第23話:レベル上げ
「荷物を自由に移動させられる精霊がいます、セーレ、貴方も行きなさい」
長が選んでくれた精霊は、多くの荷物を転移させる事ができた。
カインとアベルがセーレに頼んで目の前で試してもらったが、肉類を保存する地下室から、特別製のベーコンとハムを転移させた。
「やったね、これで少ない荷物で移動できるね」
「なあ、俺たちが狩った獲物を村に転移させる事もできるのか?」
アベルの質問はとても大切な事だった。
これまでは美味しい魔獣を狩ってもその場に捨てて行かなければならなかった。
だが狩場から村に転移させられるのなら、全て村の収穫にできる。
「できるぞ」
「やったね、これで大魔境で解体しなくてもよくなる」
「子供会の年少組に美味しい肉を食べさせてやれる」
「料理した物を転移させられるのなら、これまでのように料理しなくても良い。
料理に使っていた時間を、解呪に必要な素材を探すのに使える」
「そうですわね、母上様の解呪に必要な材料を探す時間が大切です。
今取り寄せてくれたハムとベーコン以外の食べ物は、夜営地についてから転移させてもらいましょう、父上様、何か料理した物を常時ここに置いておいてください」
「分かった、だが神殿室に匂いの強い料理を置いておくわけにはいかない。
台所と食堂に置いておくから、好きな物を好きなだけ持って行くが良い。
何なら全部持って行っても好いぞ」
「ありがとうございます」
四人は香肉のベーコンとハム、スライム水袋だけを持って村を出た。
猟犬見習たちがついて来られる最速で駆けた。
以前は村から一日かかっていた夜営地まで、たった四時間でたどり着いた。
「今日はここでヴァンパイアたちを待ち受けよう。
転送精霊セーレ、俺が狩りをするから、獲物を村に送ってくれ」
「分かった」
「カイン、アベル、猟犬たちに周囲を警戒させてくれ。
ヴァンパイア除けの材料も集められるか?」
「「まかせろ」」
「ハミンギヤ、フィルギャ、ワルキューレ、ディース、アールヴ。
精霊の力で獲物を見つけられるか?」
「「「「アールヴ」」」」
「分かったわよ、探知魔術を使って獲物を探すわよ
ワルキューレ、あなたなら自力である程度の魔獣を狩れるでしょう。
知らんぷりしていないで、手伝いなさいよ」
「獲物を探すだけならアールヴだけで十分だ、我は他の三人を守る」
「ワルキューレはそんなに強いのか?」
ライアンがアールヴに聞いた。
「レッサー・ヴァンパイアが相手なら勝てる」
「だったらカインとアベルが斃せる程度の魔獣を追い込んでくれないか?」
「最悪の場合は我が斃すから、もっと強い魔獣を追い込んでもいいか?」
「カインとアベルが経験値を稼ぐのに効率が良ければかまわないが、そうしなければいけない理由があるのか?」
「分かっていないのか?」
「何の事だ?」
「エマとライアンが強くなり過ぎたから、この周りから魔獣が逃げている。
エマとライアンに勝てる、あるいは縄張りを奪いたい、そんな魔獣しかこの周りには残っていにない」
「……実感はなかったが、それほど強くなっていたのか……
分かった、ワルキューレが斃せる魔獣なら追い込んでくれていい。
その代わり、カインとアベルに止めを刺させてくれ」
「了解した」
役割分担が決まったので、ライアンは夜営地から離れた場所で狩りを行った。
エマ、カインとアベルは夜営地に残ってレベル上げをする事になった。
ライアンの身体能力とアールヴの探索能力で直ぐに獲物が見つかった。
エマとライアンが発する強者の気配にも動じることなく、夜営地近くに留まっていた大魔獣、4000kg級のクマ系魔獣アルクトドゥス。
一気にレベルが上がったライアンだが、普通ならとても相手にならない大魔獣だ。
「俺の経験値になれ!」
ライアンは精霊の長から教わった神々の身勝手を受け入れていた。
そもそも最初から神々を妄信していなかった。
悪神ロキという存在があるのだから、神が正しいだけではないと分かっていた。
だから、迷うことなく軍神テュールの加護である身体強化を使う。
利用できるモノは何でも利用して、効率的にレベル上げると決めていた。
必要なら軍神テュールと戦う事も覚悟しているからだ。
奇襲の一撃は見事にアルクトドゥスの頸動脈を断ち切っていた。
以前のように首を斬り飛ばさないのは、できるだけ高く売るために、頭付き一枚皮に加工する事を考えての事だ。
「セーレ、このクマを村に転移させてくれ。
アールヴ、次の獲物はどこだ?」
一気に十もレベルが上がったのに、ライアンには何の感慨もなかった。
いくらレベルが上がっても、それは目的を達成するための手段でしかない。
ライアンの目的は、父親を助けてくれたアイリス様の呪いを解く事だ。
どれほどレベルが上がっても、それで呪いを解けるわけではないから、うれしいとは思わないのだ。
「ここから少し北に行ったところにスースの群れがいるわ。
群れといっても八頭ほどの家族だけど、本当に狩るの?
1500kgもあるイノシシ系魔獣の群よ?」
アールヴが念をおす。
「奇襲して一頭でも二頭でも斃せればいい。
セーレ、斃したスースは直ぐに村に転移させてくれ。
危険だと思ったら夜営地とは逆方向に逃げる」
「分かった、動きを止めたスースから村に送る」
「奇襲して逃げるのなら好きにすると良いわ」
自分に被害が来ないのなら、どうでも良いと考えているアールヴだった。
ライアンは慎重だったが、何の問題もなかった。
アルクトドゥスを斃して一気にレベルを上げたライアンは、スース八頭に気付かれる事無く、連続して殺せるだけの早さと力強さを手に入れていた。
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