登場は印象的に。

日本の最東端は南鳥島と、誰もが地理で習うだろう、しかし実際は違う。


魔術学園のあるのは絶海の孤島、富瀬島ふせとう、日本の真の最東端。

そこにある建物は学園の生徒が使用する学生寮、そして学園の運営する店のみ。

寮は同学年の生徒と同じクラスの同性との相部屋で、店には生活必需品はもちろん、ゲーム機等の娯楽も売っており、映画館にゲームセンター、さらにはアミューズメントパークもある。

富瀬島の面積はなんと東京23区に匹敵するほどの広さ。


ではなぜそんな広い島がヒトに見つからないのか、答えは至って単純。


島が沈んでいるから。


そう、富瀬島は千年以上前に沈んだ島、しかし当時最強だった魔術師がなんとか利用できないか考え、島全体を絶対に割れないガラスのような魔術で覆い、中の水を抜きそこにこの学園を作ったという訳だ。


そんな大昔からある島にあるこの学園の叫ばないと奥まで声が届かないぐらい広い体育館のこれまた広い舞台の袖に私は待機していた。

舞台の下には200人の私と同い年の魔術師達がいる。

もうすぐあの大観衆の前でスピーチすると考えると足が震えてくる。


理事長と呼ばれた老人の方のスピーチが終わった。


『続いて、学年主席、雨野玲音あめのれいんさんによる宣誓です、それではお願いします』


私のいるところよりも奥から眼鏡をかけた少し長い、吸い込まれそうな艷やかな紫色の髪を内側に巻いた女子が壇上に出た。


『...宣誓、我々私立魔術師育成学園高等部一年生は、魔術師としての誇りを持ち、より学び、より鍛錬し、さらなる成長を遂げることを我らが始祖様に誓います、4月1日、新入生代表、雨野玲音』


簡素な魔術師の中ではありきたり(?)な宣誓に拍手が続いた。

舞台袖に戻ってくる雨野さんと一瞬目があった気がした。


『続いて、生徒会長より挨拶です、狼月凌駕おおかみつきりょうがさん、お願いします』


次に呼ばれたのは生徒会長、反対側からその姿を表した。


神々しい。


会長をひと目見てまず思い浮かんだのはその言葉だ。


リューゲ君のと似た髪型の黄色の髪、どす黒い赤なのに優しげな両目、その堂々たる姿、本能で怯んでしまうほどの気迫。

3歩後ろを歩くコバルトブルーにオレンジのメッシュが入った髪に大きなリボンをつけた女子は副会長だろうか。


「...狼月凌駕おおかみつきりょうが


リューゲ君が近くでもわからないぐらいの声で喋りだした。


「生徒会長にして現3年主席、魔眼を所有していてその実力は世界最強、始祖の転生者って言われてる、後ろの彼女が副会長現2年主席の冷原凍華すずはらとうか、いかなる時もポーカーフェイスを崩さず、会長に忠誠を捧げている......因みに密かに“サイボーグメイド”って呼ばれてるよ」


なんか最後の方だけ声がシリアスじゃなかった。


「なんか...全く知らない私でも敵わないってことだけはわかるよ...」


「あとこれからボクが喧嘩売る人達ね」


「そう...喧嘩を売る...え?」


彼の言うことに理解が追いつかないのはいつものことなのだが、今のはもっと理解するのにラグがあった気がする。

彼の顔は至って真面目だったのだが、今は少し不気味だった。


「ま、聞いてたらボクが会長に喧嘩を売る理由わかると思うよ」


私はひとまず目の前の会長のスピーチを聞くことにした。


『新入生諸君、まずは高等部への進級おめでとう、我々3年生と2年生一同歓迎するよ、我々生徒会は生徒全員が平等、自由でいられるように活動する、興味があれば是非話を聞かせてくれ』


聞いてる限りは私が中学校に入学したときの生徒会長のスピーチと左程変わらなかった。

ここからが本番だった。


『時に諸君、君達は現代社会をどう感じる?現代社会で中心となっているのは他でもないヒトであって、我々魔術師は影の存在となっている...何故だと思う?何故我々は隠れなければならない?何故我々の存在は、我々の歴史はなかったことになっている?僕はそれが不思議で仕方ない、個々の能力で見れば我々のほうが上なのは一目瞭然、僕はこの狂った世界の軌道修正をして見せる、魔術師が自由に過ごせる世界を創ると、僕は約束しよう』


全員の注目を自分に向け、半ば強制的に自分の支持者にする、圧倒的な話術。

もはや洗脳に等しいものだった。


会長の熱弁が終わると、どっと大歓声があがった。

歓喜の声が会長への圧倒的な信用と、自由への思いを代弁する。


魔術師が自由に過ごせる世界、それは彼ら魔術師にとって最高の世界だが、ヒトにとっても最高な世界なのだろうか。

そんなことをじっくりと考える時間はなかった。


『ありがとうございました、それでは編入生に挨拶をしていただきます、第8席、リューゲさんお願いします』


「じゃ、見てて」


会長と入れ替わりでリューゲ君が壇上に立ち、200人の前で礼をする。

真剣な顔つきが仮面だったかのように剥がれ落ち、いつもの無邪気な笑顔が姿を現した。


『どうも皆さん!編入生のリューゲです!日本人っぽい顔立ちなのになんで名前がカタカナなのって思ったかもしれませんが、僕はドイツ生まれの日本人だからこうなってます!編入早々ですけど、ちょっと今から喧嘩を売ろうと思います!』


堂々と喧嘩を宣言してしまった彼はマイクを取り外し、少し歩くと、舞台上から舞台袖にいる会長の方を指さした。


『会長サン、あんたさ、あれ4つ持ってるでしょ?でそれを使ってさっき言ってた魔術師が自由にすごせる世界を創るんですよね?』


「そのとおりだよ」


『それってほんとに自由なんすか?』


しん、と体育館が静まり返る。


『ヒトと平和に平等に暮らしたいという魔術師の思いは尊重されるんですか?それってもしヒトと魔術師が結ばれたいと願ったら結ばれるんですか?全ての魔術師って、それほんとにひとりも例外はいないんですか?』


「全てを救うことができるとでも?切りせてなければならないものなんて腐るほどあるさ」


『だからこそボクはヒトと魔術師が平等に過ごせる世界を創る、だから会長サン、これはボクなりの宣戦布告さ、せいぜい玉座でふんぞり返ってるといいさ、旧時代の王サマ』


そのスピーチに最初に反応したのは隣で黙り込んでいた副会長だった。


「固有名リューゲへの激しい憎悪を確認、排除を開始します」


彼女がそう喋ると悪寒を感じ、体が震えた。


「凍華、抑えて」


それを制止したのは、黙っていた会長だった、彼が命令するとおぞましい寒気はすぐに消え去った。


「質問、なぜ止めるのでしょうか凌駕様」


「君が僕のために起こってくれるのは嬉しいよ、でも僕はわくわくしてるんだ、今まで誰一人楯突かなかったからね、彼のような存在は初めてなのさ、だから楽しみなんだよ、彼の考えを捻じ曲げさせるときが...リューゲ」


「なんすか?」


「僕は待っているよ、君が僕と同じ高みまで上り詰めてくるのを、そうすれば僕の全てをもって君を叩き潰すよ」


『首洗って待っててくださいね』


リューゲ君は会長に歩み寄り、耳元で囁いた。

それを聞いた会長は目を見開き驚いた。


『...あ、ありがとうございました、では夜城天音さん、お願いします』


いよいよ私の番だ、前が随分と荒らしてくれたが、私は私でいい印象を勝ち取らないといけない。


一度深呼吸をして心を落ち着かせ、壇上に立つ。

マイクが入っていることを確認し、話し始める。


『はじめまして、夜城天音と申します、確か序列外で特別席って言ってたと思います、お気づきの方もいると思いますが、私は魔術師ではありません、ヒトです、でもなんの突然変異か、魔眼を持っています、聞くと前例がないそうです、正直右も左もわからない状態です、そんな私がこの学園に来た理由は、なぜ私のようなただのヒトが魔眼を持って生まれたのか知りたかったから、ここに答えがあると思ったから来ました、先程のお二人のような仰々しいことは何もわかりません、ただ自分を知りにきた、それだけです、どうぞよろしくおねがいします』


台に額が着くほど深く頭を下げた。

10秒ほど経って、頭を上げるが、正直怖かった、ずっと前を見たくなかった、でも私には頼れる友がいた。


大柄な彼はニヤッと笑い、拍手を始めた。

そしてそれに釣られるかのように会場の全員が拍手をした。

遠くの方にいる彼に感謝を込めてニッコリと微笑むと彼はサムズアップして返してくれた。





後書き

ご拝読ありがとうございます!

よろしければ応援や⭐︎を押していただけると作者の励みになります!

レビューしていただけたらもう頭が上がらない気持ちです!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る