噂の少年は命の恩人(?)

「ねえ天音、聞いた?あの噂」


「噂って?」


休み時間、クラスメイトから話しかけられた。


「まだ知らないの!?」


オーバーリアクションだと思うほどびっくりしている、私は学校の人とは広く浅くをモットーに関わっているけど、知らないことがそんなに変だろうか。


「最近この辺にイケメンが出没するんだって!それも私達と同い年ぐらいの相当のイケメン!」


「はあ...」


イケメン...そんな言葉を聞くと中3女子という生き物はいても経ってもいられないものだ、私も少しは興味がある。


「身長が167cmぐらいかな?それでいかにもいたずら小僧!って感じらしくて」


「へ、へえ...」


その特徴に私は心当たりがあった、いやまだあの少年とは限らない、似た容姿で似た性格のただのイケメンかもしれない。


「それで髪の毛が真っ白でね、片目に眼帯しててもう片方は真っ赤らしいよ!」


「...」


私の心当たりと完全に一致していた、流石に白髪に片目は眼帯もう片目は赤なんて、同じ人なんてこの辺にいないだろう。


「天音?どうしたの?」


「私...その人知ってるわ...」


「本当!?今度紹介してよ!」


「いや、会えるかわからないけど...」


本当に彼は事故の時に会っただけでそれ以来見かけていない、出会える確証なんて微塵たりともなかった。


「わかった!期待しないで待ってるね!」


クラスメイトは私の席から離れていった。


_キミ、いい眼をしているね_


「...口説き文句、じゃないよね...」


少年の言葉が脳裏に浮かぶ、私にはどうしてもあの言葉が眼の色を褒めただけの言葉とは思えなかった。

それに知らない方が良いこととはなんだろう、少年の迫力に怯えて聞けなかったが、そんなことを言われると知りたくなってしまう。

そのことを考えてしまって、その後の授業はどうにも集中できなかった。

空は私の心情とは裏腹に、雲一つない晴天だった。




それはある日、クラスメイトとカラオケに行った帰りだった。


「...情報だとこの辺にいるはずだけど...何処行ったかな...」


曲がり角からあの少年がスマホを見ながら歩いてきて、そしてすれ違った。

学校で噂になっている彼にクラスメイトは一瞬で気づいた、そしてその肉に飢えた野獣のような目は一斉に私に向けられた。


「な、何!?」


「天音って確か彼と面識あったよね?」


「まあ...」


「じゃあ話しかけてきてよ!ほら!」


半ば強引に背中を押され、彼の後を追うことになった。

彼は誰かを探しているようだったけど...一体誰だろうか。

彼の後をこっそりとつけると、彼はショッピングモールの立体駐車場の前で止まった、そしてスマホをしまうと、こちらを振り返ってくる、どうやらつけていたことはバレていたようだった。

その真紅の瞳は、私のことを真っ直ぐに射抜いてきた。


「久しぶりだね、元気だった?」


「ええ...やっぱりあの日何があったのか聞きたくて」


少年は顎に手を当てて少し考えると、先程までのあっけらかんとした声色とは違う、重みのある声色で言葉を紡いだ。


「...夜城天音」


「え?なんで...」


なんで私の名前を知っているの、と聞く前に彼は続けた。


「碧眼の中学3年生、誕生日は3月7日、特出した能力はない、身長も平均、いたって普通の少女...ボクはキミの事を一方的に知っている、知ることができる、そんな相手にこれ以上近づくのかい?」


彼の言ったことは全て合ってた、合っていたからこそ、何処でその情報を仕入れたのかがわからない、だからこそ恐怖が私の心を支配する、冷や汗が出て、脚が子鹿のようにガクガク震える。


「これが最後の忠告だよ、これ以上ボクについてきたら、キミは必ず不幸になるだろう、ただのヒト...ではないけど、ボクはキミのような優しい女の子はもう2度と巻き込みたくない」


私が膝から崩れ落ちる中、彼はコツコツと足音を鳴らしながら立体駐車場に歩いていった。





後書き

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