第9話:レッサー・ヴァンパイア
「飛んで火にいる夏の虫と言うが、まさかこんな簡単にヴァンパイアが死ににやって来るとは思っていなかった」
ライアンがゾンビを率いるヴァンパイアを挑発する。
「人間のガキごときが、高貴なヴァンパイアに逆らうな!」
「ふん、高貴だと、最下級のレッサー・ヴァンパイアが何を言っている?
どうせ主人のインターミーディア・ヴァンパイアかハイア・ヴァンパイアに、様子を見て来いと言われた使いっ走りだろう?」
12歳とは思えない的確な内容と辛らつな言葉だった。
いずれは大魔境で夜営すると決めていたからこそ、ずいぶん前から鍛錬を重ね知識を蓄積していた所に悪神ロキの呪いがあって、急ぎ新たな情報を集めていたのだ。
「おのれ、おのれ、おのれ、言わせておけば図に乗りおって!
ゆるさん、絶対に許さん、下僕にせずに引き裂いてくれる!」
「下僕だって、レッサー・ヴァンパイアごときが何を言っている?
お前が生み出せるのは、知性の欠片もないゾンビだけだろう?
そのような大言壮語は、せめてハイア・ヴァンパイアになってから言え!」
「おのれ、絶対に許さん、ぶち殺してやるからかかって来い!」
「偉そうに言いながら、自分から戦う勇気もないのか?
憶病者なら憶病者らしく、尻をまくって逃げればいい。
人間の子供を恐れて逃げたと、王国中に広めてやるよ」
「うぎぃいいいいい、死ね!」
ライアンの露骨な挑発に乗せられたレッサー・ヴァンパイアは、ヴァンパイア除けの香を乗り越えて襲って来ようとしたが、世界の摂理は変えられない。
もっと上位のヴァンパイアなら何か方法があったかもしれないが、最下級のヴァンパイアでは、香の激烈な臭いに鼻の奥を焼かれて激痛に地をのたうち回る。
「ホーリー・ピュアリフィケイション」
エマがレッサー・ヴァンパイアの隙をついて聖浄化術を放った。
「ギャアアアアア!」
身体中を焼かれる痛みにレッサー・ヴァンパイアが絶叫する。
エイル神の加護を受けたエマは、悪神ロキの眷属を浄化する事ができる。
まだレベルの低いエマだったが、レッサー・ヴァンパイアを重傷にできた。
「エマのレベルを上げる糧になれ!」
ヴァンパイア除けの香が立ち込める夜営地を越えたライアンが、レッサー・ヴァンパイアの手足を斬り飛ばして逃げられないようにした。
身動きできなくなったレッサー・ヴァンパイアを後回しにして、エマが夜営地を囲むゾンビたちを次々と聖浄化している。
ライアンだけでなくカインとアベルほどの実力があれば、ゾンビ程度なら首を刎ね飛ばすか心臓を貫く事で、ゾンビを斃す事ができる。
だが、ライアンもカインもアベルもゾンビを斃さない。
全てのゾンビをエマが斃せるように手助けするだけだった。
これも、四人が話し合って決めていた事だ。
四人の目的は一つなのだ、アイリスの呪いを解く事が目的なのだ。
エマの聖浄化術のレベルを上げる事が、目的を達成する事になる。
魔獣を斃しても悪神ロキの眷属を斃しても、エマ自身のレベルは上がる。
だが、悪神ロキの眷属を斃せば、聖浄化術のレベルも上がるのだ。
エマ自身のレベルがそれほど上がらなくても、聖浄化術のレベルが上がれば、アイリスの呪いを解く事ができるかもしれない。
神々の試練で知る事のできた解呪薬の材料を集めるのはもちろんだが、聖浄化術のレベルを上げられる機会があれば、他の三人が協力すると話し合っていた。
四人は聖浄化術のレベルを上げる機会があると確信していた。
神々の試練で悪神ロキの呪いを解く方法を教わっているのだ。
悪神ロキが眷属を送って邪魔すると確信していたのだ。
「焦らなくていい、こいつは俺が足止めする。
確実にゾンビを聖浄化してレベルをあげろ」
ライアンが、斬り飛ばされた手足を再生して逃げようとするレッサー・ヴァンパイアに、情け容赦のない攻撃を加えて再び手足を斬り飛ばす。
「ありがとうございます、助かります」
レッサー・ヴァンパイアが手足を再生させるのを見てあせっていたエマが、ライアンの支援に心からのお礼を言う。
百体近くいたゾンビを、一体ずつ確実に聖浄化していたエマが、突然二体ずつ聖浄化するようになり、しばらくして三体ずつ聖浄化するようになった。
四人が思っていたよりも早く聖浄化魔術のレベルが上がるという、うれしい誤算があったが、その分ライアンとカインとアベルのレベルが上がらない弊害もある。
「ホーリー・ピュアリフィケイション」
九十六体のゾンビを聖浄化したエマが、ライアンに手足を斬り飛ばされ続けるレッサー・ヴァンパイアに留めの一撃を放った。
最初にレッサー・ヴァンパイアに放ったホーリー・ピュアリフィケイションよりも、十倍以上神々しくなったホーリー・ピュアリフィケイションを放った。
それでなくても弱っていたレッサー・ヴァンパイアに、十倍以上強力になった聖浄化に耐えられるはずもなく、一瞬でチリとなった。
「ありがとございます、このお礼は必ずします」
「ああ、全て終わったらレベル上げに協力してもらう」
「そうそう、俺とアベルのレベル上げにも協力してもらうよ」
「領都で高く売れる魔獣を狩るからね」
「もうおしゃべりは止めて寝ろ。
特にエマ、一時間くらいしか寝ていないのだろう?
さっさと寝て少しでも体力を回復させろ。
もう村に帰るだけとはいえ、油断大敵だぞ」
「分かりました、遠慮せずに寝させてもらいます」
「俺もけっこう眠ったから、ライアンと一緒に見張りをするから、カインはもう少し寝て体力を回復させろ」
「分かったよ、後は任せるよ」
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