罪深き海

悪本不真面目(アクモトフマジメ)

第1話

 海へ行こうと思った。塀の中にいるアイツに会いに行く変わり者は俺くらいだろう。俺は海が好きだった。波をなびかせ俺たちをいつも誘っていた、アイツはさみしがり屋なだけなんだ。今頃海しょっぱい涙を出しているんだろう。法廷の時もしょっぱい涙を流して炎上していた。


 海はダイナミックなんだ。だからやりすぎた。そうアイツなりの愛情表現。


 被害者遺族はそれじゃあ納得はいかない。判決が無期懲役で死刑じゃないことに不服に思った人もたくさんいた。


 が、海なんだ。海はなんやかんやで必要なんだ。


 「別に魚なんて食わんでもええやろ!」

そういうことではないんだよ。


「別に夏休みは山へ行けばいいじゃないか!」

そういうことではないんだよ。


「だったら俺がザブーンって代わりに言ってやるぜ!」

そういうことではないんだよ。


 塀の中にいる海は随分小さくなってやせ細っていた。

「やぁ、調子はどう?」

「・・・・・・ザブーン、ザブーン、ザブーン!!!」

だんだん荒くなった。感情が暴れだそうとしている。


「おい、お前反省しているのか!」

刑務官がムチで海を叩いた。ピシッピシッ!


 しくしくと海は言った。


「何泣いてんだ、てめぇしょっぱいことしてんじゃねぇよ!」

また海はムチで叩かれた。


「おい、ちょっとやりすぎなんじゃないか?」

「やりすぎだと!?俺はな、こいつに家族殺されたんだぞ!」

「・・・・・・俺もそうさ」


「なぁ?」

「なんだ?」

「そういえば海がいた場所はどうなった?」

「お前、ニュースを見ていないのか?」

「なんだ?」

「埋め立てられるんだよ」

「あんなに大きいのにか?」

「まぁぽっかり空いたままも困るだろ」

「ガガーリンは地球は青かったと言っていたが」

「そうだな。今度からは地球は赤かったってなるかもな」

「赤なのか?」

「候補だがな、もちろん埋め立てられたら色々と施設が建つらしい、遊園地やら映画館、劇場や・・・・・・でも一番先に建てられるのは墓らしい」

「地球は墓かったか・・・・・・」

「そういえばお前のそのでかい笹かまはなんだ?」

「これか、これはアイツに乗るためのものだ?」

「それで乗るのか?」

「いいか?」

「ま、別にお前が中に入る分にはな」

「じゃあそうさせてもらうよ」


 俺は上半身裸になり、下に履いていた海パン姿となり中へと入った。


 海は静かにザブーンとした。

「それでは小さい」

そういうとビクっとして海は少し大きくザブーンとした。

「それでも小さい」

海はおどおどしながら大きくザブーンとした。


 そんなことを繰り返しているうちにいい波になった。俺はこの笹かまの上でその波に乗る。大きな波に乗ると自分が強くなったように感じる。大きい人間だ。俺は大きい人間だ。小さいことは水に流そうじゃないか。


 ザザブーン。


 きまぐれで大きい波がやって来た。俺はそれに飲まれ海へ落ちた。鼻に海水が入るしょっぱい痛い。不愉快だ。俺はガボガボしていた。俺は泳げない。


 ザブーンザブーンと波の音が俺をバカにしているように思えた。俺はここから出られたら刑務官にムチを借りようと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

罪深き海 悪本不真面目(アクモトフマジメ) @saikindou0615

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画