第4話 生贄と結婚
騎士団長に生贄について確認すると、どうも様子がおかしい。ランス様も不思議そうな顔をしている。
「建前は白龍に捧げる生贄、ということにしてあるが、実の所は生贄ではない。その力を白龍とその騎士に分け与えるのが虹の力をもつ聖女の役目だ」
「力を分け与える?」
騎士団長がスラスラと言うが、正直ついていけてない。というか、なぜランス様もよくわかっていないようなお顔をしてるんだろう。
「白龍の力はこの国では偉大だ。その力で各地の瘴気を浄化したり、国同士の争いを止めたりする。人間にとって厄介な魔物と戦うことだってある。だが、その力は使う度に消費され、消費された分だけ回復までにとてつもない時間がかかる。それは相方である騎士も同じだ。騎士は白龍と白龍の力を使いこなすだけの器ではあるが、力を持っているわけではない。だからこそ、虹の力を持つ聖女からその力を補充してもらう、というわけだ」
一気に言われてしまったけれど、これまた頭が追いつかない。えっと、つまり、白龍様に生贄として食べられてしまうわけではないということ?
「虹の力と白龍様の力は同じなのですか?」
「そうだ。だからこそ、虹の力を持つ聖女の協力が必要なんだ」
へぇ、知らなかった。
「あの、すみません。セシルはそもそもなぜ生贄になると思っているんでしょうか」
ランス様が疑問を口にする。私はむしろなぜランス様がそこを疑問に思っているのかがわからないのだけれど。
「あぁ、表向きは虹の力を持つ聖女は白龍使いの騎士が一人前になるために白龍に捧げる生贄ということになっている」
「なぜです?普通に聖女の力が必要だと公言しても問題ないと思うんですが」
確かに、わざわざ生贄なんて怖がらせる必要ないと思う。そのせいで虹の力を持つ聖女が今までどれだけ怖い思いをして生きてきただろうか。
「それがな、最初は生贄とは言っていなかったらしい。騎士団に残る歴史書によると、ある時から虹の力を持つ聖女が自分達の立場を利用して騎士を選別し始めたんだそうだ。自分の好みの騎士でなければ嫌だ、騎士を変えろと要求するわがままな聖女もいたらしい」
そもそも聖女は白龍がその力に見合った聖女を選ぶ。聖女が身勝手に白龍や騎士を選べるわけではない。だが、自分の好みの騎士でなければ行かないという聖女が一時期後を立たなくなったという。
「それで当時困った騎士団は生贄ということにして強制的に聖女が白龍と騎士の元へ来るようにしたそうだ。それが今でも受け継がれている。二度と同じようなことが起きないためにな」
虹の聖女の力がなければ白龍の力は枯渇し、国の存続も危ぶまれる。だが、聖女の力は決まった白龍にしか適合しない。だからこその強行だ。
強制的にその力を使われる聖女も辛いけれど、わがままを言って国の存在を脅かす過去の聖女達もどうかと思う。
「ということは、私は生贄として白龍様に食べられてしまうということはないんですね」
「そうだな、直接的に食べられるということはない。死ぬわけではないから安心してくれ」
騎士団長の言葉にホッとする。よかった!本当によかった!私、死ななくて済むんだわ!
「生贄になると思ってたから君も教会の友人もあんなに悲しんでたんだね」
ランス様が困ったように微笑む。はい、そうなんです。
「てゆうかお前、白龍と騎士団の歴史は騎士学校で最初に習うことだろ。覚えてないのかよ。再履修だな」
騎士団長の言葉にランス様が思わずえぇ〜!と悲鳴をあげる。ランス様は意外に抜けてるのかしら、思わず笑ってしまった。
「お、ようやく笑ったな。こいつはこんなだが、新人の騎士の中では抜きん出た実力の持ち主なんだ。どうかよろしく頼む」
「よろしく頼む、とのことですが、実際に力を分け与えるというのはどういうことなんでしょうか?どうすればいいのでしょう?」
力を分けろと言われても、分け方なんて全然わからない。
「そうだな、近くにいるだけでも少量なら自然と分け与えることはできるし、後は触れたり……まぁ詳しくはランスに聞いてくれ」
ニヤニヤしながら言う騎士団長。ランス様は頭をかいてへへへ、と苦笑いをする。なんだろう、特殊なやり方でもあるのかな?
「よし、詳しい話は済んだことだし、まずは二人に婚姻の契約を結んでもらってから……」
「はい?婚姻の契約???」
え、待って、私、結婚するの????
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