序章:学園編入篇
出会いは鮮烈に。
夢を見ているようだった。
目の前で起きている事象が私には理解できなかった。
ブォン!と剣を振る音がまた耳を刺す。
「やるじゃん!」
「なんなんだよお前は!お前の術式は!意味がわからん!」
少年たちの声が暗い街に響き渡る。
彼らが使っているのは本物の剣だ、肉を裂き、命を容易に奪うことができる物だ。
「そろそろ終わらせようか!_____“__”」
白髪の私と同じぐらいの背丈の少年が大きく息を吸い、その単語を口にした瞬間、彼は消えた。
逃げた、とかそういう話ではない、唐突に目の前から姿が消えたのだ、まるで透明になったかのように、彼の姿は何処にもなかった。
「な!?消えた!?何処行った!」
先程まで鍔迫り合いをしていた大柄な少年は驚いていた。
「ここだよ」
白髪の少年の声が聞こえたのは大柄の少年の後ろだった。
彼は消える前に“転移”と言っていた。
彼はその言葉の、読んで字のごとく、本当に相手の背後に転移したのだ。
「動かないで、無益な殺生は嫌いだからね」
首に剣を突きつける、赤い血が皮を切り裂いた剣をツーッと伝って白髪の少年が手に持つ小さな瓶吸い込まれる。
すると先程までの殺意を体現したような声ではなく、なんとも腑抜けた声が白髪の少年の口から出た。
「はい!ボクの勝ち!」
大柄の少年も観念したようだ、剣をしまい、優しい眼差しを向ける。
「あー!負けた!俺の負けだ!お前すげえな!あの攻撃全部かいくぐりやがって!どんな術式ならあんなことできるんだよ!」
「ふふん!それはだね、企業秘密さ!」
先程まで殺し合いをしていたとは思えない程の仲の良さだった。
私は気になった、彼らは一体何をしていたのか、さっきから言ってる術式とは何なのか、知らないほうが幸せかもしれない、それでも私は今まで体験したことのない好奇心を抑えきれなかった。
「あ、あの...」
声をかけると2人は同時にこちらへ振り向いた。
「あんたの連れか?一見魔術師にゃあ見えねえけど...ってまさか!?」
「キミは...まさか本当についてくるとはね...降参だね、これは」
「あの、今何してたのか教えてくれませんか?」
2人はめんどくさそうな顔で見つめ合った。
「あんたがつけられたんだからあんたが説明してくれよ」
「えー、まあ、ボクの責任か、めんどくさいけどやるしかないか...何処から説明すればいいのやら」
私は知ることになった、人間には、私のような普通の“ヒト”と、生まれながら一つの術式をその身に宿した“魔術師”の2種類が存在するということを。
私、
身長も体重も普通で、運動能力、学力も普通、友人の数も普通で、今も普通にどの高校に進学するか悩んでおり、親にも先生にも、もう秋になるから早く志望校決めないといけないと散々言われている。
今思ったのだが、私はもしかするととても肝が据わっているのかもしれない、いやもう確定で心臓に毛が生えている。
なぜなら横断歩道の真ん中で大型トラックがこちらめがけてどうみても違反速度で迫ってきてるのにやけに冷静に自分のことを振り返っているからだ。
運転手はどうやら眠っているらしい。
居眠り運転で轢き殺されそうなのに私は冷静でいる、なんで死に直面した状況で自分の長所に気がつくのかな。
ブオオンと大きな音を立ててトラックがもう私の目の前に迫ってきている、ああ、私の命は14年11ヶ月で終わるんだな、なんでこんな短いのかな、世界は理不尽だ。
重い衝撃が轟音とともに私に襲いかかり、私は全身骨折して血だらけとなり、この世を去った。
はずだった、死を覚悟して目を閉じたが、いつまでたっても衝撃がないため、おそるおそる目を開くと私はいつの間にか歩道に立っていた、トラックは奥の方で単身事故を起こしていた。
「...え?なんで生きてるの?」
もう目の前にはトラックのフロントがあった、運転席は見上げないと見えないような位置だった、生き残れる確率は0に等しかったはずだ、それなのになんで私は無事に事故を目撃してるのだろう。
「危なかったね〜、あと1秒でも遅かったらキミ死んでたよ」
不意に頭上からお気楽な声が聞こえ、見上げると塀の上に白髪の少年が座っていた、少年と言っても私と同い年ぐらいだろう。
少年は私のことをじっと見ている。
彼は一部始終を見ていたのだろうか、なら聞こう。
「あの...なんで私は助かったんですか?」
「フフン、それはね...」
少年は飛び降り、いたずら小僧のような笑みを浮かべた。
「企業秘密だよ」
少しわかったことがある、この少年、本物のいたずら小僧で私のことをおちょくっている。
そこまでもったいぶられると余計気になってしまうのが人間の性というものだ。
「なんで教えてくれないんですか?」
返事をした少年の声は別人のように冷たく、息を飲むほどの迫力があった。
「知らないほうが幸せなことだってあるんだよ」
つい先程までそこに立っていた少年とは全くの別人だった、本能がそれ以上聞くなと警鐘を鳴らしている、本当に聞かないほうがいいのかもしれない。
少年は私の顔を覗き込んできた、彼の吸い込まれそうなほどに深い紅の瞳が真っ直ぐにこちらを射抜いてくる。
「...キミ、いい眼をしているね...」
確かに私の眼の色は他の人とは違う、でも日本人離れしているせいでなんどいじられたことか、正直この眼は憎かった、だが彼はいい眼と言った。
「変な色だと思いますが?」
「まあ、わからないだろうね、それじゃ」
行ってしまった...本当に嵐が過ぎ去ったみたいだった。
その後私は被害者ではなく目撃者として警察の事情聴取を受けた。
「...きっとまた会うよ、キミがその眼を持っているからね...さーて、ボクは試験頑張らないとね!」
知らないほうがいいこともあるけど、キミは知ってしまうだろうね...また会うのは学園かな...
少年はそう呟いて、文字通り何処かへ消えた。
後書き
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