過去最強のSクラス

高等部への入学式が終わり、私とリューゲ君は龍我君に案内されていた。


「この学校のクラス分けは特殊でな、序列によって分けられるんだ」


主席から第9席まででSクラス、第10席から第29席まででAクラス、第30席から第59席まででBクラスと続いていき、最後のクラスだけ31人学級らしい。


「だから毎月序列の変化が反映されるとクラスメイトが変わったりすんだよ、まあ俺らは変わったことねえけど、てわけで兄貴は第8席だからSクラス、姐さんは特別席、一応クラスは選択できるけど...」


「もちろんSクラスだよ、一番いいところの方が一番早く私のことが知れると思うからね」


一番良い学びができる、つまり私自身の謎にいち早く迫れる場所がクラスSだ、ならそこに行くしか選択肢はないだろう。


「じゃあなかなかきついぞ、ほんとに個性豊かで修羅の道!って感じだからな、それでもSクラスに来る覚悟はあるか、姐さん?」


ゴクリとつばを飲み込み、大きな声で返答する。


「もちろん!」


「兄貴は?」


「序列第8席になった時点でもうそこしかないでしょ?」


「そっか、じゃあ...」


龍我君は立ち止まり、扉をガラッと開ける。


「ようこそSクラスへ」


人が少ないせいでさほどうるさくない教室に、3人の学年上位がいる。


「よっ、編入生連れてきたぜ!」


すると金髪翠眼の子が一目散にこちらへやってきた。


「君達が編入生!?こんなに早く会えるなんてね!ねえ名前は!?術式は!?」


興奮気味に聞いてくる、すると見た目が瓜二つの子が近寄ってきて。


「馬鹿者が」


と呟き、興奮気味な子の頭でゴチン!と痛々しい音を奏でて、その子の頭には大きなたんこぶができていた。


「いっった!兄さん何すんのさ!」


「名前はさっき言ってたし術式はいずれ知る、人に名を尋ねる前に自分からとよく言うだろう馬鹿者が」


「兄さん?でも同じ学年...ああ、双子なんですか」


2人とも同じ背格好に同じ髪色、そして同じ目の色、違うのは中身だけ。


「今ぶん殴られたのが第4席で弟の創真大弥そうまだいや、お調子者で俺の親友な」


「よろしくねー!」


「で殴ったほうが第3席で兄の創真拓海そうまたくみ、堅物で常識人な」


「だれが堅物だ..この馬鹿に紹介に預かった、創真拓海だ、よろしく頼む」


「夜城天音です、よろしくおねがいします」


「リューゲだよ、よろしく」


「そんな堅苦しい話し方じゃなくていいよー!兄さんみたいに堅物になっちゃうよ?」


ゴチン!と先程よりも痛々しい音が鳴ったと思えば、大弥君のたんこぶが2段になっていた。


「誰が堅物だ馬鹿者が...タメ口のほうが話しやすいのは確かだ、その喋り方で頼む」


「わかった」


自己紹介が終わり、二人が静かになると、本当に見分けがつかない、見分けられるようになっておかなねばならない。


「...ねえ」


「どうした姐さん?」


「私達を含めて10人学級だから少ないんだろうなって思ってたけどさ、少なすぎない?」


「確かに、第2席、第5席、第6席、第7席がいないね」


4人もいなければ少なく感じるのも仕方ないだろう。


「ま、少なくとも第5席と第6席はくるさ...噂をすれば」


「おはようございます、あら、龍我さんそちらは編入生のお二人ですね?」


彼が廊下の方を見ると私と同じぐらいの背格好の、長く黒くところどころ青いストレートを一つにまとめた、ブレザーを押し上げる双丘が人目を引く美少女が入ってきた。


「そうだぜ」


確認をすると、こちらを向いてペコリと礼儀正しくお辞儀をしてきた。


「お初お目にかかります、水恋瑠璃すいれんるりと申します、リューゲさんに天音ちゃんで良かったでしょうか?どうぞよろしくおねがいします」


「よろしく」


「よろしくね、後そんなにかしこまらなくてもいいよ?」


「いえ、実家にいた頃からの喋り方ですので癖になってしまいまして」


「そうだったんだ、瑠璃ちゃんでよかった?」


「はい!あっ、玲音ちゃんも自己紹介しましょうよ!」


瑠璃ちゃんは離れたところで黙々と本を読む女子に声を掛けた。

内に巻かれた紫色の髪に眼鏡、先程の入学式で宣誓をしていた学年主席、名前は確か雨野玲音だったはず。


「私は遠慮しておくわ、彼らのことは知っているもの」


無愛想でそっけない返事だった。


「ああ言ってるけど、本当はいい子なんですよ、この間だって倒れてる子を見つけたら真っ先に助けたんですから」


「ちょっと瑠璃!それは言わない約束でしょう!?」


「玲音ちゃんが素直にならないのが悪いんですよ?ああ、まだ意地を張ってたら、この間遊びに行ったときのこと言っちゃいそうですよ?」


「お願いだから言わないで!ちゃんと自己紹介するから!」


顔を真っ赤にして懇願しているあたり、かなり恥ずかしい話らしい。


「...雨野玲音よ、その...よろしく」


どうやら玲音ちゃんはツンデレ属性らしい。


「よろしくね!」


「よろしくね、ツンデレな主席さん?」


「誰がツンデレよ!」


リューゲ君は空気を読まずに思いっきり言ってしまった。

取り敢えず教室内にいる生徒とは自己紹介をすませた、そして残りの生徒3人はまだ来ない。


「はっ!そうでした!皆さん隼人くん見ませんでしたか!?」


突如として瑠璃ちゃんが大事なことを思い出したようだが、隼人という名前はこの中で聞いたことがないため、残り3人のうちの1人だと思われる。


「知らないわ」


「知らねえわ」


「すまないがゼフュロスがどこにいるか把握できるほどじゃない」


「兄さんに同じく、僕も知らないよ?」


誰もしらないようだった、因みにリューゲ君も肩をすくめている。


「ところで隼人君って誰?」


「そっか、天音さん達は知らないか」


「ボクはリサーチ済みだけどね」


「さっすが兄貴だぜ!」


「ウチの学園なかなか情報がないのによく調べたね!よっ!天下一の兄貴!」


「でしょ?もっと褒めてもいいんだよ?」


「「流石俺達の兄貴!」」


「やかましいわ馬鹿者どもが!」


3回立て続けに後ろで重く鈍い音がした、音の方を見ると頭に大きなたんこぶを作って正座している拓海君の言う馬鹿者達と、それを仁王立ちでガミガミ説教している拓海君がいた。

因みに大弥君だけたんこぶは3段になっている。


「あはは...」


「...説明するけど、隼人ってのは第6席の鼬鎌隼人いたちがまはやとのことで、彼は自称情報屋でゼフュロスを名乗っているからそっちで呼ばれる方が多いわ、生徒会とも繋がりがあってよく生徒会室にいるらしいわ、そして...」


玲音ちゃんが瑠璃ちゃんの方をジト目で見ると、瑠璃ちゃんは正反対の笑みを浮かべてとても嬉しそうに続きを語った。


「私の婚約者なんです〜!」


理解が出来なかった。


「婚約者!?」


「はい!」


「婚約者って結婚を約束した人のこと?」


「そうですよ?」


「...なんで?」


「先程ちらっと実家の話をしましたよね?」


「うん」


実家の癖でどうしても敬語になってしまうと先程瑠璃ちゃんは言っていた。

「私の実家は水恋神社っていうそれなりに大きい神社でして、隼人くんが確か鎌鼬かまいたちを祀る神社の一族出身でして、それで互いの結びつきを強くするために婚約することになったんです」


「そうだったんだ、でもそれって親に決められた婚約者じゃないの?」


「確かにそうなんですが、私と隼人くんは幼馴染でして、私は彼のことを...愛して

ますから」


顔を真っ赤にして愛してるという瑠璃ちゃんはまさに乙女で、とても可愛らしかった。




「へ...へっきしょん!」


「風邪かい?ゼフュロス?」


「きっと誰かが俺のこと噂してんだよ」


「そうか...ところで君はいつまでソファに寝転んでいるんだい?」


「そうだな...姫が迎えに来たら、かな」


「成程、じゃあ凍華、彼のお姫様を呼んできてくれ」


「オーダーを受理、直ちに参ります」


「...冗談に決まってんだろ?わざわざ姫を無駄に歩かせるわけねえだろ」


「そうかい、ではついでに第2席を教室に連れて行ってくれ、彼は研究室にいるだろうからね」


「へいへい、対価はそうだな...今度生徒会しか知らなさそうな情報でももらおうかな」





「ボクさ、第7席に会いたいんだけど、知らない?」


瑠璃ちゃんが衝撃のカミングアウトをして照れている中、まだ正座しているリューゲ君は拓海君に質問していた。


「...奴か」


拓海君はあからさまに嫌そうな顔をしている。


「兄さん月華のこと苦手だもんね〜!」


「拓海君が苦手って、どんな人なの?」


私の質問に答えたのは教室の中にいた誰でもなかった。


夜神月華やがみげっか、あいつはナルシストで自称吸血鬼の末裔、まあ言っちゃえば変人だ」


声の方を見ると、パーカーの上にブレザーを羽織って、フードを被った男子が扉にもたれかかっていた。

フードからはみ出た髪の毛は茶髪でところどころ灰色が混じっており、少しボサボサだった。


「隼人くん!」


姿を視認した瑠璃ちゃんは一目散に駆け出し、そのまま抱きついた。


「もう!高等部初日なのにどっか行っちゃって!心配したんだからね!?」

「わるかったよ姫、生徒会室で寝てたら遅れちまった」


隼人くん、と呼ばれた男子も抱きついてきた瑠璃ちゃんの背中に片手を回し、空いたもう片方の手で頭を撫でている。

隼人くんと呼ばれ、瑠璃ちゃんが敬語じゃなくて人目を気にせず抱きついたということは...


「彼が鼬鎌隼人いたちがまはやと、第6席で瑠璃の婚約者よ」


「いかにも!俺が情報屋ゼフュロスこと鼬鎌隼人だ!まあゼフュロスとでも呼んでくれ!お前のことは知ってるから自己紹介は不要だぜ、夜城天音、よろしくな?」


情報屋の名前は伊達ではないようで、入学式にいなかったのにもう私のことを知っているようだった。


「よろしくね」


「...むん...」


瑠璃ちゃんは自分が抱きついているのに私と会話することがお気に召さなかったようで、ゼフュロス君を少し強く抱きしめた。


「仰せのままに、姫」


ゼフュロス君は瑠璃ちゃんがどうしてほしいのかわかったようで、同じ様にぎゅっと抱きしめた。

既に二人だけのあまあまな空間を創り出していた。

3分位経つと、瑠璃ちゃんは満足したようで、抱きしめる腕を緩め、ゼフュロス君もそれに応えて手を離した。


「で、これお土産」


ゼフュロス君が廊下から何かを引っ張り出したと思えば、それは青く長い髪をボサボサにし、制服の上に白衣を着た長身の女子だった。


「入学祝いってことで特別情報だ!こいつは第2席の聖奉飛彩せぶひいろ、エクソシストの名門聖奉家出身のマッドサイエンティストで、ついた呼び名が“聖奉の異端者”、見た目と私って一人称で間違われやすいけど列記とした男だ、ちゃんとちんこが付いてる」


ゴホン、と瑠璃ちゃんが咳払いしてゼフュロス君を軽く叩いた、


「彼がどんな人なのか理解したけどさ、なんで寝てるの?」


「さっきも言ったがこいつはマッドサイエンティストでな、生徒会からの見込みもでかくて研究室もらってんだ、そこで日々研究してんだけど多分こいつ25日間籠もって寝てない、なんの研究しているのかは対価を要求するからな?」


人って25日間も睡眠を取らなくても生きていける生物だったっけ、いや彼らは魔術師だった。

みんなで会話をするが、その間も飛彩君は静かに眠り続けていた。








後書き

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