第21話:予言精霊ディース

 神々の隠された悪行を知り、敵は悪神ロキだけではないと分かった。

 余りのショックに、村人たちは自暴自棄になりそうだった。

 だがそんな村の雰囲気をエマが一変させた。


「神々が昔から人を争わせて楽しんでいたというのでしたら、私たちが何を考えようと何をしようと何も変わりません。

 これからも大魔境の魔獣と悪神ロキの眷属が襲ってくるのです。

 これからも愛する家族を守るために精一杯戦うだけです。

 私はこれまでと変わる事無く母上様を助けるために戦います。

 貴方方も、愛する家族のために精一杯戦ってください」


「エマの言う通りだ、俺には神々の考えなどどうでも良い。

 父さんを助けてくれたアイリス様を助けられたらそれで良い。

 その為にテュール神の加護が必要なら使わせてもらう、それだけだ」


 エマに続いてライアンが堂々と言い切った。

 その言葉にアイリスに助けられた人たちは命の恩を思い出した。


 以前から神々が悪意を持って人と接しているなら、真実を知ったからといって、何一つ変わらないと思った。


「分かった、その通りだ、神々が何を考えようと、人をどう扱おうと、精一杯生きて行くしかない、俺もこれまで通りアイリス様に命を恩を返す」


 ライアンの父親、自警団長のマクシムも言い切った。


「そうだな、それが人の道だ」

「人に味方する神がいるなら、その方を敬うだけだ」

「魔獣や眷属と戦わせるために力を与えると言うのなら、もらえば良い」

「そうだな、もらわずに殺されたらバカみたいだ」


 村人たちの心が、アイリスを助けるという目的にひとつになった。

 これまでも協力し合っていたが、どこか神に頼る気持ちがあった。

 だが今は、神を利用する気でいた。


「いいじゃない、神々を利用する気になったのね。

 だったら良い事を教えてあげる、特定の神に祈ってから魔術を使う事で、必要な魔力が少なくなって、破壊力も大きくなるのよ」


 精霊がエマに話しかけてきた。

 大魔境で最初に話しかけてきた、精霊たちの長とは違う精霊が話しかけてきた。

 

「本当か、それが本当なら、今まで魔術が使えなかった俺でも魔術が使えるようになるのか?」


「う~ん、それはやってみなければ分からないわ。

 でも、貴男、軍神テュールの加護を受けているのでしょう?」


「ああ、受けている」


「特定の神に気に入られれば気に入られるほど、他の神に嫌われるのよ。

 だから、他の神の影響が強い属性の魔術は使い難くなるの」


「だったら、加護を受けていない俺たちはどうだ?」

「色んな神の魔術を効果的に使えるのか?」


「ええ、使えるわよ。

 ただ、使う魔術が偏って一柱の神を頼り過ぎると、その神の加護を受ける事があるから、そうなると、これまで使えていた魔術が使えなくなる事もあるわ」


「ひぇえええええ、それは怖いな」

「だったら、危険のない時に、普段使わない属性の魔術を使えばいいよな?」


 カインとアベルが、貴重な話を教えてくれた精霊に話しかける。


「貴重な話を聞かせていただき、ありがとうございます。

 あなたの名前を聞かせていただけますか?」


 エマが精霊の名前をたずねたのは、自分の状況で何ができるのか、聖治癒術以外の魔術を使う方法がないか知りたかったからだ。


「私はアールヴよ、精霊族の中では魔術について一番詳しいから、何でも聞いて」


「貴女だけ狡いわよ、私だって人の役に立つんだから。

 私はディース、予言ができる特別な精霊よ」


 だが、他の精霊が口を挟んで来たから聞けなくなってしまった。

 いや、もっと大切な事が聞きたくなって飛んでしまった。


「予言ができるのですか?!

 だったら、母上様が助かるかどうか予言してください」


「……ごめんなさい、神々が介入している事は予言しても結果が変わってしまうの。

 あいつら、自分の欲望のままに世界の理まで変えるのよ、ひどすぎない?!」


「そうですか、それでは仕方ありませんね……」


「ああ、でも、はっきりしている事もあるわ。

 悪神ロキは神々の中でも特に性格が悪いから、必ず襲ってくるわ」


 予言精霊ディースの言葉は何の意味もなかった。

 悪神ロキが眷属を使って襲ってくる事は、誰にも分かっていた事だ。


「いや、そんな事分かり切っているから」

「襲ってこないと思う方がおかしいから」


「うっ、だったらもっとはっきりとした予言をしてあげる。

 悪神ロキの眷属は今晩も襲ってくるわ」


「「「「「今晩だと?!」」」」」


 四人は平気で精霊たちと話していたが、他の村人はひと言も発する事なく、黙って聞いていたのだが、新たな予言を聞いて思わず驚きの言葉を吐いた。


「予言精霊ディース、それは、村を襲うと言う事か?

 それとも、俺たち四人を襲うと言う事か?」


「ちょっと待って、また見てみるから。

 ……他の神々の介入もなさそうだし、ロキの執念も全く衰えていないわ。

 エマよ、ロキが狙っているのはエマよ」


「だったら、私が村を出たら、村は安全という事ね?」


「また聞くの、神々が介入している未来を見るのは疲れるのよ!」


「私たちの役に立ってくれると約束しましたよね?

 今日はこれで最後の質問にするから、もう一度だけ見てちょうだい」


「ディース、見てあげて、エマは私たちの恩人なのよ」


 精霊の長が後押しした。


「分かったわよ、見るわよ、見れば良いんでしょう」


 四人だけでなく、村人全員が息をするのも忘れて予言を待った。

 その予言次第で、エマの未来が決まってしまうのだ。


「分かったわ、エマが村を出たら、ロキは眷属に追いかけさせるわ。

 でも、これは今予言した事だから、また変わるかもしれないわ。

 ロキは本当に性格が悪いから、狙った相手が強敵だと、大切な人を人質に取ってでも勝とうとするの。

 以前には、狙った相手を苦しめるために、先に家族を殺した事があるわ」

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