎士様、いえランス様はよくわからないことを言う。


「これから東に向かって王都の中心部に向かう、まずは白龍使いの騎士団本部に挨拶に行くよ。君を紹介するためにね」


 生贄の紹介か……でも白龍使いの騎士様達にとっては大事なことなのだろう。そうだよね、生贄を捧げることによって一人前の白龍使いが誕生するんだから。


 一人で考え込んでいたら、フワッ……と優しい力を感じる…!もしかして、ミゼル様が励ましてくれてるのかな?これから生贄になる者をわざわざ気にかけてくれるなんて、白龍様はお優しい存在なのね。


「ありがとうございます、ミゼル様」


 背中にそっと語りかけると、ミゼル様はアクアマリンのような美しい色の瞳をチラリと向けて私を見てくれた。






 王都内部には至る所に白龍の降り立つ広場が存在する。白龍使いの騎士団本部に向かうために、まずミゼル様を広場に降り立たせ、そこから本部まで徒歩で向かうそうだ。


「ミゼル、少し待っててくれ。どこかに散歩に行っていても構わないよ」


 ランス様がミゼル様の顔に手を当てて優しく言うと、ミゼル様は擦り寄ってからその場に座り込んだ。とりあえずはここでゆっくり休む気みたい。


 ミゼル様のいる広場から少し歩いた所に、立派な建物がある。これが騎士団本部なのかな。


「白龍使いの騎士団本部は、王都の騎士団本部とは別の部署なんだ」


 玄関の扉を開けながらランス様が説明してくれる。玄関の中に入ると、広いホールになっていて中央から階段が伸びている。


「騎士団長に挨拶に行こう」


 コンコン。


 2階にある騎士団長の部屋。ここにランス様の上司である騎士団長がいらっしゃるのね。どうしよう、すごく緊張する。


「ランスです」


「入れ」


 部屋の中に入ると、窓の近くに人が立っていた。振り返ったその人は、少し長めの茶髪を後ろに束ね、無精髭を生やしている。壮年といった感じだろうか。


「君がミゼルに選ばれた聖女様か。疲れただろう、ご苦労様」


「は、初めまして。セシルと申します」


 騎士団長が私を見て目を細めるものだから緊張してしまった。


「そんなに緊張しなくて構わないよ。すまない、この見た目だから怖がらせてしまったかな」


「い、いえ!そんなことないです」


 私と騎士団長とのやりとりに、ランス様はくすくすと笑っている。笑ってないで助けてほしい……!


「こいつはこんなお気楽な感じだからこれから一緒に過ごす上で戸惑うことも多いだろうが、どうか勘弁してやってくれ」


「あ、あの、そのことでお聞きしたいことがあるんですが」


 思わずそう言うと、騎士団長もランス様もこちらをじっと見つめてくる。うぅ、どうしよう緊張が極限だわ!


「これから一緒に過ごす、と言うのは生贄になるまでのことですよね?私は白龍様の生贄として選ばれてここにいるのでは……」


「え、生贄?」


 私の言葉にランス様が驚いた顔をする。あれ?私、何か変なこと言った?


「あぁ、そうか。そこから話さなければいけないな」


 騎士団長は顎髭をさすりながらふむふむとつぶやいた。


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