第22話:決断

 エマたち四人は予言精霊ディースの言葉を信じた。

 このまま村に留まったら大切な人たちを巻き込むと判断した。

 どうするべきか、それぞれが自分の意志で決めた。


「急いで村をでます、保存食とスライム水袋をいただいて行きます」


 エマは父親の村長に口出しされないように、皆の前で言い切った。


「俺も一緒に行く、父さんの命の恩を返せていない」


 ライアンも迷う事なく言い切った。

 幼馴染を見捨てるなんて、ライアンには考えられない事だった。


「やったね、これで効率良く経験値を稼げる」

「美味しいベーコンと生ハムをもらって行くよ」


 カインとアベルもライアンと同じだった。

 貧しい辺境の村で同じ年に生まれ、子供会で競い合いながら育ったのだ。

 知らず知らずの間に絆が強まり、いつか四人だけで狩りをしようと約束していた。


「十分に休んでいけ、大人たちで必ず護ると言ってやりたいが、無理だ。

 四人の話を聞いていると、次はインターミーディア・ヴァンパイア以上が襲ってくるに違いない。

 今の私たちでは、レッサー・ヴァンパイアが相手でも守ってやれない。

 申し訳ないが、自分たちの力で生き抜いてくれ」


 エマの父親であるガブリエルが、村長として苦渋の決断をする。


「村長の娘として、村の安全を優先するのは当然です」


「インターミーディア・ヴァンパイアくらい今の俺たちなら斃せる。

 ハイア・ヴァンパイアが襲って来たとしても、俺が防いでいる間にエマが斃す。

 村長、心配しないでください」


「そうそう、雑魚は俺たちが引き受けるから」

「予言精霊ディース、予言が変わると怖いから、ついて来てもらうよ」

 

 基本的には賢く、冷静に物事を観察して問題を対処するアベルが言った。

 自分たちが村の為を思って出て行っても、悪神ロキが村を襲っては意味がない。

 悪神ロキの考えが変わったのを知るためには、ディースの同行が必要だった。


「えええええ、一緒に行くの?!」


 予言精霊ディースが不服そうに言う。


「当然ですよ、予言が変わったらこの村が襲われるのです。

 残った私たちも襲われるのですよ。

 インターミーディア・ヴァンパイアが率いる、悪神ロキの眷属たちから逃れられると思っているのですか?

 幼い子たちの為にも、私たちが頑張らないといけません」


 精霊族の長に言われて、予言精霊ディースがしかたなく受け入れた。


「分かったわよ、でも私だけじゃいやよ。

 アールヴ、あなたも来なさいよ、カインとアベルに魔術を教えなさいよ」


「えええええ、私は村に残って皆に魔術を教えるわ。

 数が多いから、その方が村の守りが強力になるわ」


「ウソおっしゃい、村人が使える程度の魔術なら、他の子で十分よ。

 カインとアベルはレベル上がっているから、アールヴが教えるべきよ」


「アールヴ、ディースの言う通りよ、あなたが行かないといけません」


 予言精霊ディースと魔術精霊アールヴが醜い言い争いをしたが、まだ幼い精霊を守りたい長の命令にアールヴが従った。


「ですが、あなただけに負担はさせません。

 私は幼い子たちを守るために残らないといけませんが、他の子も付けます。

 ハミンギヤ、フィルギャ、ワルキューレ、あなたたちもついて行きなさい」


 新たに名を呼ばれた精霊たちは文句を言わなかった。

 他の精霊も四人について行くことになったので、アールヴとディースもついて行くことに関しては言い争うのを止めたが、今度は違う事を言い争いだした。


「カインとアベルに魔術を教えるのは良いけれど、報酬が欲しいわ」


 魔術精霊のアールヴが身勝手な事を言い出した。


「あ、だったら私にも何か報酬をちょうだいよ。

 何度も予言させたのだから当然よ」


「長、精霊を助ける事を条件に力を貸すと言ったわね?

 更なる追加報酬を要求するのは、契約違反だと思うのだけれど?」


 エマが精霊族の長に文句を言った。


「申し訳ない、精霊も神々と一緒で身勝手な所ある。

 よく言って聞かせるから、今回だけは許して欲しい」


「分かったわ、今回だけよ」


「分かっている、一度だけだ。

 アールヴ、ディース、それほど報酬が欲しいのなら与えてやろう。

 精霊族の長の地位を与えてやろう。

 全ての精霊を守る責任を背負って生きるが良い」


「ひぃいいいいい、嫌よ、そんな責任背負いたくないわ」


「いや、絶対に嫌、何で私がそんな面倒な事をしないといけないのよ」


 アールヴとディースが口々に文句を言う。


「そうか、分かった、文句を言うだけで何もしないと言うのなら、二人は不要だ。

 精霊族から追放する、どこでも好きな所に行くが良い」


「えええええ、嫌よ、大魔境で独りで生きて行けるわけないじゃない!」


「そうよ、そうよ、無理を言わないでよ」


「この村で暮らせなくなったらどうせ滅ぶのだ。

 何の役にも立たないどころか、幼い者たちが生きるのを邪魔をすると言うのなら、追放するのが当然だろう。

 追放が嫌だというのなら、エマとの約束を守るために殺す。

 ワルキューレ、二人を滅ぼしてしまいなさい」


「御意」


 長に命じられた精霊は、騎士のように武装していた。

 七色に光り輝く剣を抜き、何の躊躇いもなく二人を斬り殺そうとした。


「待て、待って、待って、何でもするから滅ぼさないで!」


「予言する、ちゃんと予言する、報酬もいらないから滅ぼさないで!」


 アールヴとディースはワルキューレの剣を間一髪で避けながら言った。


「待て」


 さすがにヴァンパイア・バットから逃げ続けた古老の精霊だが、誰の目にも二撃目は逃げきれないと思われたから、長が止めなければ確実に殺されていた。


「長、多くの精霊をつけてくれてありがとうございます。

 ただ、欲張らせてもらえるなら、物を保管できる精霊はいませんか?

 あるいは物を運んでくれる精霊はいませんか?

 獲物は沢山狩れると思うのですが、私たちだけでは運びきれないのです」

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